Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2022.02.01 UP

【Inter BEE CURATION】「推しの新局面をビジネスに活かすには?」博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所ウェビナーレポート(後編)

編集部 Screens

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2022年1月31日に掲載された博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所ウェビナーのレポート記事の後編「推しの新局面をビジネスに活かすには?」記事です。お読みください。

「推しの新局面をビジネスに活かすには?」博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所ウェビナーレポート(後編)

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所主催のオンラインイベント『メディア環境研究所ウェビナー2021冬 「推しがあるとうまくいく 〜オンラインベース社会の生存戦略」』が2021年12月10日に開催。ファンである人物やキャラクター、コンテンツに対し、個人的な愛好にとどまらず、他者との積極的な共有や共感といったコミュニケーション全般へ心血を注ぐ行動としての「推し」をテーマに掲げ、その現状を掘り下げた。

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本記事では前後編にわたり、その模様をレポート。後編となる今回はパネルディスカッション「推しの新局面をビジネスに活かすには?」の模様をお送りする。登壇者は、日本テレビ放送網株式会社 R&Dラボ 部長・西 憲彦氏、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員・森永真弓氏、野田絵美氏。モデレーターを同所長・島野 真氏が務めた。

>(前編)「推しがあるとうまくいく 〜オンラインベース社会の生存戦略」

「良さより、楽しみ方を伝える」日テレ『スッキリ』に見た「推し2.0」の形

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博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 島野氏

最初に島野氏が、パネルディスカッションの前に行われたキーノートの内容を整理。「推し」の概念が拡大し、「価値観の表明」や「仲間への贈り物」、さらに対人コミュニケーションを担う「新たな架け橋」としての価値を帯びているとし、これらに注目することでメディアやコンテンツビジネスの可能性が広がるとした。

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これに対し、「『推し』が生活の一部になってきているという強い実感がある」と西氏。「自分の家族を見ていても感じるし、自分自身も『推し』に対する感覚が変わってきた」といい、「『推し』は生き方をアジャストする力になっていると改めて実感した」と語る。

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インタビューを行った人々が『推し』に掲げた対象として、アイドルグループ「Nizi Project」「BE:FIRST」など、「日本テレビの情報番組『スッキリ』で特集されたことをきっかけに興味を抱いたという声が多かった」と語る野田氏。西氏は「『スッキリ』は、いままさにそうした流れを作っている番組」と、その背景を語る。

「もともと『スッキリ』では、音楽のライブコーナーを番組中に設け、若者がちゃんと楽しめるターゲットのアーティストを迎えるといった素地があった。これに対し、日本テレビが試行錯誤を繰り返しながら取り組んできたIP(知的財産)ビジネスの流れがつながっていっているように思う」と話す。

「当初は深夜番組などでアイドルグループ『26時のマスカレイド(ニジマス)』を展開し、そこでの学びが『NiziU』につながっている」と西氏。「さらに『NiziU』が『BE:FIRST』へとつながっていき、『スッキリ』がもともと持っていたポテンシャルと良い形で結びついた」といい、「MCの加藤浩次さんやアナウンサーも含め、その楽しみ方を良い形で展開できているのではないかと思う」と述べた。

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「『スッキリ』のなかで、ハリセンボンの近藤春菜さんが『NiziUがいかに良いか』を説明するのではなく、『私がいかにNiziUを楽しんでいるか』を語っていたのが印象的だった」と森永氏。

「『スッキリ』は、“良さ”よりも“楽しみ方”を教えてくれた。『こういう視点でNiziUを見ていけばいいんだ』、『春菜さんはこの子が推し、と言っていたが、同じ視点で見たら私はこちらのメンバーのほうが好みだ』というように広がっていったのではないか」と森永氏。

「最近、オタクではない友人と話すと、『オタクの人たちって、こんなに楽しい生き方をしていたの?』『もっと早く教えてほしかった』と言われる」と森永氏。「オタクというものは自家発電のように自らの好きなことや楽しみ方を見つけ、どんどん世界を広げていくことが自然体にできる人たちと思っているが、そうではない人も世の中にはいっぱいいる」としつつ、「そうした(非オタクの)人たちに、オタクがこれまでやっていた楽しみ方が伝わっていったのが、『推し2.0』の姿なのではないか」と指摘する。

「これまでのようにすべての層をターゲットとするというスタンスから転換していかなければならないという状況のなか、テレビにはこうしたつながりを生む価値があるのだと改めて感じる」と西氏。「こうした価値に気づいていただける芸能事務所も増えている」といい、「幸せな『推し』を生みだす役割として、地上波の放送をよりよい形で生かしていきたい」と語った。

セグメント化する現代で“共通項探し”の役割を持つ「推し」

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「最近は『オタ活』『推し活』が非常にオープンなものとなった」と森永氏。特定の相手や事柄の魅力に取り込まれて、抜け出せなくなることを表す『沼』という概念に対する価値観も、大きく変化しているという。

