Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.06.30 UP

動画の世界が変化するスピードにどう対応するか〜資生堂クリエイティブ・小助川雅人氏インタビュー

境 治 Inter BEE 編集部

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特別企画INTER BEE CREATIVEでは今年初めて「動画マーケティングラウンジ」を設け、専門の出展者が集まる。マーケティングにおいて動画はYouTubeやTikTokなどプラットフォームも多様に存在し、うまく使えば大きな効果を発揮するが、置けばすぐに見られるわけでもない難しい領域だ。そこに秘訣はあるのか。方程式は存在するか。
そこで今回、資生堂クリエイティブ株式会社のエグゼクティブクリエイティブディレクター、小助川雅人氏にインタビューした。同社は資生堂のクリエイティブエージェンシーで、小助川氏は動画マーケティングの先駆者の一人だ。世界でも受賞した作品を制作してきた同氏の、考え方や発想を聞いた。
(メディアコンサルタント 境治)

企業が言いたいことではなくて、 視聴者が見たいものを作る

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---小助川さんにはやはり、動画ブランディングの成功事例である『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』(以下、『メーク女子高生』)についてお聞きしたいです。どういった経緯でどのように作っていかれたのでしょうか。
企画は2014年ぐらいからスタートしました。資生堂はマス広告には強いけれども、デジタルのムービー制作はあまりノウハウも持ってなかった。そこで、ケーススタディを作りたいと始まった企画です。
どういう風にウェブムービーを作って、どんな風に広がっていくのかの検証が目的。テーマは当初「化粧の力」でしたが、さらに絞って「メイクの力」にしました。それを表現するには何が1番いいか何十案も出して検討した際、筑波大附属駒場高校の文化祭で毎年行われていた女装コンテストに着想を得て、作りました。
資生堂は母親世代のブランドと思われているところがあって、高校生の鞄の中には資生堂のアイテムは1個もないということも。そこで若年層を狙い資生堂らしくない、資生堂のイメージが変わる映像を意図しました。
『メーク女子高生』動画を見る

---今見ても、また当時と違った感覚で楽しめますね。今のお話ですと、LGBTを強く意識されたわけでもなさそうですが、自然にそういうメッセージも伝わります。
演出の方向の一つとして検討はしましたが、資生堂としての一貫性も踏まえ、ジェンダー文脈ではなく「パワーオブメーキャップ」を主題にした。その後、会社としていろんなアプローチも始めたので『PARTY BUS』の方ではジェンダー文脈にも踏み込んでいます。

『メーク女子高生』が、最初エピカアワードというヨーロッパのジャーナリスト中心の賞で評価されたのですが、当時グローバルではジェンダーの問題が大きく浮上していてその文脈で捉えられたのはあります。

---テレビCMの制作とWEBでの動画制作と、考え方はどう違うのでしょう。
15秒CMの限界みたいなものを相当感じ始めていました。企業側、ブランド側から伝えたいことが多すぎて、どうしても表現の幅が狭まる。また当時から若年層のCM離れは言われていて、見てもらうためにはどうしたらいいんだろう、と思っていました。当時は、比較的自由度が高い領域でもありましたし。
でも作り方は僕らもわからない。そこで当時バズっていた、サントリー・CCレモンの『忍者女子高生』を作ったチームに取材して、ウェブムービーの基本的な作法も、勉強しました。今でも本当にそうだと思うんですけど、企業が言いたいことではなくて、 視聴者が見たいものを作る。これが絶対大事と言われて、そこを徹底した感じです。
当然、お金を支払えば流せるテレビCMに対し、 WEB動画はわざわざクリックして見てもらうのでハードルが高いと思います。能動的なアクションを起こしてもらうには、作り手の心構えをだいぶ変えないと、見てもらえない。どうしても言いたいことばっかり詰め込んでしまっていましたから。

プラットフォームの多様化やテクノロジーの進化についていくのも大変

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---作り手としてのびのび作れる場だったり、受け手重視で作る場がWEB動画だという捉え方ですね。
当時はそういう余地があったと思いますが、どんどん変わってきています。今はデータを見ながらROIがきちんと取れるのかも検証されます。かなり細分化もされていますし。

---WEB動画でも、ブランディングと販売促進を分けるようになっているのでしょうか。
そこを明確に分けている企業やブランドはそんなに多くない気がします。ブランディングとプロモーションがなんとなく一緒になっているのが、日本の特殊性かもしれません。カンヌ広告祭の審査員をやらせてもらった時に海外のみんながすごく意識しているのがブランディングでしたが、そこは相当意識が違うなと思いました。別のスポーツやってるみたいな感じ。

---欧米の人たちのブランディングは振り切って作っている?
クリアですね。もちろんプロモーションは別でやるわけですが、ブランディングに関しては本当に特化して考えている。メッセージのあり方とか、映像クオリティとか。今日的にどんどん変えてはいますけど。戦略としてクリアに分けている印象はありました。

