Inter BEE 2021

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Special 2024.01.18 UP

【Inter BEE CURATION】コンテンツ価値最大化に向けたテレビ局の新たな挑戦【VR FORUM 2023 レポート】

VR Digest編集部 VRダイジェスト+

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[登壇者](右から)
朝日放送テレビ株式会社 コンテンツプロデュース局長 井口 毅氏
関西テレビ放送株式会社 コンテンツ統括本部 コンテンツビジネス局 局長 竹内 伸幸氏
静岡放送 株式会社 事業変革推進室長 奈良岡 将英氏
中京テレビ放送株式会社 メディア戦略局長 桑原 久夫氏
株式会社ビデオリサーチ ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。

OTT経由での動画視聴時間の増加やコネクテッドTV(CTV)の浸透など、放送を取り巻く競争環境が激しくなる中、放送だけに頼らない、新たな軸の取り組みがテレビ局の間で始まっています。本セッションでは、独自の挑戦に取り組む放送局4局をお招きし、配信やD2C、地域創生など様々な領域における強みやコンテンツを生かした最新の成功事例を軸に、未来のテレビ局のあり方や事業変革のヒントを探りました。

■放送"以外"の伝送路の活用事例~コンテンツ価値向上の施策~

最初のテーマである「放送"以外"の伝送路の活用事例」の前に、その背景となるデータを合田から紹介しました。コロナ禍をきっかけに生活者のメディア接触は大きく変化し、当社のMCR/ex(全国主要7地区、男女12〜69才)データで見ると、コロナ禍中であった2020年〜2021年を境に地上波以外の動画視聴が増加し、地上波テレビの視聴時間を侵食する勢いに。(図1)

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(図1)

また、コネクテッドTVの普及によって配信プラットフォームの利用率も大きく上昇し、コネクテッドTVの利用可能割合は64%(個人全体、関東地区 ※視聴率世帯から抽出した参考データ)にまで達しました。

テレビスクリーンで様々なコンテンツを視聴できる環境となっている中、登壇の4局は放送以外にどのような伝送路を活用しているのでしょうか。

『エルピス』など、どの配信事業社でもよく見られている数々の話題ドラマを制作する関西テレビ放送(以下、関西テレビ)は、自社で配信プラットフォームを持たず、配信可能なOTTに全方位でコンテンツを供給することが特徴であり、アドバンテージになっていると竹内氏。動画配信事業の売上は直近5年間で128%に成長し、事業売り上げ全体の約半数を占めるまでになったといいます。「既存の放送収入に加えて、キャッチアップやSVODを主力とするコンテンツビジネス収入が増大した」(竹内氏)。また、原作のないオリジナル作品は権利者配分がもっとも少ないビジネスモデルであるため高収益化が狙えることに触れ、「これまで費用負担の大きさがネックであったドラマにおいても、利益をもたらすビジネスモデルができた」といいます。

朝日放送テレビ(以下、ABCテレビ)は、関西ローカルの深夜番組『相席食堂』がTVerでの配信を機に全国ヒット。2023年には「TVerアワード」特別賞3年連続受賞の快挙を成し遂げました。地理的・時間的制限のないTVerが巷の話題の受け皿になったと井口氏。「テレビの本放送とキャッチアップの両輪で巷の話題を繰り返しながら、コアな視聴者層を広げていくことができた」と続けます。2023年からはAmazon prime Videoを通じ、150の国と地域で配信。関西→日本全国→世界150の国と地域へと"伝送路の活用"によるリーチの拡大、さらには番組公式のファンコミュニティアプリ「FC相席食堂」を立ち上げ、「リーチ拡大の次はエンゲージメント向上の施策をとっている」と井口氏。また、伝送路に限らずイベントやグッズなどのフィジカル面も含めた、地上波×WEB×リアルイベントでのトータルリーチを図ることにも意欲的です。

一方、「配信売上は地上波売上の100分の1以下」という中京テレビ放送(以下、中京テレビ)。「いかに効率よく強力なオリジナリティを持ったコンテンツを制作するか」が課題だと桑原氏は述べます。そのような中、配信先のメディア特性にあわせたコンテンツ展開を実施。SVODでのオリジナルドラマ配信のほか、SNSで自社バラエティー番組のショート動画を公開し、短尺コンテンツへのニーズにも積極的に対応。「配信での再生数を増やすことにより、地上波への誘引を図っている」(桑原氏)といいます。また、月曜深夜放送(名古屋地区)の「オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。」を、全国29局に番販、放送していることを挙げ、自社制作番組の中では利益率が高いことを述べました。

