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Special 2023.09.29 UP

IBC2023 スペシャル現地レポート#02 システム&ソフトウエア編

デジタルメディアコンサルタント 江口 靖二 氏

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2019年以降、IBCでは複数の企業が次世代の放送や映像に向けたさまざまなプロジェクトを共同で構築する「アクセラレーター・メディア・イノベーションプログラム」を行っている。これはメディア&エンターテインメント業界を支援するため、複雑なメディア&エンターテインメント・ビジネスとテクノロジーの課題を解決するためのユニークな複数企業によるプロジェクトベースのアプローチで、アジャイル、コラボレーション、ファストトラック・イノベーションのフレームワークを提供するものである。具体的なユースケースやワークフローの実験を通じて新技術を学び、新たな可能性を理解する、実践的な実験に重点を置いている。

今回は2023年のプログラムから、特に「GALLERY AGNOSTIC LIVE MEDIA PRODUCTION(ギャラリーにとらわれないライプメディア制作)」を紹介したい。

「GALLERY AGNOSTIC LIVE MEDIA PRODUCTION」

このプログラムは、ライブ・メディア制作ワークフローの進歩を探求し、デバイスにとらわれない、ギャラリーにとらわれない、ハイブリッドな作業方法を介して、それらを現代にアップグレードし、既存のオンプレミ・デバイスとクラウド・デバイスの両方のコントロールを証明することを目的としている。
なおここで言うギャラリーとは、放送局内のサブやネットワークセンターのような物理的空間と、そこにある機材やスタッフのことを指しており、オーディエンスとしてのギャラリー(観衆)のことではない。

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GALLERY AGNOSTIC LIVE MEDIA PRODUCTION の主なメンバーによるプロジェクト報告

リニアのテレビ番組やコンテンツの制作は、よりギャラリーにとらわれず、デバイスにとらわれず、放送が予算や技術的可能性、突然の会場や場所の変更などの様々な状況に適応できるようにすべきである。

重要なのはプロデューサーやディレクター、エディターが1つの共通インターフェースから様々なデバイスや技術の蓄積をコントロールできることだ。これにより会場の変更や入中素材のインターフェイスの違いに簡単に対応できるようになり、結果としてプロデューサーが予算やショーの種類などの違いに適応できるようになる。ここで言うプロデューサーは日本的にはディレクターの方が感覚的には近いかもしれない。

プロジェクトではロケでのライブイベント、完全自動化されたスタジオ(オンプレとクラウドを切り替えながら)の運営を目指し、このワークフローを完全にプロフェッショナルなティア1レベルの設備を備えた放送施設と、ローエンドのポッドキャスト/ユーチューブなどの両方に適応できることも重要な検証ポイントである。
トライアルの構成はそれなりに複雑だったようだが、シンプルにまとめてみると

・ニュース番組である
・メインはバーチャルスタジオ
・ライブ中継1は固定した場所からノートPCで
・ライブ中継2はスマートフォンから
・ニュースサブはリアルとバーチャルに存在しており、HMDでXRをハイブリッド
・配信先1はテレビ(オンプレミス)
・配信先2は配信(クラウドマスター)
・配信先3は1台のPC

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ワークフローと配信先システムやプラットフォーム
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ランダウンシステム

というものである。ワークフローは

・ランダウン(システム)に番組情報や構成、進行を登録する
・ランダウンはオンプレミス、クラウドの両方の送出システムに接続している
・ランダウンは出演者、映像編集担当など全てのスタッフが共有している
・オンエア本番中は全てのスタッフが別々の場所にいる状態で進行していく

*ランダウンとは番組単位では動画や静止画、テロップやロゴ、ジングルなどの番組中の各オブジェクトを進行順に配置や登録していくこと、またはそのための手続き。通常は番組ディレクターが登録(=プログラム)していく。各オブジェクトを含めたデジタル進行表とも言うべきもの。

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ランダウンの登録
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バーチャルスタジオ
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中継先からの映像

このようにリモートによるライブプロダクションを突き詰めていくことで、柔軟性や速報性に加えて、一見するとこれらとは両立しないように思える冗長性や経済性を同時に実現できることがわかったという。たとえばクラウド上にある機材が故障した際(トライアルではLANケーブルを引き抜く)にでも、瞬時に自動でクラウド上の別の機材に切り替えることができる。

またトライアルの検討過程において、ニュースルームというのは依然として多数のモニターを備えた物理的な機材やスタッフが集まっている必要があるのか、という疑問が起きた。そここでHMDによるXRでワークフローをコントロールできるようにした。数多くのモニタースクリーンがあるニュースサブではなく、1台のPCとHMDだけでライブ番組を運営することができることを実証した。

これからのライブメディアプロダクションのワークフローの進歩を探求し、デバイスにとらわれないハイブリッドな作業方法を介して、それらを現代にアップグレードし、既存のオンプレミスとクラウドの両方のデバイスのコントロールを証明することを目的としている。

このトライアルで得られた知見は、
・標準的なMRCS(ニュースルームコンピューターシステム)とMOS(メディアオブジェクトサーバー)を再考する必要がある
・マルチフォーマットで、マルチベンダーで、縦割りかつ横のつながりのない技術資産をつなげて行くためには、核となるワークフローや共通のインターフェイスが不可欠である
・ランダウンは共通インターフェイスになるべきであり、APIがつなぎ役になる
・相互運用性は必須で、APIはそのための手段になる
といったことであったそうだ。

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得られた知見

今後もこのプログラムでは、APIへの標準化され構造化されたアプローチが、デバイスの相互運用性と接続性を確保できることをさらに探求をしていく。そこで今後ますます多くの機器がソフトウェアに特化することになるため、放送局やベンダーにオープン・コールを提案し、標準化の作業に入っていきたいとのことだ。もちろん日本からも参加することができる。

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ここから誰でも参加ができる。

このプログラムの内容や目指しているところを見てわかるように,未だにIP化について議論や難色がある日本の状況とは全く異なしてんで随分と先にいるのである。

クラウドシステムと完全AIで運用されているラジオ局

ここまではテレビの最先端の取り組みを紹介したが、ラジオについては同様のことがすでに商品サービス化されており、Radio.CloudとRadioManの2社がブースを構えていた。どちらもクラウドベースのラジオ局用のランダウンCMSとプレイアウトのためのWEBベースのアプリケーションである。

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Radio.Cloudのブース
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RadioMan(Jutel)

Antenne Deutschlandは、Radio.Cloudのプラットフォームを利用して、完全にAIだけで放送するヨーロッパ初のラジオ局を開設した。このオンライン専用局は「Absolut Radio AI」と呼ばれ、Absolut Radioの他の7つのストリームと6つの国内DAB+ブランドを含む他のブランドに加わる。

この新しい放送局は、14歳から49歳をターゲットに、過去10年間のポップスやダンスミュージックをミックスしている。kAIと名付けられたAI音声が音楽について語り、AI技術の特徴、利点、限界についてリスナーに伝える。Radio.Cloudを提供しているクラウド・ネイティブ・オートメーション・システム社は、ChatGPTを活用した新機能であるVoicetrack.aiによって、すべてのAI制作音声トラックを含む放送局全体を運営している。

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