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Special 2022.09.27 UP

【IBC 2022】レポート#3 DVB-NIPで欧州の放送はNativeIPに

デジタルメディアコンサルタント 江口 靖二 氏

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DCVBとEBUは、欧州での放送をネイティブIPにする方向に明確に舵を切っている。DVBの考え方は、日本での放送通信に関する議論とは全く異なり。電波をインターネット網の一つとして位置づけて、電波も含めたインターネット上で次世代放送サービスを実現するという考え方である。そのための伝送路は電波でもネットでもどちらでも構わず、その時に最適なものをユーザには全く意識させることなく実現させようというものである。一方のアメリカなどのATSC3.0は、放送電波でIPを伝送するという考え方で、日本的に言えばIPデータ放送的な発想であるところが大きく異なる。

欧州のデジタル放送規格はネイティブIP

DVB-NIPのNIPとはNativeIPのことである。次世代放送に向けてこれまでにDVBが策定してきた技術規格は以下のような内容だ。

DVB-I = ユーザーサイド(=EPGやUI)
DVB-DASH = ブロードバンドストリーミング
DVB-TA = ターゲット広告
DVB-MABR = マルチキャスト
DVB-NIP = 放送とブロードバンドの橋渡し(=IPブロードキャスト)

DVBーIはユーザーが接するUI関連の規格であり、DVB-NIPは伝送レイヤーでの放送とブロードバンドの融合のための規格である。

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DVBの技術規格とマイルストーン
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放送とブロードバンドを繋ぐDVBの各レイヤ

DVB-NIPのデモは、まず主に中間伝送路としての衛星に焦点を当て、DVB-NIPがいかに市場に利益をもたらし、新たなビジネスチャンスを可能にするかを紹介した。この新しいソリューションは、標準規格に基づくOTTサービスの衛星配信の機会を再創出し、サービスプロバイダーや通信事業者があらゆる場所のあらゆるデバイスにコンテンツを配信することを可能にするというものだ。初期のユースケースとしては、公共WiFiスポットへの配信や航空機や客船でのエンターテインメントであるという。また特に遠隔地への教育コンテンツの配信も有効であるとした。これは必ずしも欧州全域で高速で安定したインターネット環境が整備されているわけではないという事情による。またきわめて欧州的な考え方であるが、サスティナブル的な観点から衛星を使用することで、全てをネットで配信した場合のCDNのための膨大な数のサーバー群の電力消費を抑えるという狙いがある。


EUBのブースでは、ドイツのZDFやRTLとイタリアのCRTVでは、放送からブロードバンド中心のメディア配信への移行を支援するため、DVB-Iの大規模な試験運用の準備を進めていることが紹介された。EUBブースではこれらの活動に参加している多くのテクノロジープロバイダーやサービスプロバイダーが共同でデモを行い、DVB-Iがどのように放送局のサービスを様々なデバイスで提供し、品質と配信コストを最適化するか、また、この技術を利用して革新的な新サービスを迅速に立ち上げられることをアピールした。

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ドイツRTLでの実証プロジェクトの例

「Shaping the future of television(テレビの未来を切り開く)」というセッション

DVBの活動とその背景を完全に網羅したようなセッション企画として、「Shaping the future of television(テレビの未来を切り開く)」と題したセッションを行った。本セッションはIEEE Broadcast Technology Society(IEEE BTS)が主催し、7名の登壇者による3時間ノンストップという非常に熱量の高い構成である。取りまとめを行ったIEEE BTSとは、IEEEのメンバーから構成される技術協議会の一つである。

登壇者はモデレーターに IEEE BTSのPeter Siebert氏、スピーカーはQualcommのThomas Stockhammer氏、DVB ProjectのEmily Dubs氏、TP VisionのPeter Lanigan氏、Technology Vision Consulting UGのThomas Wrede氏、DolbyのJason Power氏、EBUのPeter MacAvock氏である。


EUBのPeter MacAvock氏は、現在の放送局が抱えているジレンマとして、
・テレビはまだリニアな視聴が主流である
・放送局はブロードキャスティングに投資しない代わりに、リニアとオンデマンドのオンラインサービスに重点を置いている
・広告で運営される放送局は、オンライン広告の収入が微々たるものであることをすでに認識している
・ネットサービスとの激しい競争の中で、放送局は視聴者をオンラインに移行させることができるか?
といった問題点を指摘した。

