Inter BEE 2021

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Special 2025.10.21 UP

【INTER BEE MEDIA Biz】企画セッション「変わる制作現場のお値段」事前レポート

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左から、杉本氏、田島氏、土屋氏、渡邊氏

コンテンツ制作における予算の問題はいま、業界にとって重要な論点だ。特に海外と国内の制作費格差が拡大しつつある中、制作現場は様々な課題に直面している。INTER BEE MEDIA Bizでは「変わる制作現場のお値段」のタイトルでこのテーマを掘り下げるセッションを企画した。登壇するのは、映像業界のビジネス情報メディアBranc編集長の杉本穂高氏、元NHKで株式会社Tutti Createのプロデューサー土屋勝裕氏、TOKYO ROCK STUDIO 代表取締役として映画やドラマの制作費をマネジメントする田島健氏。モデレーターはNHKドラマ制作部門のチーフプロデューサー渡邊悟氏が務める。登壇者たちは映像業界の現状と課題について率直に生々しく語り合ってくれそうだ。本稿では事前打ち合わせの様子をレポートする。
(メディアコンサルタント 境治)

増大するグローバルとローカルの制作費格差

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打ち合わせの冒頭、ある韓国映画の制作背景が話題になった、日本人監督と韓国人キャストによる作品にも関わらず、当初から韓国の会社の一社出資によって制作される前提で話が進んだそうだ。なぜ、日韓の共同製作を模索しなかったというと、日本と韓国の制作費のギャップが大きすぎるからという理由だった。日本映画の予算では韓国映画の制作費を負担できないという判断だ。韓国のプロダクションが主導する形だったので、日本側は下請けという立場でもなく、監督が韓国映画に参加するという形となった。
「総額8億円から9億円の予算で、共同制作なので日本側に半分の4億円を出せと言われても無理です。頑張っても1億円でしょう」と土屋氏は説明する。結果として「これだと共同制作しても意味がない」という判断になり、日本側スタッフは下請け的な立場になってしまったと杉本氏は指摘する。

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適正な制作費の設定についても意見が交わされた。田島氏から「2億円の作品制作時にも、みんな3億円分働いている」という笑えない指摘があり、実質的に予算と実働のバランスが取れていない現状が浮き彫りになった。「みんな100%以上で働いちゃっている」と田島氏が評するように、サービス残業や「やりがい搾取」の構造的問題も示唆された。
NHKでは出演者のギャラは出演歴などに応じた料金設定が運用されているという。渡邊氏が「金額がやたらと高騰しない、買い叩かない、という健全化のための金額リストとして、日本のメディアビジネスの中では珍しいものでは?」とその効用を語る一方で、透明性については課題が残るとの指摘もあった。

制作委員会方式の課題、IPビジネスをめぐる権利関係

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映画やアニメの資金調達モデルとして定着している製作委員会方式についても議論が行われた。その特有の制度のについて土屋氏が指摘する「委員会に出資したプロダクションが、自動的に制作も担当することになる」慣行や、杉本氏が挙げる「配給会社が出資したら自動的に配給権を持つ」暗黙の了解が、国際スタンダードからは理解されにくい点が挙げられた。
杉本氏からはさらに「製作委員会方式だと、出資のエクイティと配給権のライセンスが明確に区別されない。国外では区別されるのが当然なのに、日本ではそうなっていない」と問題提起がなされた。
漫画原作をめぐる権利関係についても議論された。出版社がIPを保有していることで「出版社の発言権が今どんどん上がっている」と杉本氏から指摘があった。

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渡邊氏は「出版社側はドラマ化を、原作を売るためのチャネルの一つと見做しているようだ」と述べ、映像化を原作のマルチ展開の一部としてとらえる出版社と、独立したコンテンツ制作と考える映像制作側との認識のずれを指摘した。田島氏によると、「映画も同じように見られる」そうだ。
本セッションでは、変化する制作環境における金額設定の透明化などの「お値段」に関する議論を、具体的な課題を掘り下げて深めることになりそうだ。制作現場の最前線で活動する関係者にとって、貴重な情報交換の場となるだろう。InterBEEの来場登録を済ませた上で、下の聴講予約サイトへのリンクから登録してもらいたい。公の場であまり話されてこなかった、生の声を聞く絶好の機会としてご期待を。

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