系列の静岡新聞社とともに「静新SBSグループ」を構成する静岡放送は、「マスコミュニケーションを脱し、静岡の一人ひとりに向き合う」というスローガンを掲げ、自社アプリ「静岡新聞SBSデジタル @S+(アットエスプラス)」を運営しています。同アプリでは番組の書き起こし記事をはじめ、静岡新聞の記事、地元で人気の高いサッカーコンテンツなどの豊富なコンテンツを発信し、「どういったユーザーがどういったコンテンツに興味があるかを測る」と奈良岡氏はいいます。さらに、これまでは「経験や勘に頼った判断」だったところを、「誰もが一目瞭然なデータで判断」できるようデータドリブンな企業文化の醸成にも取り組んでいます。

このように、登壇4局の「放送"以外"の伝送路の活用事例」として、
・在阪、在名局は、ドラマとバラエティーをそれぞれコンビネーションしながら価値向上に取り組む
・静岡では、テレビ・新聞の取材力を活用しながら県民とデジタルの接点を持って、県民がどんな情報を望んでいるかを分析していく
ことが整理されました。

■多様な配信プラットフォームへの向き合い方とは?~放送以外も見越したコンテンツ開発~

コンテンツ配信プラットフォームが多様化する中、各テレビ局は配信プラットフォームへどのように向き合っているのでしょうか。後半のパネルディスカッションでは様々な切り口が見られました。

関西テレビでは、系列や外資・国内関係なく、あらゆる動画プラットフォームを通じてコンテンツを配信する「トータルリーチ戦略」をドラマ配信にて実施。「どこでもカンテレのドラマを視聴できる環境を作ることで、"カンテレブランド"の支持に繋がる」(竹内氏)といいます。また、この戦略がもたらす効果として、竹内氏は2つ挙げます。1つ目は視聴回帰。「供給先のOTTの視聴率ランキングを通じて注目され、配信を見た人が地上波での視聴に回帰する動きもある」といいます。また、強いコンテンツを強いOTTに供給することで、OTT側では視聴ランキングによるコンテンツ価値の客観的な評価や独占配信による会員サービスの充実など、テレビ側では宣伝効果があり、「双方に利益をもたらす」メリットがあると続けます。2つ目はトータルセールス。「"収入"ではなく"収益"で成果を確認することが大切」という考えのもと、「地上波+キャッチアップ+コンテンツビジネスの組み合わせによるトータルセールスで収益を上げる時代」(竹内氏)だと語ります。

竹内氏の話を受け、ABCテレビでは「『どれぐらいの収益をトータルで稼げているか』という点が番組の評価軸になりつつある」と井口氏。収益軸を「地上波の広告収入」「キャッチアップ、SVODプラットフォームでのセールスを含めた配信収入」「イベント、グッズ、DVD販売収入」の3軸にわけ、番組ごとの特徴に合わせて3つの総和をどう伸ばすかを制作現場にフィードバックしているといいます。

一方、中京テレビはこれまで得意としてきたバラエティーだけでなく、「『配信で売り上げが上がる』番組の形を模索する」というアプローチ。特にドラマに力を入れていくことを念頭に、同局初のレギュラードラマ『スーパーのカゴの中身が気になる私』を制作したほか、サイエンスプロデューサー・米村でんじろう氏が出演するミニ番組『でんじろう先生のはぴエネ!』をYouTubeで配信する取り組みにも力を入れています。夏休みシーズンに再生数が急上昇し、子どもたちが自由研究の参考にしているというニーズが見つかったことを挙げ、「『配信で伸びやすいコンテンツ』として教育番組の分野も研究していきたい」(桑原氏)といいます。

先行してドラマ配信に注力してきた関西テレビ(竹内氏)、得意としてきたバラエティーのみならずドラマにも力をいれていく中京テレビ(桑原氏)の話を受け、日曜22時枠でドラマ放送を開始したABCテレビの井口氏は、「コンテンツ事業ということを考えたときに、地上波以外の収入で見込みの確実性が高いのがドラマ」だと述べます。各局とも「放送以外も見越したコンテンツ開発が進んでいる」という共通の認識です。

■配信の2つの方向性~エリアを越えたグローバルと生活に役立つローカル~

「ドラマなどのコンテンツをエリアを越えて楽しむ世界がある一方、自分の生活に密着した情報へのニーズもある」と奈良岡氏。「『@S+』アプリでは静岡市内の商店の開店・リニューアル・閉店情報のコンテンツが人気」だといい、「自分の身の回りの生活に役立つ"ローカルな情報"をいかに取っていけるかという点に注力している」と語ります。