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放送局が抱えるジレンマを語るEUBのPeter MacAvock氏

DVBにスポークスマン的な存在であるDVB ProjectのEmily Dubs氏は、インターネットの時代にDVB-Iは決してリニアの放送から脱却しようとしているのではなく、リニア放送とノンリニア放送の両者の長所を生かすためのツールとしてDVBの各種規格を策定しているのだとした。また欧州各国の事情によってタイミングは異なるが、最終的には欧州全域で段階的なIPへの移行が予想されると語った。

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DVB-Iの位置付けは放送とネットのいいとこ取り
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欧州各国ごとにタイミングは異なるが2026年までには損益分解点を超えていくというデータ

Technology Vision Consulting UGのThomas Wrede氏は、MPEG2-TSでリニアなコンテンツを配信している現状をDTH1.0とした上で、DTH1.0から変わって、衛星でIP伝送するために IP LNBを介してファイルベースのIPビデオを配信し、家庭のテレビやタブレット、スマートフォン、PCにDVB-NIPで伝送することに加えて、5G、公共のWiFiスポット、商業施設などの小規模なローカルCDNを介して配信するというDTH2.0に進化させていくというストーリーを語った。これはNative IP over Satelliteとも言える考え方である。

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DTH1.0(Direct to the home)からDTH2.0へ

DTH2.0に移行するプロセスには3つのモデルがあるとして、
(1)商業施設などのB2B向けとして、エッジキャッシュレシーバーで受信した後に、5Gか小規模なローカル送信機でモバイル端末に向けて配信するもの
(2)B2Cの家庭向けとして、ネイティブなIP TV受信機で受信し、必要に応じてリターンパス(上り回線)を既存のデータネットワークで接続するもの
(3)B2C向けに次世代のDTHシステムとしてホームゲートウェイを介して家庭などのIP端末に伝送するものと、航空機や船舶などの交通機関において、WiFiスポットから配信するといった例を示した。

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3つの開発モデルの例

さらにその先を見据えた次世代放送に向けたDVBの世界観

前述したように、DVB-Iは電波もインターネット網の一つとして位置づけているのでNativeIPということになる。日本のようにそもそも放送電波とインターネットを別物として分けて考えた上で、これらの融合方法を議論するのとは異なる。さらにDVB-IはXMLベースで構成されるので、XMLベースの高水準言語であるX-VRMLとの親和性が高く、VRなどのメタバースへの対応が容易になる可能性が高いとしている。このことは同時に、BBCを中心としてEBUで並行して検討が継続しているOBM(Object-based media)への道筋を強く意識していることが、他のセッションなどを含めて感じることだ。

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XRやメタバース、6Gを見据えた世界観

OBMは、コンテンツを単一のアセット、すなわち完パケとして配信するのではなく、個々のアセットとして提供する。これにより番組コンテンツのパーソナライズ化が可能になる。あらかじめ選択された嗜好や、プロファイルに保存された嗜好、あるいはその時視聴可能な時間に基づいて、時間のない視聴者のためには、自動的に短縮されたバージョンを提供することもできる。ネット動画を倍速で再生している世代からすると神サービスになるのではないだろうか。

DVBやEBUの動きを通じて感じたことは、インターネット、あるいはインターネット技術の位置づけが明確であることだ。それはNativeIPであり、フルIP化によってリニアコンテンツはもちろん、XMLファイルベースの伝送が可能になり、これがOBMによって完パケコンテンツに加えて新しい映像コンテンツをもたらしていくという、クリエイティブの可能性も含めたビジョンが明確に存在している。良い悪いかはともかく、日本ではインターネット配信の是非を議論している段階であり、そこで語られていることはせいぜいマルチディスプレイと高解像度か高臨場感による単一アセットの話である。こうした世界観はATSC3.0よりもDVBのほうが先進的でヴィジョンが明確だ。ATSC3.0で描かれているビジョンは、日本ではすでに地デジで実現されているものが少なくない。これまでにはない、既報の記事にあるようなノンリニアでナラティブなコンテンツを実現させていくDVBの未来感を、日本の次世代放送の検討においてはもっともっとベンチマークするべきなのではないだろうか。

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