【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 木之村美穂「時代を先駆けるAI×ファッションムービープロジェクト【NFFT】を世界に向けて東京から発信!」
林 永子
Inter BEE開催60回目を記念して特設された【INTER BEE CINEMA】。エリア内では、実際に建て込んだスタジオセットにて撮影を行うライブショー、著名なゲストを招いたトークセッション、選りすぐりのシネマレンズの装着や解説を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手育成を促進する場を3日間にわたって提供した。
この「クリエイターズインタビュー」では、今後も続く【INTER BEE CINEMA】の取り組みにつなぐべく、映像クリエイターのオリジナリティ溢れる活動歴とともに、多様な表現活動を行う「人」にフォーカスした記事を掲載していく。
今回のゲストは、LA在住でSTUDIO D.O.G GKを拠点にファッション・ビューティーを主軸とした広告ビジュアルを多数手がけてきた木之村美穂氏。昨今は、世界の生成AIフィルムメーカーを自らキュレーションしたAIファッションムービープロジェクト【NFFT-NEW FUTURE AI FASHION TECHNOLOGY-】を展開し、世界をリードする唯一無二のムーブメントを東京から発信している。
プロフィール
木之村美穂
Miho Kinomura
STUDIO D.O.G GK 代表
クリエイティブディレクター/ AI Prompt Director / AI Filmmaker
ファッションデザイナー出身。New York、Los Angelesにて、グローバルラグジュアリーブランドのファッション・化粧品の広告宣伝ビジュアル制作プロダクションSTUDIO D.O.Gの代表エグゼクティブプロデューサー、映像ディレクターとして広告宣伝を数多く手がけ、ファッション・ビューティー専門の広告プロダクションとして、長いキャリアを持つ。2021年11月、Web3.0に対応したNFT メタバース ファッションを専門に扱う会社をLos Angelesで立ち上げ、アメリカで新規事業に取り組む。現在はデジタルクリエーターや、AIクリエーターのグローバルキャスティング・メタバース広告制作やAI 企画プロデュースなど幅広く取り組んでいる。最近では日本の広告業界・ファッション業界向けNFT初心者セミナーなどを企画・主催。Los Angeles 在住。
Studiodog公式WEBサイト:https://studiodog.jp/
NEFT公式WEBサイト:https://www.nfft.jp/
AI作品のサイト:https://www.mihokinomura.com/
最速、最先端の【NFFT -NEW FUTURE AI FASHION TECHNOLOGY-】
――2024年10月に渋谷PARCOで開催された「NFFT2025」は、世界各国のAIデジタルクリエーター32名が一堂に会する、生成AI×ファッションムービー展として大きな話題となりました。同プロジェクトは2022年より開始されていますが、まず、このAIプロジェクトが立ち上げるに至った背景から教えてください。
2021年初頭、Web3.0という新しいデジタルの流れが入ってきて、NFTやブロックチェーンといった私たち広告業界にいた者が聞きなれない言葉が世に出始めました。最初にNFTを知ったのはフォトグラファーのトクヤマムネタカさんの写真展で、私が知る限り、彼が日本のフォトグラファーで最初にNFTを作品に取り込む事例を作ったと思います。以降、詳しい方に仕組みを聞いたり、当時始まったCLUBHOUSE(クリエイティブラウンジ)で「私にNFTを教えてください」っていう部屋を作ったり。そこに関係者が集まってきてくれました。
――CLUBHOUSE(クリエイティブラウンジ)は現在も継続されて、現在162回目を迎えています。AI談義が繰り広げられていますね。
当初はNFTの話題から始まったのですが、いわゆるブロックチェーンや仮想通貨そのものは、仕事上の接点がないので距離がありました。現実味が出てきたのは、2021年の夏。アメリカのフォトグラファーエージェンシーが、VOGUEの表紙など、過去の写真をNFTで販売し始めたんです。モデルやフォトグラファーの権利はどうなっているのか。急に身近な存在となり、識者に尋ねる機会が増えました。同時期に新しいデジタル表現にチャレンジする3DCGの映像ディレクターも台頭してきたのでコンタクトを取り、独自のコミュニティを広げていきました。
――翌年2022年には、早くも恵比寿のALギャラリーにて展示を開催されました。
まだAIは登場していなくて、デジタルファッションの写真と3DCGの作品展示でした。当時はメタバースやアバター、デジタルヒューマンが流行っていてNYの有名なモデルエージェンシーから「デジタルヒューマンセクションを作りました。10人所属しています」というお知らせが来た時には驚きました(笑)。そのエージェンシーも参加する形で第1回目を開催。ファッションの文脈でいうと、アバターがメタバース上でファッションショーを行っていた頃。仮想空間のDecentralandのデジタル土地が2021年から2022年にかけて高騰し、有名ブランドの出店が相次ぐ、といった話題が先行する中、並行して、2023年初頭に生成AIが台頭し、AIクリエイターと名乗る人たちが現れた。彼らはみんなポートフォリオをInstagramで公開していて、かっこいいなと思う人をチェックしているうちに詳しくなっていきました。