「これまでの『沼』は『認められたものしか入れないところ』であり、仲間入りしたとは認められない人(ライトなファン)を『ニワカ』『ミーハー』と呼んだり、『自分たちとは違う』という境界線を張るところがあった」と森永氏。一方、現在は「どうぞどうぞ、こちらが入り口でございます、と『沼』へのレールを引いたり、積極的にハマってもらうために背中を押す流れが出来ている」といい、その範囲が「仲間同士だけでなく、テレビやスポンサーのタイアップなどにも及んでいる」と語る。

「アーティストにしてもアニメのキャラクターにしても、グループは強い」と西氏。「いろんなキャラクターの肖像が並ぶポスターのように『コミュニケーションが取りやすい広告』というものが存在する」といい、「これらの広告が『推しガイド』として役割を果たしている面もあるのではないか」とコメント。島野氏も、「多様な『推し』の視点を提示するという点は非常に重要であり、もともとマスメディアが得意としてきたところ」と強調する。

「さまざまな差別化や差異化が進み、世の中がセグメント化されていくなかで、今回の『推し2.0』は、ある種の“共通項探し”になっている。みんなに賛同してもらえるような呼びかけにもなっており、一緒に『推し』を楽しめるという動きになっている点が興味深い」と島野氏。

「取り上げてくれてありがとう」“警戒対象”から“仲間”へと変化したメディア

「これまではオタク同士で議論を戦わせたり、『自分の論が正しい』『自分のほうが詳しい』とアピールしあう風潮も強くあったが、いまは意見の違う人たちも受け止めつつ、争わないようにそっと距離を置く傾向が強くなっている」と森永氏。「心の平穏な状態を維持するため、自分の『好きな気持ち』を維持するために、意見の合わないものとは距離を置きながら、うまく他者と関係性を維持するようになった。それが楽しみの広がりにもつながっている」と指摘する。

「かつてはテレビがオタク的な題材を扱うことを警戒する流れがあったが、いまはそうした反応も割と減り、逆に『紹介してくれてありがとう』『テレビの“中の人”も私たちと同じ“仲間”だ』と好意的に捉えられるようになってきた」と。

これに対し西氏は、「かつてはテレビで『オタク』を取り上げる際、奇異なものを取り上げるような目線がどこかに隠れていて、そこが警戒されたのだと思う。いまは『これだけの人たちが楽しんでいる』という面にスポットを当てて取り上げているという要素が大きい」。

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「(いまはメディアも自分たちと同じ)『好き』の仲間で、『公式さんありがとう』と感謝される立場になっている」と野田氏。森永氏も「いまや、(コンテンツを提供している)スポンサーまでも『ありがとう』と感謝される時代になった」と語り、島野氏も「(メディア側も)同じ『推し』という立場で見てもらえるようになった」と同意した。

他者とのコミュニケーションツールになった「推し」

生活者へのアンケートを振り返り、「同じ『推し』の人はもちろん、『推し』の違う人とも仲良くなれるという声が多かったのが印象的」と島野氏。「『推し』を持っていることで気持ちが前向きになり、明るくなれるところに共通を見出しているところが興味深い」と語る。

これに対し、「仲間を増やしたいという気持ちが先に立っている」と野田氏。「楽しい話で『いま何をしているの』と尋ねるくらいに、安心安全な会話のきっかけとなっている」といい、「(推しが)本当の意味で日常の会話の一部になっている」と指摘する。

「自分もだが、好きなものがある人は早口でテンションが高くなる印象がある」と森永氏。「『これくらいのしゃべり方のテンションになるということは、信頼できる、ガチ(本気)の感じがする』という感覚がある」といい、「(こうした価値観ゆえ)『推し』が違うオタク同士でもつながれるのではないか」と考察。島野氏も、「自分だけで楽しむのではなく、コミュニケーションを取るために(『推し』を活用している)という点がまさに新しいところ」と同意する。

「SNSが進化し、双方向コミュニケーションを取り得る環境になったことは大きい」と西氏。「これまで『推し』は各自それぞれで楽しむものであったが、SNSを上の世代も使いこなすようになったことで、新しいコミュニケーションが生まれている」と指摘した。

切り抜き動画、二次創作……「ファンに流通を委ねる」ことへの期待と課題

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野田氏は生活者インタビューを振り返り、「『推し』を見つけるも、『いつかその対象コンテンツが(シリーズ終了や解散などによって)無くなってしまうのではないか』という不安感が見て取れた」と指摘。「同じ時間の放送枠つながりや、ジャンルつながりで興味を広げていく行動の背景には、『ひとつの『推し』にハマりすぎると、それを失ったあとの穴が怖い』という心理がある」と、いわゆる「○○ロス」問題に切り込む。

