Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.02.07 UP

【Inter BEE CURATION】夢を追う普通の男たちの 英ドラマ「ディテクトリスト」

小林恭子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2023年3月号からの転載です。


 このところ英国のテレビを見ていると、女性が表に出るものが目立つ。特にニュース番組だ。司会者、現場を伝えるレポーター、ゲストとして出演する専門家が全員女性であることも珍しくない。「また女性か」。筆者の隣でテレビを見る家人がつぶやく。「いや、それが悪いっていうわけじゃないけど」と慌てて付け加えた。
 ニュース番組で女性の出番が増えたのは、2017年、男性中心になりがちだった出演陣の顔ぶれを変えるため、BBCのロス・アトキンス記者が「男女比50%作戦」を開始したせいもある。女性重視の風潮が日常的になるなかで、「普通の」男性たちのドラマがひっそりと、じわじわと人気を広げてきた。「普通の」とは二枚目俳優として知られるジョージ・クルーニーでも、高齢になってもスーパーマンのように戦闘機を操縦するトム・クルーズでもない男性たち、つまりは私たちの周囲にいる男性たちのことだ。

金属探知機を手に持って


 そんなドラマの一つが、BBCの「ディテクトリスト(Detectorists)」。放送開始は2014年である。教養番組や海外ドラマを放送するチャンネル「BBC4」で、夜10時からの30分番組として登場した。高視聴率の獲得を期待されていないチャンネル、時間帯だ。
 「ディテクトリスト」とは、金属探知機を使ってコインや金塊、歴史的遺物などを趣味で探す人を指す。ドラマの舞台は、イングランド東部エセックスに設定された架空の町ダンベリー。「ダンベリー金属探知機クラブ」に所属する中年男性アンディとランスのお宝探しやクラブ仲間との交流、私生活のドタバタぶりが綴られる。派遣会社で働くアンディは小学校教師のガールフレンドと一緒に過ごすよりも、7世紀アングロサクソン時代の遺跡探しに夢中だ。「まともな仕事」に就くことを望むガールフレンドに「どうするの?」と問い詰められると、いつも言葉を濁してしまう。仕事にせよ、ガールフレンドにせよ、何かに縛られることを嫌う。気軽に付き合えるランスは別格だ。
 一方のランスはフォークリフト運転手でアマチュアミュージシャンでもある。離婚した妻に未練を持ち、元妻が経営する小売店を訪ねるたびに軽くあしらわれてしまう。すごすごと退散するランス。アンディ同様、人との対決は大の苦手だ。
 「やらねばならぬこと・やるべきこと」の要求から逃れ、二人が向かうのは遺跡探しの冒険だ。金属探知機を使って野原で探査作業を行った後、木の根元に腰を下ろし、他愛ない冗談を言いながら持参のランチを食べる。そよ風が吹いて草木が揺れる。鳥の鳴き声が聞こえてくる。二人は「退屈きわまりない」クラブ仲間と「収穫」を比較し合い、パブに行ってビールを飲む。仲間も仲間の収穫も「大したことない」が、自分たちだって実は傍から見たら「退屈きわまりない、大したことがない」人間だということを知っている。
 「ディテクトリスト」はじわじわとファン層を増やし、クリスマス特別番組(15年)、シリーズ3(17年)まで続いた。昨年末にもクリスマス特番が放送された。
 社会的地位、おカネ、職など世間的基準からすれば「持たざる者」にされてしまいそうなアンディとランス。絶対にクルーニーやクルーズにはなれない。しかし、マッチョさからは縁遠い二人の姿が多くの男性たちの共感を呼んだ。「男性であることや男性同士の絆をこれほど優しく描いたドラマを見たことがない」とタイムズ紙の記者は評した(2020年3月3日付)。

才人クルックの発案で始まった


 ドラマの企画・脚本・監督・主演を担当したのは、アンディ役のマッケンジー・クルック(51歳)。BBCの大ヒットコメディ「オフィス」(2001〜03年)の軍事オタクの会社員役で著名になり、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでは義眼の海賊ラゲッティを演じた。細身・大きな目が特徴的なクルックは、演技というよりもその風貌で観客に忘れられない印象を残す。筆者もそんな観客の一人だったが、さりげなさに深い意味を込めるこんなドラマを生み出すことができる才人でもあったことを知った。
 ランス役は小柄の性格俳優として知られるトビー・ジョーンズ(56歳)。父は俳優で、兄弟にも俳優や映画監督がいる芸能一家の出身だ。数々の映画、テレビ、ラジオドラマなどに出演し、2018年には「ディテクトリスト」で英アカデミー賞テレビ部門のコメディドラマ男優賞を受賞。20年、チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』で主演し、ローレンス・オリビエ賞にノミネートされた実力派だ。
 今後も「ディテクトリスト」は続くのだろうか? 「たぶん、もうない。だが……」とクルック(『ラジオタイムズ』の記事、2022年年末号)。筆者は、テレビか映画でコンビが復活してほしいと願っている。

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BBCドラマ「ディテクトリスト」の主人公アンディ(左)とランス(『ラジオタイムズ』年末・新年号の誌面)

こばやし・ぎんこ メディアとネットの未来について原稿を執筆中。ブログ「英国メディアウオッチ」、著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『英国メディア史』(中公選書)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)

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