――そして2023年には、他に先駆けていち早く生成AIで制作したクリスマス広告「PARCO Happy Holidays」が大きな話題となりました。同年9月には、渋谷PARCOにてAI×ファッションによる【NFFT】展を開催。展開が非常にスピーディーです。
私自身は2022年の秋には画像生成AIのMidjourneyを勉強し始めていたと思います。そして2023年9月にPARCOで生成AI展をやると決めて、Instagramで作品を公開している世界の素晴らしいクリエイター1人1人にDMを送り、スカウトしました。結果、約30名が参加してくれました。
2024年、AIがついにメインストリームへ
――そのスピード、キュレーション力、バイタリティ、全てが破格です。ご自身も作家として参加しながら、イベント全体もオーガナイズされています。
面白いものが好きだし、まだ世に出ていない人を見つけるのも好きなんです。全員から密に連絡が来るので、対応は大変ですし、ほとんどDMのやりとりなので、相手の声も聞いていない。本物の人間かどうかもわからない(笑)。それでも参加するよとすぐ返事をくれる人が多かったのは、おそらく私の作品歴を調べたからだと思います。UKのSHOWstudioと仕事していたり、Vogue Italiaで賞を取ったり、ファッションブロガーDiane Pernet主催のファッション映画祭「ASVOFF」を日本で開催したり。そんな国際的なキャリアを知って、安心して承諾してくれたようです。ただし、AI全体に対する世間の見解としては、2023年はまだ懐疑的な意見が多かった。そして2024年になると、風向きががらっと変わった。
――AIの捉え方、扱い方に変化が生じてきた?
時代がようやく合ってきた感覚があります。海外ではついに今年、ハリウッドにAIが入りました。去年まではAIに仕事を取られるなど、ネガティブコメントが多数ありましたが、今は状況が変わり、オールOKとはいかないまでも、取り入れていく方向に動き始めました。11月23日、24日にはLAのエマーソン大学にて「NEU WAVE AI FILM FESTIVAL AND CONFERENCE」が開催されました。他のイベントも含めて、現在は従来の映画制作者と、新しいスタートアップのAI開発会社がタッグを組み、ジョイントでフィルムコンペティションなどを行う風潮があるようです。若い会社の中でも話題になっているのは、スタンフォード大学出身のアジア人女性が立ち上げたPikaLabs。オフィスはシリコンバレーのパロアルト地区にあり、そこには生成AIの会社やハイテク企業が集中しています。
――実験的にAIを取り入れてみよう、という段階ではすでにないのでしょうか。
今年になってメインストリームに入りました。アメリカは世界中から凄腕の生成AIクリエイターを集め始めています。生成AIのありとあらゆるフィルムコンペティションも世界各国で始まっているので、これからAIを取り入れたい日本の企業やクリエイターのみなさんは、ぜひ世界の動向をリサーチしてほしい。日本語で書いてあるAIの情報はごくごくわずかです。自分から積極的に英語のコミュニティに入って世界の情報をキャッチしてください。
――世界水準を知らないと遅れをとる。
とてつもなく展開が早いです。この1年は特に早い。すべてが過渡期で、1ヶ月でどんどん新しい技術が出てきます。今年の初めにチャットGPTを作ったOPEN AI社がSORAを発表しましたが、一般人は未だ使えず、インフルエンサーしか触れない。そこに対抗馬として、SORA同等あるいはさらに超えていく技術を、先ほどのPika Labsと、Runwayという会社がGen-3、そして中国がKLING AI(中国の快手が提供する動画共有プラットフォーム「Kuaishou」が提供しているAI動画生成サービス)を出してきた。そうしたら今度はアメリカが一気にSORAをすっ飛ばして、Luma Dream Machineを出した。さて、私たちはどれを使ったらいいのでしょうか。この半年以内に起こった競争の流れをチェックできないと、この先、ついて来られないと思います。
フィジカルとデジタルを往来する「Phygital」
――実際に【NFFT】で展示された作品について教えてください。
2023年は静止画、2024年は映像にチャレンジしています。静止画の方がビジュアルのキャラが強く、よりファッション的な作品が多かったですね。というのも、2023年はファッションのクリエイターが静止画を手がけていて、かっこいい1枚絵の強さで勝負できた。今年は映像にしたことでハードルを上げてしまって、ファッションデザイナーとして関わってきた人が参加できなくなった。次はもう一度ファッションに揺り戻してもいいかなとか、静止画と動画の両方を扱おうかと構想しています。
――今年のテーマは?