森永氏は「制作者側から無尽蔵にコンテンツを出し続けることは難しいのも現実」としつつ、「ビジネスとしてうまくやっている例」として、韓流アイドルのコンテンツ事情を紹介。韓流アイドルの世界では、ミュージックビデオやメンバーによるバラエティ動画などの公式コンテンツを素材として使ってファンが自由に編集、二次公開することを認めている場合があるという。

「ファンが自分の『推し』のメンバーの動画のみを切り取り、そのメンバーのみの動画を作って公開する。それを見た『別のメンバー推し』のファンも同様のコンテンツを公開し、友達に“布教”するといった、『推し活動のエコシステム』が出来上がっている。(コンテンツ流通を)ファンに委ねることによってコンテンツそのものの寿命を長くし、新たなファンを広げることにも成功している」と森永氏は語る。

「SNSなど、さまざまなコンテンツ発信の手段が増えたことによって現場の作業量が激しく増加しており、現実的に追いついていないのは事実」と西氏。「制作者サイドの労働環境を守るということとの両立は非常に大きな課題」とし、「こうした側面からみても、(二次コンテンツの制作・流通を)ファンに委ねるという方法は非常に合理的であり、一挙両得、Win-Winといえる」と語る。

その一方で西氏は「芸能事務所との権利関係や、テレビ局自体の権利に対する考え方とはギャップがあるのが現実」と語り、「これをどう埋めていくかが今後の課題」とコメント。「あるタイミングで基準を緩めるなど、ケースバイケースでの対応が必要になってくるだろう」と述べた。

「(ファンによるコンテンツ流通は)期待されているし、実際にアンダーグラウンドで行われている実態もあるが、実際の権利者の権利をきちんと尊重した上で、いかに活動を共存していく仕組みを作ることができるかが課題」と島野氏。西氏も、「ビジネスの形につながっていかなければ、元のコンテンツそのものが継続できない」と同意する。

コンテンツ流通増とビジネス担保を両立する「追加アクティベーション料」のアイデア

ここで、森永氏が、スポーツ協賛における事例を紹介。「かつてはユニフォームや大会会場、テレビ放送などでのブランド露出権利を取得することがスポーツにスポンサードする価値だと捉えられていた。最近は海外を中心に、『アクティベーション料』として追加予算を用意し、大会、チームや選手たちに活動連携を追加交渉するケースが増えている」という。

「現在のテレビは番組枠を購入してCMを流すという広告モデルだが、たとえば追加で『アクティベーション予算』を支払うことによって、例えばテレビドラマであれば独自の『サイドコンテンツ』を制作するというような流れが作れるのではないか。その結果、『スポンサーのおかげでこの映像やグッズが手に入った、ありがとう』とファンに感謝されるような関係が作れるかもしれない」と続けた。

「資金を確保でき、(コンテンツごとに)別働隊を動かすことができれば、現場の負荷問題も解決し、相乗効果が期待できる」と西氏。「日本テレビでも『巨人軍の選手や芸能人と一緒に“記念写真”のようなツーショット写真を作成できるサービス』といった新規事業を番組連動等で展開しているが、そういった取り組みをさらに広げていければ、『推し活』に役立ててもらうことができ、コンテンツ事業も継続できるという相乗効果が見込める」と期待をのぞかせる。

「○○ロス」は“機会損失”―― コンテンツ寿命を保ち続ける方策としてのSVOD

「これからは、コンテンツをただ作っておしまい、というのではなく、その後の運用という視点が非常に重要になってくる」と島野氏。

「意図して『○○ロス』状態を生み出す戦略もあると思うが、そもそも『○○ロス』が生まれてしまうこと自体がもったいないのではないか。生活者インタビューのなかでは、コンテンツの終了や契約期間の問題で『一斉に動画が見られなくなり、すごく寂しかった』という声も聞かれた。こうしたことをいかにスマートに解決していくかという点に、チャンスがあるのではないか」と島野氏は語る。

「定額制動画配信サービス(SVOD)においては、コンテンツに“寿命”がなく、『好きなときにいつでも見られる』状態になっている」と野田氏。「こうしたプラットフォームのなかに入り込むこと自体が、クライアントにとってはコンテンツの寿命を長く保てるチャンスかもしれない」と語る。

続けて、「『“○○ロス”のあとは、定額制動画配信でこれを見たらいいんじゃないか』というようなつながりを作り、『推しガイド』として機能させられると、より長く、“ロス”せずに楽しめるのではないか」と。

「(SVODとの連携は)『推し』というオーディエンス側の期待にも応えることができ、制作者側との双方にとってWin-Winの関係になっていくかもしれない」と島野氏。「いかに『一過性でない』状態を維持するかが視点として大事になってくる」と語り、パネルディスカッションを締めくくった。

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