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---では日本は逆に、戦略の役割分担がはっきりしてない?
大きく言うとそう思います。もちろん、企業やブランドによってはクリアに分けてるところもあるとは思いますけど。たださすがに最近、バズらせたいという発注はなくなってきていて、いかにターゲットに対して役割を果たせるかを問われるので、マーケッターの意識も相当変わったと思います。

---ターゲティングは、クリエイティブによるところが大きいのでしょうか。それとも、地道な広告を打つのが大事なのでしょうか。
両方あるなと思っていまして、ソーシャルのプラットフォームもものすごく多様化してますし、それぞれの中でのメニューも細分化されていて、見る人の視聴態度も変わります。縦で見るか、横で見るかも、細分化されていますし。それぞれにかなり検証できてきたのもありますね。それを見るモーメントが違うとか、いくらでも細分化できるし、それを追いかけるテクノロジーもどんどん進化してしまう。本当についていくのが大変ですね。
今までの枠組みと予算の中で、どう分けていくか。作るものが多岐にわたるからといっていきなり予算を増やせるものでもない。今までのバジェットの中でどんなふうに分けていくのか。過渡期なので、マーケッターの意思とクリエイティブ側の意思とをすり合わせていく時期だなと思います。

ソーシャルプラットフォームの中で、それぞれのカルチャーがある。TikTokが1番わかりやすいですが、その中の作法がありプレイヤーがいてそっちに委ねた方が、ブランドがやりたい目的に到達する。むしろプロが関わらない方がいいことも出てきているのが、今の状況だと思います。そこをどう戦略的に見極めていくのかが、マーケッターにも求められている。
広告ってわかっていても、面白いものは見ても面白い。一方で、明らかにやらせでつまらないものは、例えばTikTokのスタープレイヤーがやっていても見ている人にはすぐわかってしまう。その見極めや加減も、動画制作の中に、含まれてきている感じがします。
こちら側のスタンスとして、お金出すんだからこれやってと作ってもらってもおそらくダメ。そこのカルチャーをリスペクトしていかないと、見ている人にはすぐわかってしまう。

機材や技術も次々進化し、そういう知識も同時進行で追っていきたい

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---目まぐるしい変化に対応し、作り方も様々に変えていくわけですね?
動画の役割分担が相当クリアになってきているので、ブランディングも兼ねたような長尺もあるし、普通のプロモーションもあるし、あとサポート的なハウトゥーであったり、作り方も相当変わってきていますね。
そういう意味で機材や技術も相当、変わってきていると思うので、そういう知識は同時進行で知っておかなきゃいけない気がします。

---Inter BEEを意識していただいたようなコメントでありがたいです。(笑
いや、でも、本当にそうなんです。たまたま昨日、ブランドマーケティングチームと、これからのデジタルをどうしていくのか話をしていたのですが、みんな共通の課題を持っていて、変化のスピードにどう対応していくべきなのか。本当は先手先手を打てるといいはずなんですが、やっぱり前年ベースで考えていくと、新しいチャレンジもできない。あるいは新しい知見はどうやって入れていくのか。情報の流れ方をどう組み合わせていくのか、そういうストラテジックなところを、誰にやってもらうのかとか、なかなか解決策が難しいですね。

---技術や新しい機器も、また追いつけないぐらいどんどん進化してますが、小助川さんの制作の中でも新しい技術の活用は出てきていますか。
バーチャルシューティングは技術がコロナ禍でめちゃくちゃ発展したと思います。昔みたいに、予算もスケジュールも取れないことが増えてきているので、企画の中で どういう撮影方法にするのかの選択肢には入ってきています。あくまで企画ファーストですが、それをどう具現化させてくのかで、VR撮影の選択肢も出てくる感じです。

---最後に、動画に関して、今後やりたいことなどありますか?
動画だけでなく、今や 本当に見たいものしか見てくれない時代になっていると思うんですよね。見たいものか、役に立つもの。そうするとエンターテイメントか、本当に役に立つもの、どっちかになってきている。僕はデータドリブンも大事だと思いますが、シンプルに言えばユーザーが積極的に見たいと思えるものを作りたい。みんなが見たいと思うところには、個人的な美意識や価値観、あるいはやりたい衝動みたいなものが、大事だと思ってます。人間が持ってる、 本能的、感覚的なものはなかなか数値化できない。特にデジタル媒体のものは、 作り手のパッションが直接伝わるところがある。これからAIによるムービーの自動生成もどんどん出てくると思いますが、勝ち目があるはずだと思います。


小助川氏がいかに柔軟に、またユーザーの目線でWEBでの動画クリエイティブを考えてきたかがよくわかるインタビューとなった。ぜひみなさんも今年初めて設けられる「動画マーケティングラウンジ」で最新の技術や考え方に触れていただければと思う。


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