【Inter BEE CURATION】ネット動画視聴の拡大の背景にあるものは? 〜ビデオリサーチ ひと研究所ウェブセミナーレポート(後編)
編集部 Screens
※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2022年2月21日に掲載された株式会社ビデオリサーチ ひと研究所主催のウェブセミナー「withコロナで生活者の映像視聴は、なぜ変化し、これからどうなるのか? 〜生活者視点でのテレビとネット動画視聴の実態と背景〜」のレポート記事の後編記事です。お読みください。
ネット動画視聴の拡大の背景にあるものは? 〜ビデオリサーチ ひと研究所ウェブセミナーレポート(後編)
株式会社ビデオリサーチ ひと研究所主催のウェブセミナー『withコロナで生活者の映像視聴は、なぜ変化し、これからどうなるのか? 〜生活者視点でのテレビとネット動画視聴の実態と背景〜』が、2022年1月31日・2月9日に開催。同研究所の主任研究員・渡辺庸人氏がスピーカーを務め、コロナ禍のなかで生活者や視聴者の生活、心理に起こった変化と、これらによって生まれた映像視聴行動の変化の実態を解説した。
本記事では前後編にわたり、2部制で行われたセミナーの模様をレポート。後編となる今回は、第2部のセッション「ネット動画視聴の拡大の背景にあるものは?」をレポート。コロナ禍以降、ネット動画の視聴が伸び続けている要因を紐解きながら、テレビから移行した生活者の心理に踏み込み、これからの映像コンテンツを考える上での課題について論じる。
タブレット・パソコンを抜き、「ネット動画視聴デバイス」となったテレビ
コロナ禍に入り、政府によって初の緊急事態宣言が発出された2020年4月から5月、テレビのリアルタイム視聴率が急激に増加。その後、同年10月ごろには平年並みの水準になったが、一方でネット動画は右肩上がりの傾向が続いている。
これについて渡辺氏は、ネット動画視聴などテレビデバイスの利用方法の変化や、生活スタイルの変化にともなう視聴環境の変化、また、番組制作の変化や、コロナ禍の気分と番組内容とのミスマッチを要因として挙げた。
生活者からは同じ映像コンテンツとして捉えられているテレビとネット動画。一見同じように見えるなかで、ネット動画が続伸している理由は何なのか。渡辺氏はビデオリサーチの生活者調査データ「MCR/ex」をもとに、ネット動画を1日15分以上視聴する生活者の平均行動率と平均分数のグラフを紹介。「コロナ禍に入ってから平均行動率は右肩上がりを続けており、直近に近づくほどその伸びが大きくなっている」と語る。
「ネット動画の視聴デバイスとして、これまでテレビはタブレットと並んで3番手、4番手であったが、現在は2番手までに伸びている。世代で見ても50代以上も伸びており、ネット動画がすべての人々において浸透したことがわかる」と渡辺氏。「リビングでのくつろぎのシーンにネット動画を見るという状況もどんどん拡大しており、同じリビングにいる家族同士でもネット動画やテレビなど、自分の見たいものをそれぞれ好きに見ている状況」という。
ネット動画視聴の増加を後押しした、「楽しいものが見たい」という欲求
ネット動画視聴拡大の背景として、渡辺氏は「『楽しみ』の空白」というキーワードを提示。まず、コロナ禍における在宅時間や在宅勤務の増加を機にWiFi環境やネット結線テレビ(コネクテッドTV)の普及が進むなど、家庭においてネット動画を見やすい環境が整ってきたことを、その前提として挙げる。
ネット動画の視聴が増えた理由として、ビデオリサーチのアンケート調査では43.2%の回答者が「『退屈』がしのげる」、38.2%の回答者が「『楽しい』ものを見たかった」と回答。渡辺氏は「この2つの理由がネット動画視聴を強く後押しした」といい、「とくに後者の『楽しいものを見たかった』という理由に“テレビとの違い”がある」と語る。
「コロナ禍によって生活が変化し、これまでどこかへ外出していた時間を自宅で過ごすようになったことで、生活者の中にネガティブな感情が生まれてきている」と渡辺氏。「『退屈』『ストレス』『刺激が欲しい』『楽しくない』という4つの感情がネット動画視聴を増加させる結果につながっており、コロナ禍においてネガティブな感情を強く持つ人ほど、ネット動画を見る傾向にある」という。
続いて渡辺氏は、2020年3月から9月にかけての「コロナ禍当初期」と、2020年10月以降の「コロナ禍継続期」における生活者心理の違いを比較。「コロナ禍当初期」においては「コロナ禍の“退屈しのぎ”をしたい」というニーズから『時間が埋まればなんでもよい』と、テレビ視聴もネット動画視聴も大きく増加する状況だった」と語る。
