Inter BEE 2021

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Special 2023.11.09 UP

メッセージを伝えることが、コンテンツを作る人には大事だと思う〜ウクライナの映画監督招聘について結城崇史氏に聞く〜

境 治 Inter BEE 編集部

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(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

今年のInter BEEでは、1本の映画を丸々上映する企画があるのはご存じだろうか。ウクライナ映画「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)」の上映会が、16日17時から国際会議場2Fの国際会議室で行われるのだ。第二次大戦中に運命に翻弄されたウクライナ人の家族の物語を、オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督が描いた作品だ。さらにイサイェンコ監督が来日し、17日14時30分からのINTER BEE CREATIVE基調講演をはじめ数回にわたって話を聞くセッションも開催される。
これまでもInter BEEにクリエイターが海外から招かれることはあったが、今回の上映と講演はこれまでと色合いが違うように思える。一般の映画館でもウクライナ映画がかかることは少ないが、それが1本丸ごと上映されるのもあまりなかった。そこに込めた意志を、仕掛け人でNTER BEE CREATIVEのディレクター、結城崇史氏に聞いた。
(コピーライター/メディアコンサルタント 境治)

「坂の上の雲」以来のウクライナとの関わり

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これまでもINTER BEE CREATIVEでは海外のクリエイターや日本の映画監督を招いていた。印象としては作品の中身より技術的な側面にスポットを当てた人選だったように思える。
「Inter BEEが技術展ですので、VFXスーパーバイザーといった、クリエイティブと技術の親和性の高いかたを中心にお声がけしてきましたが、それに加えてクリエイティブにフォーカスした映画監督も国内外からお呼びしていました。『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督や、韓国の『猟奇的な彼女』のクァク・ジョエン監督に来てもらったり。基本、私のお友達ベースでお願いしてきた感じではありますが。今回ウクライナから監督をお招きするのは技術的な意味合いではないですしお友達でもない。これまでとは確かに同じクリエイティブでも趣旨が違いますね。」
ただ、ウクライナには何度も訪れたことがあり、縁を感じる国でもあったという。
「NHK『坂の上の雲』では2010年、2011年放送分で日露戦争を描くにあたって、その数年前からウクライナに行って旅順港を再現するなどの準備をしていました。今はもうロシア領になってしまったクリミア半島にロケハンや撮影に行ったり、現地のプロダクションと相談したり。当時はウクライナだけでなく、ロシアやバルト3国でも動いていました。」

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(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

だから昨年、ロシアのウクライナ侵攻が始まった時は大変なことになったと心配したという。
「実際、『鎌倉殿の13人』の制作ではウクライナのスタジオに発注していた仕事が、ロシアの侵攻のせいでそれまで制作していたものがパーになってしまったこともあり、他人事ではありませんでした。今回ウクライナからイサイェンコ監督をお招きできたのも、前々からのお友達を頼れたおかげです。」
訪れたこともあり友人もいて仕事上も関係があるウクライナで起きた戦争は、結城氏にとっては全くの自分ごとだったのだ。今年の夏「キャロル・オブ・ザ・ベル」が日本で上映され鑑賞した結城氏は強く心を動かされ、監督をなんとしてもInter BEEに招きたいと考えた。夏に映画を見て、11月のInter BEEに招くなんていささか無謀かもしれない。
「事務局に相談しつつ、航空券も取っちゃって、ダメだったら自分でかぶるつもりで進めました。」熱く語る結城氏には、映画を必ず見たいと思わせる熱量がある。

クリエイティブには技術の側面と、メッセージを伝える側面がある

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それにしても今回の招聘は、これまでのVFXスーパーバイザーのような人たちを招くこととは意味合いが違う気がする。
「もちろんずいぶん違う意味があります。これまでの招聘はどちらかというとテクニック、映像でこういうストーリーを描きたいからこういう技術が出てきました。そんなテーマでの人選が中心でした。ただクリエイティブにはそういうテクニカルな側面と同時に、メッセージを伝える側面があります。メッセージを伝えることは、コンテンツを作る人にとってはやっぱり大事で、『キャロル・オブ・ザ・ベル』を上映し監督を招くことで、今年はそういったことを来場する皆さんに感じていただきたいとの思いがあります。」
技術はストーリーを形にするためにあり、ストーリーにはそこに込められたなんらかの思いがあるはずだ。当たり前のようで、私たちはメディアやエンターテイメントという産業に携わる中で、ともするとその当たり前を忘れがちだ。

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(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

映画のタイトルはウクライナ民謡から生まれた楽曲で、戦争に翻弄され苦しむ家族たちを支える歌だ。ここでも音楽に込められたメッセージが人を強くする。16日の上映会にはぜひ多くの来場者に映画を見てもらいたいものだ。
11月17日に行われる基調講演ではイサイェンコ監督とともにゲストとして映像作家の貴志謙介氏も参加する。NHK在籍中に数多くのドキュメンタリーを制作してきた貴志氏は、ウクライナ事情にも詳しくこの映画も早くから紹介してきた。ディスカッションからウクライナの実情と、クリエイティブに込めるメッセージについても考えることができるだろう。
また基調講演とは別に、イサイェンコ監督による企画セッションが15日(水)16時からと、16日(木)16時からの2回に分けてINTER BEE CREATIVEのステージで行われる。この映画を通じて監督が伝えたかったことがテーマだ。この作品はたまたま戦争を舞台にした物語を撮ったら、完成後に本当にロシアによる侵攻が起こった。その偶然も含めて、私たちが何を受け止めるべきか、映画を見てセッションにも参加して考えたいところだ。

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出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ 監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ  脚本:クセニア・ザスタフスカ 撮影:エフゲニー・キレイ 音楽:ホセイン・ミルザゴリ プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ 2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/ビスタ/122分/ 英題:Carol of the Bells 配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 映倫G  (C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020
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結城崇史(ユウキ タカフミ)プロデューサー・VFXプロデューサー
株式会社スローネ代表
音楽業界でキャリアをスタートしアメリカに赴任中にCGと出会い映像業界に。
米国のVFXスタジオ、メディアコンサル会社を経て、NHKの「坂の上の雲」の制作の時に帰国し以来、数々の作品の制作に携わる。今年は「仕掛人・藤枝梅安」「リボルバー・リリー」「どうする家康」や来年1月放送予定の「鬼平犯科帳・本所・桜屋敷」の制作に参加。また2022年に自身の製作・制作した映画「桜色の風が咲く」(主演:小雪)が現在海外で順次公開中。また、アジア最大の短編映画祭;DigiCon6 Asiaの海外アライアンスを務めinterBEEクリティブではフォーラム・ディレクターを務める。
著書:「プロジェクト魂〜本気で仕事に打ち込む幸せ」

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