Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.01.17 UP

【Inter BEE CURATION】恒例慈善番組「暗闇に灯を」に Z世代発メディアがNG?

稲木せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2023年2月号からの転載です。

チャリティキャンペーン 50周年

 子どもの声で「誰かいないの?」と呼びかけるチャリティキャンペーン「暗闇に灯を」は、オーストリアの師走の風物詩だ。毎年クリスマス前に公共放送のORF(テレビ、ラジオ)が経済支援を必要とする家庭の子どもたちや、障害児のために募金を呼びかける。11月中旬から始まるキャンペーンのハイライトは、クリスマスイブの番組「暗闇に灯を」だ。同国の大統領・首相など大物政治家や人気俳優、歌手らがこぞって出演し、特設会場に用意された電話で募金を受け付ける。要人インタビューの合間に恩恵を受けた家族のミニドキュメント、人気歌手によるクリスマスソング披露、スポンサー企業による大型寄付の発表がある。聖地ベツレヘムからの生中継、放送中に特別な贈り物を受けた親子の感動シーンなども毎年盛り込まれている。
 1973年、ORFの地方局で始まり、2022年暮れに50周年を迎えた。支援金の累計は日本円で513億円を超え、昨夏までに400を超える障害者、生活困難者、被災者向けのプロジェクトを支援し、約5000世帯、1万5000人の子どもを助けている。
 祝50周年のキックオフは11月18日の特番で、首相らが参加して半世紀も続いたオーストリア国民の善意を讃え、同国の人気歌手が番組で新曲を披露してキャンペーンを盛り上げた。すっかりお祭りムードに浸っていたORFは、10日後に予想外の相手から冷や水を浴びせられる。障害者団体の代表から、番組での障害者の扱いが上から目線だと批判され、「お情けで描く同番組はないほうが良い」と言われてしまう。
 そんな爆弾発言が飛び出したのは、オンラインニュースサイト「アンデラーザイツ」のドキュメンタリー「寄付問題―なぜ、障害者が『暗闇に灯を』の廃止を求めているか―」のなかであった。
 作品では、チャリティキャンペーンが多くの募金を集め、予算的に手が届かない器具を、障害者がいる家庭や施設に贈っていると伝えている。そのうえで、「ありがたいけれど、情けをかけられて、物をもらう側の気持ちは複雑」とする少女の気持ちに寄り添う。ここで問題にされているのは、障害者の社会的「インクルージョン」だ。障害者を「助けが要る存在」と描く番組の演出や、良くも悪くも、定番化した善意のオンパレードに「NG」を出している。
 非難の矛先は出演者にも向けられた。毎年、番組で数百万円の寄付をする有名企業が、障害者の雇用義務をしっかり果たさず多額の制裁金を払い続けていることを暴露。政治家についても、番組で寄付を呼びかけながら、真逆の政策を進めていると告発。「オーストリア政府の障害者への見方は時代遅れで、その例が番組『暗闇に灯を』だ」とする10年前の国連の国別調査報告を引用し、番組の視点が以前より国際的批判を受けていたことを明らかにしている。

Z世代の問題意識が変革生み出す

 骨太かつタイムリーな作品を生み出したサイト「アンデラーザイツ」は、Z世代(1990年代後半?2012年前後生まれ)のジャーナリスト集団で、記者の約半分が障害者だ。ドキュメンタリーの進行役の一人も、25歳のダウン症の男性である(写真)。
 彼らは、「国内に15-20%の障害者がいるが、ジャーナリズムに関わっているのはわずかしかいない」と言う。昨夏に国内初の「バリアフリー媒体」を創設。障害者の権利問題だけでなく環境やサステナビリティについても独自の声で情報発信をしている。クラウドファンディングに支えられている同メディアが初挑戦したドキュメンタリーは、ネット公開時のハッシュタグが効果的だったのか、大手新聞の目に留まり、大きな反響を呼んだ。
 というのも、ORFは障害者の雇用で、最低限の雇用義務を果たしていない。慈善番組は、公共放送丸抱えの「ホワイトウォッシュ」だという「アンデラーザイツ」の指摘は、的外れとは言えないのだ。また、ORFの「人道主義放送」担当者が、作品のなかで「暗闇に灯を」の社会的貢献を強調して「お情け頂戴」の演出を容認し、制作方針を見直す考えがないと言ったことも批判の的となった。
 「寄付」文化が定着しているオーストリアで慈善行為に横やりを入れる者は少ない。しかし半世紀支持された看板番組であっても、現代社会が求めるインクルージョンを蔑ろにできない。
 12月に入り、番組のパトロン役を務めている大統領が、ORFの報道局にコメントを寄せた。番組の大きな功績を認めながらも、「あるコンセプトが時代遅れだと感じたら、それを問い直し、考え直すことは決して誤っていない」。障害者と同じ目線に立って対話を進めることを求めた。
 翌日、ORF会長が同局の評議会で、「障害者や関係者・専門家から寄せられた批判を真摯に受け止めたい」と発言。1月に開かれる「暗闇に灯を」の関係者会合に、障害者や専門家らを招いて、番組の方針について協議するということだ。
 毎年クリスマスイブに「暗闇に灯を」をながら視聴している人は、番組から希望を感じ取っている。この日に政治討論は馴染まないだろうが、善意のオンパレード以外の方法もあるのではないだろうか。Z世代の提言がどんな変化をもたらすか楽しみだ。

いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。





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