Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2022.02.08 UP

【Inter BEE CURATION】BBCニュース部門に新トップ、ターネス氏はどんな人?

小林恭子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年3月号からの転載で、小林恭子氏から英国放送協会BBCに関する記事となります。ぜひお読みください。

BBCニュース部門に新トップ、ターネス氏はどんな人?

 年明け早々、英国放送業界に激震が走った。公共放送最大手BBCが、ニュース部門の新たな統括役にライバル局向けの報道番組を取材・制作するITNの最高経営責任者(CEO)、デボラ・ターネス氏を抜擢したからだ。その影響力から言って、英国のジャーナリズム界において最も重要なポジションである。
 
 BBC経営陣がニュース部門の統括役に外部から人材を求めること自体は初ではない。例えば前々回の統括者は保守系高級紙『タイムズ』の編集長だった。しかし、ITNはBBC以外の主要放送局ITV、チャンネル4、チャンネル5向けの報道番組を作る会社だ。今回の人事は秒を争うニュース戦争のなかで「敵」のトップの首を持ってきたに等しい。その役職名を「ニュース部門ディレクター」から「ニュース・時事部門CEO」に改め、BBCは同氏起用の意気込みを示した。
 
 BBCが発表したリリースには、黒のジャケットに身を包んだ、金髪のロングヘアの女性が映っていた。一体、どんな人物なのか。

※ Independent Television News

フランスでビッグチャンスに遭遇

 ターネス氏は、1967年3月生まれの54歳。イングランド地方中部で生まれた。10代半ばから学校の勉強の傍ら地域のニュースサイトの制作に記者としてかかわるようになった。次第にニュースの魅力に取りつかれ、学校で発行される新聞に寄稿したり、ラジオ局を自前で立ち上げたり。南部サリー大学でフランス語と英語を専攻した後、仏ボルドー大学大学院ではジャーナリズムコースを選択した。「将来はジャーナリストに」。心はもう決まっていた。

 しかし、英メディア界ですぐに職を得るのは至難の技で、まずはITNのパリ支局でお茶汲みから始めた。無給の仕事である。チャンスが巡ってきたのは、88年の仏大統領選だった。チャンネル4の主力報道番組「チャンネル4ニュース」のメインキャスター(当時)、ジョン・スノー氏担当のプロデューサーが病気になり、急遽、在仏の誰かが南仏に飛んで、現職のミッテラン大統領の対抗馬ジャック・シラク氏にインタビューしなければならなくなった。白羽の矢が立ったのが21歳のターネス氏。シラク候補の独占インタビューをスノー氏が番組で大きく取り上げた。「面倒を見るよ」と約束したスノー氏の尽力で、ITNへの正式入社が決まった。

 その後はITNが番組を提供する各テレビ局で経験を積み、2004年、37歳でITVの報道部長に就任。女性として初、そして最年少での着任だった。05年7月上旬、ロンドンテロで50数人が犠牲となったが、同月末、ロンドン市内での爆破テロ事件の実行犯逮捕の様子を大々的にスクープ報道したことで知られる。13年2月、ニュースへの才覚と経営感覚を買われ、米主要ネットワークの一つ、NBCニュースの社長に就任、主力ニュース番組の視聴率を向上させた。17年からはNBCインターナショナルの社長になり、英有料テレビのスカイとの提携によって米CNNに対抗する国際ニュースチャンネルを開設しようとしたが、実現しなかった。昨年4月、英国に戻り、古巣ITNのCEOに。しかし1年もたたずにBBCに移籍となる。

BBCは誕生から100年

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ラジオの番組表を掲載する雑誌として始まった「ラジオ・タイムズ」。2022年1月1-7日号は開局100周年の特別番組を紹介した(筆者撮影)。

 BBCは今年、開局から100年を迎えた。もっとも当初は「英国放送協会」(British Broadcasting Corporation)ではなく、無線機メーカーが共同で設立した民間企業「英国放送会社」(British Broadcasting Company)だった。1922年秋、政府がBBCにラジオ受信機の販売と放送の事実上の独占権を与える形で、BBCは産声を上げた。その後、放送は公共事業体として運営されるべきとする放送調査委員会による勧告を経て、27年に公共放送BBCとなった。初代会長のリース卿はその目的を「情報を与える、教育する、楽しませる」と定義したが、これは今でもBBCのミッションだ。

 2022年の現在、英国の放送界は100年前とは様変わりした。自分が好きなときに好きな番組を視聴する形態が普通となり、視聴デバイスも多彩だ。ライバルは国内だけではなく、資金力が豊富な米有料配信サービスのNetflixやAmazonプライムになった。

 6000人の報道部職員を部下とするターネス氏の直近の課題は、経費を削減しながらいかに質の高いニュース番組を作るかになるかもしれない。昨年から、政府とBBCは今後5年間のテレビライセンス料の値上げ率について交渉を続けてきた。テレビライセンス料はNHKの受信料にあたる。BBC側は年に約5%のインフレ率と連動させることを望んだが、政府は現行の金額を今後2年間、凍結させることに決めた。インフレ率に上乗せする値上げにしないと、実質的には予算削減になる。

 情報が溢れるように存在するなか、信頼できる報道機関としてどのように生き延びるのかも課題だろう。筆者も期待している。
 「とびきりのスクープを待ってるぞ!」

■ライター紹介
こばやし・ぎんこ メディアとネットの未来について原稿を執筆中。ブログ「英国メディアウオッチ」、著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『英国メディア史』(中公選書)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

GALACとは
放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

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【表紙・旬の顔】青木崇高
【巻頭】井上啓子

【特集】テレビが描くジェンダー
新時代の女性芸人が覆すジェンダー/西森路代
ドラマのなかのジェンダー表現/岩根彰子
子ども番組に見るジェンダー
 「u&i」の取り組み/野崎瑛理子
 「プリキュア」の挑戦/宮崎美紀子
男性スタンダードのスポーツ報道を超えて/谷岡理香
テレビCMにおけるジェンダー/村田玲子
今、テレビがジェンダーについて考えるべき理由 青木紀美子/大竹晶子/小笠原晶子

〈寄稿〉アフガニスタン撤退報道から見えたテレビ国際報道の課題/小原道雄

【連載】
21世紀の断片~テレビドラマの世界/藤田真文
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
今月のダラクシー賞/桧山珠美
BOOK REVIEW『地域発ドキュメンタリーが社会を変える-作り手と映像祭の挑戦-』『放送コンテンツの海外展開-デジタル変革期におけるパラダイム-』
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