これを受け、井口氏は「地上波テレビが提供するものは、「嗜好品(楽しめるコンテンツ)」と「必需品(身近な情報)」と続けます。

このように、多様な配信プラットフォームへの向き合い方として、配信と一言で言えども2つの方向があり、1つは「もっとグローバルに」、もう1つは「もっとローカルに」ということが示唆されました。

■地域や生活者と繋がることの価値とは?~コンテンツ起点で行動増、その先の幸せ体験~

地域や生活者との繋がりにおいて、「お困り事を解決するサービスと繋ぐことで、県民の"よりよく生きる"に貢献したい」と奈良岡氏。「アプリの閲覧ログからは、どういう人がどういうものに興味関心を持ち、どういう困りごとを持っているかが見える。日常生活の『困り事』を解決するサービスを繋げ合わせるビジネスが次の展開になっていく」といいます。

また、「ニュースにしても、これまでマスメディアとして行ってきたアプローチだけでなく、コミュニティを盛り上げ、話題を回すという切り口も今後は重要になってくる」と奈良岡氏。「我々が目指したいのは、コンテンツ起点で生活者の行動が増え、その先にある体験で幸せを感じてもらうこと」と語ります。

これを受け、桑原氏、井口氏は、地元と密接に結びつくスポーツコンテンツの事例を紹介します。

「在名の民放5局が参加する動画配信ポータル『Locipo(ロキポ)』では、高校サッカー選手権の試合を1回戦から全て配信している。準々決勝以上はもちろん、1回戦でも結構な再生数がある。出場校の関係者や生徒、保護者やOBといった方々に見ていただけている」(桑原氏)

「ABCテレビで行っている高校野球の試合配信でも、今年初めて1回戦からの全試合中継を実施した。強豪校でなく、純粋に自分の母校の試合に対する興味というエンゲージメントという狙いが当たり、視聴数が非常に伸びた。『身内の活躍』を知りたいという欲求があるのかもしれない」(井口氏)

また、桑原氏は「スポーツを含めた取り組みは今後も積極的にやっていきたい」といい、井口氏は『M-1グランプリ』での「WEBで裾野を広げて地上波の最終決戦を盛り上げる」取り組みについても述べました。

これを受け、奈良岡氏は「ローカルの定義は『東京に対する地方』という意味から『自分の身の回りに関すること』という捉え方に今後シフトしていくのではないか」と語りました。

■地域と繋がる活動、様々な取り組み

地域や生活者と繋がる取り組みとして、この他にも世界観を活かして番組そのものを"コミュニティ化"する試みや、海外と地域の繋がりへの取り組みが挙げられました。
他局との共同キャンペーンや番組ファンクラブコミュニティについて挙げたのは桑原氏。
PUT(総個人視聴率)の低下などの背景から、「生活者のニーズに合った番組づくりをして、もう一度地上波に目を向けてもらいたい」という思いで開催した共同キャンペーン「テレビで見たアレ、やりにいこう。モット!モット!ジモト!」では、在名民放5局で番組コラボなどを展開。

また、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』のベースでもある中京テレビの人気情報番組『PS純金(ゴールド)』では、番組のファンとのタッチポイントを作ることを大きな目的として、アプリやウェブ上で番組公式のファンクラブコミュニティを開設し、番組企画のリクエストや過去の名場面集の会員限定配信などを行っています。「これらのコンテンツに対する閲覧ログから会員の嗜好を導き出し、マーケティングへ活用する」(桑原氏)といいます。

井口氏は、30年以上続く情報バラエティー番組『朝だ!生です旅サラダ』のコンテンツリーチ網を使った地域の情報発信を紹介します。「番組サイトではなく旅情報サイトとして立ち上げた『旅サラダPLUS』は、番組ファンのみならず、旅好きが見に来るサイトで、サイトをきっかけに番組視聴に回帰する狙いがある」(井口氏)。さらに、「この『旅サラダPLUS』、地上波放送、キャッチアップなどを含めたリーチ網で、最適な形で地域の情報を発信することに取り組んでいる」(井口氏)と続けます。