その一方で、後者においては「時間は埋まるものの、外出自粛が続いて楽しいことが生まれない状況が続き、『楽しみの空白を埋めたい、楽しい気持ちになりたい』というニーズが高まった」と渡辺氏。「より楽しい気持ちになるものを探すなかで、ネット動画が非常に活用された」とした。
モニターとしての機能が進化、「寂しさをまぎらわす装置」となったテレビ
ここで渡辺氏は、ネット動画の視聴デバイスとしてテレビが2番手に躍進した背景にフォーカス。スマートフォンやタブレットの映像をテレビへ投影する機能や、Netflixなどの動画サービスを直接起動できるリモコンボタンの搭載など、「テレビのモニターとしての機能性が、ネット動画をより見やすい環境を作っていく意味でも大きな影響力を果たしている」と指摘する。
「テレビ画面の大きさや迫力、臨場感は、ソファで横になっても見やすい。テレビがモニターとして使われる機会が増えたことが、ネット動画の視聴をさらに促す結果となった」と続ける。
さらに、「寂しいという感情が強い人ほど、テレビ画面でネット動画を視聴しやすい」と渡辺氏。「バラエティ動画を一人で見ることに寂しさを感じ、テレビ画面に投影して見るようになった」「芸人がただ食事をするだけのYouTube動画を見て、一緒に食事をした気分になる」という生活者の声を例に挙げ、「テレビの画面には、便利さにプラスして『寂しさをまぎらわす装置』としての効果がある」と語った。
「動画シフト層」の中心は「『見たいものリスト』を持つ20〜40代独身者」
続いて渡辺氏は、テレビからネット動画へとシフトした生活者の実態について紹介。コロナ禍前と比較して、テレビの視聴は変化しないか低下し、ネット動画の視聴が増えた「動画シフト層」、テレビ・ネット動画ともに増えた「テレビ&動画増加層」、テレビ・ネット動画ともに変化しなかった「収束・安定層」、ネット動画が低下もしくは視聴しない「動画敬遠層」の4タイプに生活者を分類し、そのなかから「動画シフト層」に該当する生活者に注目した。
「『動画シフト層』は未婚率が高く、『テレビ&動画増加層』と比べて単身世帯や親と同居する20〜40代の独身者が多い」と渡辺氏。「Amazon Prime VideoよりもYouTubeを好み、視聴する動画に『楽しさ、楽しみ』を求める傾向が強く、コンテンツ単位で見るものを最初に考える傾向が強い」という。
「『動画シフト層』の人々は、あらかじめ頭の中に『見たいものリスト』を持っており、そこから視聴するコンテンツを選んでいく傾向が強い」とのこと。
「コロナ禍が継続するなか、広がる『楽しみの空白』を埋めるためにネット動画が活用され、テレビについては『これまで通りの視聴ペースでよい』とする人が多くなった」と渡辺氏。2020年10月以降のムードとして、「『楽しみの空白』を埋めるためにコンテンツを消費する状況が今も続いている」という。
アフターコロナに向けたコンテンツ制作者の課題とは?
生活者目線で映像コンテンツを考えるにあたり、これからどのような課題に取り組む必要があるのか。渡辺氏から3つの方向性が示された。
(1)楽しさ・楽しみを改めて深掘りする必要性
生活者の「楽しさ、楽しみ」に対するニーズは今後もずっと続いていく。どんな「楽しさ」が世の中に存在し、それに対して番組や動画がどう寄与できるのかを深掘りする必要性がある。
(2)「単身世帯」「親と同居している独身の20~40代」への注目
単身世帯や親と同居している20〜40代独身者は、テレビ視聴から動画視聴へとシフトする動きが強い。こうした人々に対する、楽しさや安心できるコンテンツの届け方・知ってもらい方が重要になってくる。
(3)映像コンテンツの「想起力」の重要性
動画シフト層の人々が持つ「コンテンツリスト」のなかに、いかに思い浮かべてもらいやすくするかが重要。生活者の目利き力はアップしており、「すごいコンテンツ」だけでなく、「自分好みのコンテンツ」がどこにあり、どうすれば見ることができるかを知るようになった。そのため、生活者の楽しみを満たすことはもちろん、いまの生活者にとって何が「楽しみ」なのか、どこに「楽しみの空白」があるのかを考えたコンテンツ作りが必要。
「アフターコロナに向けたもう一つの課題として、『自宅外での映像視聴』に注目することも重要」だという。
「今後、動画を視聴する機会や時間は増えそうか」というアンケート調査において、「自宅内での視聴」が多い女性に対し、男性は「自宅外での視聴」に意欲的であるとする結果が出たといい、「アフターコロナにおけるメディア態度の注目点として継続的な把握が必要」と呼びかけた。
> テレビ視聴の“増加”と“減少”の背景にあるものは? 〜ビデオリサーチ ひと研究所ウェブセミナーレポート(前編)
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