Inter BEE 2021

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Industry Curation 2025.03.04 UP

【Inter BEE CURATION】新「ジャッカルの日」 ボンド・シリーズに匹敵!?

小林恭子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2025年3月号からの転載です。

『ジャッカルの日』と言えば、映画に興味がある人なら誰もが知っているだろう。元は英作家フレデリック・フォーサイスの同名の小説(1971年)である。1973年公開の映画ではシャルル・ド・ゴール仏大統領暗殺のために雇われたクールな殺し屋をエドワード・フォックスが演じた。監督はフレッド・ジンネマン。ジャッカルがライフル銃の照準を調整しながら射撃の練習をする姿は名場面の一つだ。映画『ダイ・ハード』で主演したブルース・ウィリスが殺し屋となる『ジャッカル』(1997年)もあったが、ジャッカルと言えばフォックスだろう。

 さて、ジャッカルが新たな装いで私たちの元に戻ってきた。テレビドラマシリーズ「ジャッカルの日」(英国では昨年秋、衛星放送スカイテレビで放送・配信)である。フォーサイスは「コンサルティング・プロデューサー」として制作陣に名を連ねるが、プロの殺し屋が主人公という以外は原作とは異なる物語展開となる。映画は1本だけだが、新ドラマシリーズは10回にわたって展開するため、「創作」せざるを得ないのである。

レッドメインの七変化

本作でのジャッカルは映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズのエディ・レッドメインが演じている。物理学者スティーブン・ホーキングの人生を描いた『博士と彼女のセオリー』(2014年)で米アカデミー主演男優賞を獲得した実力派だ。

 レッドメインは現在42歳。エリート層が子弟を送り込むイートン校で学び、ケンブリッジ大学に進学。イートンではウィリアム皇太子と同級で、“ポッシュな(上流階級の)”俳優として知られている。舞台経験も豊富で、ロンドン・ウェストエンドでのミュージカル『キャバレー』(21年)では司会者エムシー役を演じ、演劇界の最高峰ローレンス・オリヴィエ賞のミュージカル部門最優秀男優賞を受賞している。

 ジャッカルが命を狙うのは、米IT起業家イーロン・マスクを彷彿とさせるUDCことウレ・ダグ・チャールズだ。彼は世界中の資金の流れを透明化するソフトウェアをリリースしようとするが、そんなことになったら自分たちの悪事がバレると慌てたリッチ層がジャッカルにアプローチする。一方、ドイツの次期首相暗殺事件を追っていた英国秘密情報部(MI6)の捜査官ビアンカ・プルマンは犯人を捜すうちにジャッカルの存在に気づく。捜査官を演じるのは、スーパーヒーロー映画『キャプテン・マーベル』(19年)で主人公の親友のマリア役だったラシャーナ・リンチ。

 ジャッカルははたして、捜査陣の手から逃れられるのか。そして、UDCを暗殺できるのか。
 息もつかせぬ追跡劇が続く一方で、ジャッカルがなぜ要人を暗殺するようになったのかが次第にわかってくる。公私をきっちり分けるジャッカルには愛する妻と子どももいる。しかし、妻は夫の様子が「おかしい」と思い始め、「本当のことを言って!」と問い詰める。夫婦関係は破綻してしまうのか? 妻と子どもはどうなる? サスペンスいっぱいの新「ジャッカルの日」だ。

 見どころは、追う側と追われる側のせめぎ合いに加え、フォックスが出た映画版への数々のオマージュ、レッドメイン演じるジャッカルの暗殺者としての凄腕、冷静沈着さ、七変化。特殊メーキャップやアクセント、物腰の変わりようがすごい! レッドメインが着こなす60年代風の洋服の数々もため息が出るほど魅力的だ。かつてファッション誌のモデルだっただけあって、彼が着れば「決まる」のである。突然の殺害行為の数々には胸が痛むものの、そのやり方がいかにも格好よい。カーチェイスも存分にある。赤を基調にしたシリーズのイントロ部分にはシャーリー・バッシーを思わせるボーカルによるテーマ曲が使われ、「女王陛下のスパイ」ジェームズ・ボンド007シリーズの映画を意識したつくりとなっている。最終回で誰が生き残るのかは見てのお楽しみだ。日本では2月からWOWOWで放送予定である。第2シリーズも制作が決定している。

このイタリア映画にも注目

最後に、日本では3月公開予定のイタリア映画に触れておきたい。昨年、「イタリア映画祭2024」で上映された『まだ明日がある(C'è ancora domani)』である。日本公開時のタイトルは『ドマーニ! 愛のことづて』。イタリアの著名コメディアン兼女優のパオラ・コルテッレージの初監督作品で、主演も兼ねている。第2次大戦後、荒廃したローマで暮らす市民の生活をモノクロで描く。

 毎朝、専業主婦デリアはベッドの隣に寝ている夫に頬をひっぱたかれて目覚める。ドメスティックバイオレンスがエスカレートするのではとハラハラしたが、所々に挟まれるユーモアに救われる思いをしながら見た。最後、主人公が心から本当に大切にしていたものがわかる。筆者は涙がこぼれて仕方なかった。

【ジャーナリストプロフィール】
こばやし・ぎんこ メディアとネットの未来について原稿を執筆中。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『英国メディア史』(中公選書)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。新刊『なぜBBCだけが伝えられるのかー民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)。

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「GALAC」2025年3月号


【表紙/旬の顔】毎熊克哉
【THE PERSON】須賀川拓


【特集】選挙報道クライシス


ネットが選挙行動を左右する時代に/堀 潤


世論調査と大学生ヒアリングから/渡邊久哲


TBSラジオがやったこと、やり続けること/澤田大樹


〈選挙ウォッチャーの提言〉
SNSに対峙するために/畠山理仁
オールドメディアは自信をもって/プチ鹿島
私たちの代表を多角的に選択しよう/ペヤンヌマキ


既存メディアに対する疑問にどう応える/茅原良平


〈放送批評懇談会セミナー2024 ダイジェスト〉
選挙報道をリブートする!!/平岩 潤


【連載】
ダラクシーの秘密基地/ダラクシー賞選考委員会
番組制作基礎講座/渡邊 悟
イチオシ!配信コンテンツ/滝野俊一
報道番組に喝! NEWS WATCHING/高瀬 毅
国際報道CLOSE-UP!/伊藤友治
海外メディア最新事情[ロンドン]/小林恭子
GALAC NEWS/長井展光
GALAXY CREATORS[湯本和寛]/加藤久仁
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『フェイクドキュメンタリーの時代-テレビの愉快犯たち-』『ヤンキー母校に恥じる』


【ギャラクシー賞】
テレビ部門
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CM部門
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マイベストTV賞

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