地元の企業との共生という取り組みを挙げるのは竹内氏。関西テレビでは、総務省からの補助金を活用した放送コンテンツの海外展開施策として、かつての関西テレビの人気番組『パンチDEデート』のベトナム版を、ベトナム国営放送と共同制作しています。その中で「海外と地域を結びつける」という取り組みを行い、『日本×ベトナム絆の旅 祇園祭がつなぐ異文化交流』の特番を制作、放送し、好評を得ました。さらに、スポンサーである地元のB to B企業がベトナムではB to C企業として知名度が抜群だった事例を挙げ、「海外事業は海外で活躍する企業の応援にも役立てる」(竹内氏)といいます。

■変革を行う上での苦労や乗り越え方は?~作るから売るまでの一気通貫のプロセスへ~

放送局がコンテンツの価値を最大化するために、どのような変革をしていくのか。セッションの最後は登壇者が自社の現状を踏まえ、展望を語りました。

10年前から新しいビジネスモデルを考えてきたという竹内氏は、「コンテンツを流通させるプロセスを考えることが重要」だといいます。流通が機能しなければ、よいコンテンツでも見る機会を喪失してしまうことを挙げ、コンテンツビジネスの収益最大化のためには、「作ることから売ることを考えたプロセスが不可欠」と続けます。

「現在はコンテンツの『プリセールス』が活発。ドラマは脚本段階で販売され、配信コンテンツに関しても良い作品であれば配信前の時点でもう海外へと売れていく。そして得られたキャッシュで、また新たなコンテンツ作りを行える。そのためにも契約フローや販売ルートの整備は必須。コンテンツビジネスを推進する環境整備や権利処理作業は、単独の部署ではなく全社的な組織連携によって行われるべき。関西テレビでは2020年に編成部門とコンテンツ部門が一つの本部に統合された」(竹内氏)

「ABCテレビでも制作部とコンテンツビジネス部が統合されて『コンテンツプロデュース局』となり、企画からセールスまで一気通貫で行える体制が作られた。セールスの際に得たニーズを企画にフィードバックし、事業としてより高い成長が見込めるコンテンツを作っていく。現在、営業、編成も含めて全社的な協力を得られており、昨対比160%という高い売上成長を得ている」(井口氏)

「ビジネススキルを持ったプロデューサーの育成とマーケティング体制の強化が急務」と挙げるのは桑原氏。「制作が作って、営業が売る"マネタイズスキーム"は変えなければならない。また、生活者のニーズをもっと捉える必要がある。そのためには各人のマネタイズ意識の変革や外部アライアンスの強化から取り組むことも有効だろう」(桑原氏)

「勝ち筋を"探索"できる人材を増やすことが大事。さまざまな形を模索しながら、『うまくいきそうだ』という手応えが得られたものをきちんと型化、仕組み化できるようにする」(奈良岡氏)

コンテンツを流通させるためのプロセス検討の重要性や、変化の激しい時代において様々なトライを繰り返し探索をしていける人材の必要性から、「様々なことにチャレンジするためには、人材育成や組織論も大切である」と合田はこのパートをまとめました。

■まとめ~コンテンツ価値最大化への取り組み~

コンテンツの価値を上げる取り組みは大きく2つの方向に整理されます。(図2)

① to global:放送エリアを越えて、全国、さらには海外へコンテンツを届けることで収益を上げる方向
配信プラットフォームを活用し、リーチ拡大や番販による収益化コンテンツ作り

② to local:デジタルを活用して生活者や地域と一層つながることでエンゲージメントを深める方向
デジタルアプリを通じた情報提供や、ファンクラブ会員の組成、地元向けコンテンツの充実化など

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(図2)

「旅サラダPLUS」のIPを活用したマルチユース展開(ABCテレビ)、地元企業の海外進出支援(関西テレビ)などもありました。

どの取り組みにも共通することとして、「地上波コンテンツを起点とした制作力や取材力、IP創出力が軸足という点が非常に印象深かった」(合田)とまとめました。

そして最後に、「VR FORUM 2023」では「Co-transformation」一緒に変革しようをテーマにしていることに因み、登壇者の皆さまの「Co-○○○○○」をお伺いしました。

Co-Understanding
仕事に関わるすべての人が相互理解しようとする意識が大切(竹内氏)

Co-Engagement
コンテンツそのもののエンゲージメントも高めなければいけない(井口氏)

Co-Edgy
地上波コンテンツのマンネリ化を防ぐため、刺激的なコンテンツ作りを目指したい(桑原氏)

Co-不確実性
変化の激しい不確実な今の時代を楽しもう(奈良岡氏)

様々な取り組みから示唆に富んだヒントが出てきた今回のセッション。「とりわけローカル局の皆様の新しいチャレンジへのきっかけとなれば大変うれしく思う」(合田)と締めくくりました。

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