Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.03.07 UP

【Inter BEE CURATION】米で空前のワールドカップ人気 争点は「スポーツウォッシング」

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2023年4月号からの転載です。

人権問題に敏感な欧米メディア

FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会は、サッカー人気がかなり低い米国に過去にない影響を与えた。米国代表の活躍によって、視聴者数が過去最高となり、人気底上げにひと役買った。
 一方で、人権問題に敏感な欧米メディアは、カタールにおいてLGBTや女性の権利が侵害されていることを活発に報道した。2026年には、米国、カナダ、メキシコの3カ国共催でW杯が開かれる。試合結果の感動で、主催者や開催地での不正や不正義が洗い流される「スポーツウォッシング」が起きてもいいのか、という点で、今後の開催国は厳しい目に晒されることは、米国も意識せざるを得ないだろう。
 日本では2月8日、東京地検特捜部が東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件で、電通の元幹部らを独占禁止法違反などの疑いで逮捕した。すでに、五輪組織委員会元理事の高橋治之被告が計2億円近い賄賂を受けたとして受託収賄罪で逮捕・起訴されている。同様に、欧米メディアではカタール大会もFIFA(国際サッカー連盟)理事らへの豪華接待など「買収」疑惑が、今回の大会開催中でさえ頻繁に報道された。「スポーツウォッシング」で不正や不正義を隠すために、金銭を使って何をしてもいいのかという問題は今後、世界的なスポーツイベントについて回るようになるだろう。
 米国での動きから見てみよう。「サッカー・サックス(サッカーなんかクソ喰らえだ)。ここはアメリカだ。アメフトを見ろ」という言葉は、カタール大会中もよく聞いた。街中や報道がW杯一色となる日本と異なり、米国ではW杯は人気が低く、街中の広告やテレビでの宣伝もほぼ皆無だ。日本ではテレビのニュース番組で試合結果がわかるが、米国のサッカーファンは、オンラインやソーシャルメディアで検索しなくてはならない。ちなみに米国の4大スポーツは、アメフト、バスケットボール、アイスホッケー、野球で、サッカーは含まれない。なぜ、そこまでサッカーは人気がないのか。

主催国批判は今後避けられない

サッカーが独立戦争を交えた英国発祥のスポーツというだけではない。アディショナル・タイムがわかりにくい、動きが少ないというサッカーの特徴が、米国人には向いていない。
 ニューヨーク市内にあるスポーツバーのマネジャーであるジョン・メレンデス氏はこう語る。
 「米国人は動きが速いのが好きなんだ。バスケットボールは、1試合で百数十点以上入ることもある。アメフトも、ユニフォームだけでなく、上下左右に動きが派手だ。それに比べてサッカーの動きは平面的で、90分も見て、得点はせいぜい1、2点で、米国人には理解に苦しむ競技だね」
 しかし、今大会では米国代表が健闘し、過去になかったほど多くの人が試合を見た。昨年11月25日に行われた米国対英国戦は、英語・スペイン語放送を合わせて1998万人が視聴した(AP通信)。男子サッカーでは米国内で3番目に視聴された試合で、過去最高は2014年決勝のドイツ対アルゼンチン、2番目は2010年決勝のスペイン対オランダだったという。この時点で、米国代表が絡んだ試合で視聴者数がトップになった。
 さらに、11月30日の対イラン戦は、平日午後であったにもかかわらず、1910万人が視聴した。英語放送を独占するFOXスポーツによると、ストリーミング配信も100万人もが楽しんだ。米国はその後、オランダ戦で16強から敗退した。
 ただ、米国代表が過去になく注目されたのは、開催時期が通常のように夏ではなく、他のスポーツとの競争がなかった点、また連休となる感謝祭付近に重なったこともある。
 しかし、不人気のサッカーW杯にしては、報道の量も質も高かったと感じている。
 「こんなにニュースに溢れたW杯は見たことがない」(ニューヨーク・タイムズ)。試合結果だけではない。大会開催前から、カタールの誘致に関する贈賄疑惑、さらに、英BBCがスクープした約6500人もの移民がW杯関連施設の建設工事で命を落としたという事実で、今大会は、単なるスポーツイベントを超える「事件」的な扱いを受けていた。
 加えて、LGBTや弱者との共存を訴えた「ONE LOVE」という腕章の着用が制限されたこと、イラン代表が女性差別に抗議した行動を取ったことなど、人権に関する問題提起が連日のように各国チームから発信された。FIFAやカタール政府が目指した「スポーツウォッシング」は、各国代表の行動、メディアの報道、さらにはファンらの意思表示によって、大幅に薄められる結果となった。
 決勝戦は「スポーツの歴史上、最も素晴らしい王座決定戦」(CNN)となったのは間違いない。しかし、カタール大会は、過去の世界的スポーツイベントが「スポーツウォッシング」で洗い流そうとしてきた多くの問題は無視できないという認識を新たに植え付けた。人種差別や、世界で突出して多い銃撃事件を抱える米国も、主催国となった場合に受ける批判は避けられない。

つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。

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