Inter BEE 2021

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Special 2024.06.17 UP

【生成AI最前線】クラウドサービスとの結びつきが、生成AIの活用法を広げる可能性

境 治 Inter BEE 編集部

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さまざまな分野で活用が始まっている生成AIだが、メディア・エンターテインメント業界での活用も動き出している。そこで、クラウドサービスの巨人、AWS(Amazon Web Services)が提供する生成AIを軸にしたソリューションについて、同社インダストリー開発部の事業開発マネージャー、山口賢人氏に取材。まさにメディア・エンターテインメント部門を担当する同氏に、AWSの生成AIサービスについてお聞きした。クラウドをベースに多様なサービスを提供してきたAWSだからこそ、生成AIを他のアプリケーションと組み合わせて提供しているという。紹介しきれないほどの事例の数々に、圧倒された。
(メディアコンサルタント 境治)

マネタイズの新発想、コンバージドTVとショッパブルビデオ

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山口氏は、AWSの生成AIサービスには2つの分野があると説明する。
「一つは収益化です。生成AIを使って収益性をどう高めていくか。もう一つはやはり業務効率化。人が行なっていた作業を任せて効率化を図る使い方です。」
そこで、まずメディア・エンターテインメント事業の収益化に役立つサービスについて聞いた。
「コンバージドTVという概念があります。リニアTVとオンデマンドTVをシームレスに統合して広告を最適化しようという考え方。広告在庫の管理やリニアとオンデマンドを振り分けるダッシュボードの裏側でAWSが活用されています。」
日本テレビが25年4月のローンチをめざして開発を発表した「アドリーチマックス」に非常に近い考え方だが、米国でも同様の取組が始まっているのだ。

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もうひとつの「ショッパブルビデオ」は、デモ映像で説明してくれた。
「映像の中にあるオブジェクトをAIが見つけて購買に直接繋げます。」
例えば映像の中の洋服や鞄などを表示し、クリックすればその場で買える。さらに「ショッパブルオーバーレイ広告」も見せてくれた。
「スポーツ中継の映像を二つに分け、試合を見せながら広告を表示することができます。」
また広告からAmazonで扱っている商品をそのまま購入できたり、販売サイトへのQRコードも表示できるという(米国のAmazon.comで提供しているサービス)。ユーザー体験を妨げずに広告を表示し、直接販売に誘導する仕組みは、ストリーミングサービス企業にとって魅力的だろう。

多彩な生成AIを使えるAmazon Bedrock、既存のサービスと組み合わせも可能

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ここまでは既存の画像認識AIなどの活用事例。では生成AIはどう提供されているだろう。AWSでは自社開発のものだけでなく、他社の多彩な生成AIモデルも用途に合わせて使えるAmazon Bedrockを提供している。
「240を超えるクラウドサービスもあるので、生成AIと一緒にアプリケーションに組み込むことができます。」
その利用例として見せてくれたのが、広告の挿入タイミングを生成AIで認識する仕組みだ。
「一本の映画のどこに広告を入れるか。コンテクストに合わせて視聴体験を妨げないタイミングをAIが選んでくれます。ショットの替わり目の中でシーンも替わっている箇所を生成AIが見出し、広告の挿入点を決めるのです。」
ネット動画では画面が突然広告に替わって不快になることもあるが、この仕組みなら快適に視聴できそうだ。

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さらに、今後非常に重要になりそうなデータ活用に役立つ、AWS Clean Roomsを説明してくれた。サードパーティデータの活用がさまざまな規制などで難しくなっている。メディア自身が持つファーストパーティデータの利用が必須だが、相互に利用するにはセキュアな環境が課題だ。
「Clean Roomsは各メディア企業がお持ちのユーザー情報と、例えばAmazonが持つ情報を匿名化して安全に関連付け、ストリーミングと購買行動の関係を出力することができます。」
互いにデータを公開することなく安全にオーディエンス分析ができるメリットは大きい。
ただ分析にはデータサイエンティストの力が必要だったが、生成AIを使う取り組みが出てきている。
「生成AIが出してくれたSQLのクエリをコピペすれば分析できるので、知識がない方でも簡単にデータ分析が可能になります。例えばサブスクリプションサービスの解約を予測し、そのユーザーに対策を施せばサービスの継続に役立つでしょう。」
最初のコンバージドTVやショッパブルビデオも合わせると、テレビ受像機によるサービスの可能性を感じる話だ。

映像制作を生成AIが豊かに進化させていく

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二つ目の分野である、業務効率化についても聞いた。生成AIを使ったわかりやすい事例として見せてくれたのが、通常撮影した映像をスローモーションにするデモだ。
「生成AIを使ってフレーム間を補完することで、スーパースローモーションカメラで撮ったような映像を擬似的に作っています。毛並みや芝生の動きまで綺麗に補完できました。」
確かに走る犬の毛並みがふさふさと自然に動いていて驚きだ。生成AIはフレーム間の補完だけだが、動画をフレームに分割したり、できたものを一本化するには他のアプリケーションが使われる。それらがクラウド上で一体となって動くからこの仕組みが可能になる。AWSによる生成AIソリューションらしい仕組みだ。

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次に紹介するのが、ライブスポーツでのコメンタリー自動化。日本でもいくつかある、試合の速報やデータを刻々と出すサービスの情報を受けて生成AIに文章化させ、SNSに投稿する仕組みだ。
「ツイートをすぐに作り、ハッシュタイムも自動で付けられます。自動で切り出したビデオと一緒にツイッターに投げると、そこからサービスへの流入が見込めます。」
試合の実況をSNSで見かけてテレビをつけることがあるが、その作業が自動化できるのはメリットだ。
最後に見せてもらったのが、生成AIを活用したバーチャルプロダクション。デモ映像ではLEDに月面を映し出し、それを背景に演技してCM映像を作成している。
「日本で言われるのとは別の意味で『2.5次元』と呼んでいますが、1枚の静止画をレイヤーに分けて分解し、生成AIを使って月や山のイメージを動かして背景映像にしています。」

どの事例、デモも面白く、また幅広い領域のお話で非常にエキサイティングだった。DXで遅れをとっていた日本のメディア・エンターテインメント業界が、一気に世界に追いつけそうだ。
この取材で感じたのは、生成AIが他のサービスと繋がることでさらにその能力が何倍にも広がる可能性だ。現状は単独で活用している人が多いだろうし、それでも十分便利な使い方ができる。だが、単独での利用をする際は、他のアプリケーションとの連携は、そのための作業は自分で行うことになる。AWSの場合はクラウドを活用することで、生成AIと他のサービスがサーバー上で有機的につながり、格段に便利になるのだ。
生成AIの可能性をそれぞれの企業の強みを活かしてさらに広げる。そんな取材を続けていきたい。

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