Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.05.02 UP

【Inter BEE CURATION】ドラマ『罠の戦争』で証明するカンテレ「トータルリーチ」のセールス成功事例【関西テレビ メディアビジネス局長インタビュー前編】

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子 Screens

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※Inter BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2023年4月21日に掲載されたインタビュー記事を転載しています。是非お読みください。

関西テレビ(以下、カンテレ)が注目するのは、コンテンツ単位のビジネスモデルにある。地上波とキャッチアップ、OTTを合わせた総視聴者数=トータルリーチを新たな指標とし、約10年前からビジネスパートナーと共通認識を深めながら、セールス展開を進めている。2023年1月期ドラマ『罠の戦争』はその成功事例という。カンテレは地上波テレビのコンテンツの価値をいかにして高めているのか。竹内伸幸メディアビジネス局長が明かしたその全貌を前後編にわたりお伝えする。

■視聴者の行動変容が顕在化、メディアにおけるテレビが置かれる立場が明らかに

――今回のテーマにある新指標「トータルリーチ」戦略の背景として、テレビ広告のセールスの現状を教えていただけますでしょうか。

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竹内氏:これほど環境の変化を感じる年はありません。どの局も4月改編セールスに苦労したのではないでしょうか。その理由として考えられるのは、コロナ禍の終息と共にメディアにおけるテレビが置かれる立場が明らかになってきたからだと思います。コロナ禍での巣ごもり生活の中で OTT の利用が増え、テレビ視聴も増加しましたが、視聴者の社会・経済活動が再開した今、真っ先に忘れられたのはテレビ視聴なのかもしれません。地上波テレビはタダだからです。趣味性・嗜好性が強く、ネットさえ繋がっていればどこでも視聴可能な OTT や YouTube が選ばれる一方で、テレビの PUT の減少が顕在化しました。その要因には、地上波テレビのコンテンツ価値が正当に評価されていないことが大きいと思います。

――視聴環境が変化するなか、視聴率だけでテレビのコンテンツの価値を図るには限界があるのかもしれません。

竹内氏:そうですね。TVer のような見逃し配信を始めていなければ、テレビはもっと大きな打撃を受けていたとも言えるかもしれません。視聴者がメディアに接触するには接点が必要な時代に入っています。その接点の多さによって、視聴機会が増加していくとなると、TVer やリアルタイム配信は地上波の接点を補う重要なツールだと思います。また、テレビの視聴を奪っているとも考えられているOTT こそがテレビが失っている接点を大きく補完する役割を持っていると確信しています。ドラマ『罠の戦争』を例に「トータルリーチ」のビジネスモデルでそれを説明したいと思います。

■『罠の戦争』はトータルリーチの成功例

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――いつから「トータルリーチ」戦略を始め、そもそもなぜ推し進めているのか。まずは経緯と理由を教えてください。

竹内氏:カンテレが見逃し配信を始めたのは2010年の『R-1 ぐらんぷり』からです。2013年には旧Hulu(日本テレビ傘下以前)に、2015年にはNetflixにコンテンツ配給し、この頃からSVODに対するコンテンツ供給が増えていきました。2019年のドラマ『BRIDGE』は大規模な制作費を投じたもので、U-NEXT独占配信によって多彩なコンテンツ展開を行うことができました。さらにドラマ『結婚できない男』、『まだ結婚できない男』のシリーズはカンテレ制作ドラマの中で多くの収益を上げた代表的な作品になりました。Amazonへの供給がカギとなりました。

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なぜカンテレがトータルリーチ戦略を進めているのかというと、カンテレ制作の全国ネットドラマをSVODにタイミングよく供給することがビジネスチャンスになると捉えているからです。またカンテレは、SVODの自社プラットフォームを持っていません。SVODに関してキー局が自社プラットフォームを軸にコンテンツ展開を行っているのに対し、カンテレは日本における主要な OTT 全てにコンテンツを供給しています。これは民放局最大の総視聴人数を保有できることを意味します。だからこそトータルリーチ戦略を進めているのです。

――では、1月期ドラマ『罠の戦争』はトータルリーチの観点でどのように成功したでしょうか。

竹内氏:ドラマ『罠の戦争』はSVOD には Netflix と FOD の2社に、見逃し配信のTVer と同じタイミングで供給しました。つまり、最初の接点が地上波、次の接点がTVer と Netflix、FOD です。これによって、安定した視聴率を維持し最終回は前週を上回る数字を上げることができました。接点の多さによって好循環を生み出したと考えることができると思います。

なかでもNetflixでの配信直後に話題になったことは大きかったです。Netflix番組人気ランキング「今日のTV番組 TOP 10」で1位も獲得し、週によっては10月期ドラマ『エルピス』や1月期深夜ドラマ『インフォーマ』も含めてランキングにカンテレドラマが3本並んだこともありました。Netflixのランキングに安定して上位に位置付けられたこの客観的数値がコンテンツの価値を高めてくれ、地上波視聴回帰の飛び道具とも言えるものになったのです。これまでも業界内で キャッチアップやOTT にコンテンツを供給する事で地上波への視聴回帰を促すという理屈が語られてきたわけですが、実際にその通りであることを強く主張したいです。間接的にテレビの接点を増やし、認知されて地上波に戻り、コンテンツの価値も媒体価値も上げたことを『罠の戦争』が証明しました。

■地上波収入よりも上回るコンテンツ流通収入

――『罠の戦争』は従来型の地上波ビジネスではなく、コンテンツ単位のビジネスとして考えた結果が成功に導いたと言えそうです。

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竹内氏:まさにそうです。カンテレはコンテンツ単位のビジネスに早くから取り組んできました。強いコンテンツは地上波の収入構造をも変えることができます。実際、『罠の戦争』はコンテンツビジネス収入が地上波収入だけでは厳しい状況において相当部分を補完しています。テレビ局のビジネスとして、ドラマは地上波とコンテンツビジネスを合わせた収入で評価されるべき時代になっていくと思います。

――ビジネスモデルが大きく変わるタイミングだと思いますか?

竹内氏:はい。10年後に今を振り返ったら、まさにターニングポイントだったと思うでしょうね。コネクテッドTV時代において、放送局のコンテンツを地上波以外の媒体でどう展開し、マネタイズしていくかが喫緊の課題だと思っています。リアルタイム配信の広告セールスをいずれ地上波と同じぐらいの価値に持っていく必要もあると思っています。

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地上波のテレビコンテンツが過小評価されている。そんな危機感からトータルリーチ戦略を進めているのである。ドラマ『罠の戦争』の成功例を共有し、各局のドラマセールスに役立てることができたらと、竹内氏はそんな想いもある。

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