「REGENERATION」。再生する、もう一度復活するという意味合いです。2023年はシンプルに「TOKYO FASHION」だったので、より個人の解釈が深まりました。画面はTikTokなどのショート映像の流行やファッションの被写体の特性を活かして縦型の9:16。2分間以内、音楽もAIで、2025年のファッションをテーマに、などの諸条件を投げて制作していただきました。
――おすすめのAIフィルムメーカーがいらっしゃったら教えてください。
全員おすすめですが、例えばProspex Park。彼はAI写真展をやっていて、写真集も作っています。今は、仮想やデジタルの世界のみでは立体的な欲求は満たされないと肌感で理解している時代なので、ぐるっと一周回って、デジタルとフィジカルの間を行ったり来たりする「フィジタル Phygital」という言葉がトレンドになっています。Prospex Parkも、エディション付きの1点ものプリントを販売している。AIから来て、再び現物に戻っていっている状況がとても面白いです。あとはブラジルのサンパウロにいるMan-Kha27。デジタルクリエイターで、ファッション性の高い表現はもちろんかっこいいのですが、モーションも素晴らしくて要チェックです。
――木之村さんご自身の作品について教えてください。
デニムを再生し、リデザインするイメージに、近未来のサイバーな演出を加えたランウェイのコレクションを表現しています。動画は、1枚1枚の静止画を膨大な細かいファッションディレクションの指示書が入ったプロンプトで制作し、その後に動画にして動かしています。完成動画から静止画を抜き出すと、生産ラインで使用するデザイン画として利用できるようになっています。そういう意味ではファッションデザイナーが動画を扱う際のサンプルになるんじゃないかな。ただ、動きを自らつけようとすると、シナリオを書いて、画を動かして、音と合わせる、MVを作るような工程が必要となるので、なかなか難しいですね。
――逆にMVを作っている人に参加してほしいですね。
そう。海外では映像ディレクターが進出していますし、ぜひ新しい分野に踏み込んで欲しいです。日本の技術、クリエイターともに優秀なのに、プロモーションが上手くないから海外のメインストリームにいけない。でもAIは入りやすい。なぜなら、誰も何者かわからないから。無国籍で、どこにいてもできるから、入り口がフラットになっている。どこに住んでいるかなど関係ない。実力勝負の世界です。まずは世界の仲間に入ってほしい。私はその入り口の橋渡しをするようなイメージ。日本の素晴らしいクリエイティブをグローバルに持っていきながら、グローバルで活躍する人や作品を逆に東京から発信する。そこをつなげていきたいです。
――日本の映像プロダクションもAIに参入するべきでしょうか。
もっと携わった方が良いと思います。実際にSTUDIO D.O.G GK(木之村氏のプロダクション)はTYOとAI 生成プロジェクトに関して業務提携を結んでいて、【NFFT】イベントも最初の2022年から協賛していただいております。今年7月に開催された「CONTENT TOKYO」の生成AIエリアでも、TYOブースに参加しました。他にもAIプロダクションが10社ほど集まっていたかな。ムーブメントの流れがきていると、機運を感じています。また、今年になってから、広告代理店や企業向けのセミナー依頼が増えました。
――最後に、来年以降トライしたい表現はありますか?
日本の伝統工芸をモチーフにしてみたいです。ジャパンオリジナルから、AIでまったく違うものが作り出される。伝統と最先端の表現がミックスされて、新解釈の兜やお着物、お扇子ができる。そんな、ぐるっと回って文化的かつアバンギャルドなアプローチができたら最高ですね。