Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Industry Curation 2024.12.16 UP

【Inter BEE CURATION】米大統領選で可視化された インフルエンサーの影響力

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2025年1月号からの転載です。

トランプ氏の勝利が意味するもの

米大統領選挙の投開票がさる11月5日に行われ、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が勝利した。民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と「大接戦」になるという米メディアや専門家の予想は覆され、トランプ氏が得票数、選挙人獲得数の双方で大勝した。その背景に、ポッドキャスターやユーチューバーなどインフルエンサーの影響力が指摘されている。SNSとともに、トランプ氏や保守派の主張が増幅された可能性もある。

 トランプ氏は投開票日の直前、1740万のサブスクライバーを持つポッドキャスター、ジョー・ローガン氏のスタジオでインタビューに応じた。3時間近くに及ぶYouTubeのインタビュービデオは、11月13日現在、約5000万回も再生されている。ローガン氏はトランプ氏を推薦した。トランプ氏の勝利の後、「推薦したことに対して、多くの人から感謝の声を得た」と公言もしている。

 一方、米メディアによると、ハリス氏はローガン氏から声がかかっていたものの、出演を断った。トランプ氏を招いたローガン氏に会うことで、民主党内部からの批判を恐れていたともいう。代わりに11月2日、伝統的な人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に出演、そっくり女優とわずか90秒のコントを行った。テレビ局側の配慮もあり、出演しただけで選挙に関する政治色はなかった。コント部分だけのYouTubeビデオは11月4日までに960万回再生されたという(ニューズウィークによる)。

 しかし、尺も再生回数もローガン氏のトランプ氏インタビューのビデオにははるかに及ばない。かつては、翌日の話題に乗り遅れないように若い人が見ていたSNLも年々視聴者数が減っている。ローガン氏のポッドキャストは、伝統的メディアであるテレビの注目度を奪った。しかも、好きなときに聴けて、ファンは3時間まるまる聴くこともできる。こうしたインフルエンサーの影響力は、2020年の大統領選挙ではまだ見られなかった。

男性、右派が多いインフルエンサー

日本でも根づいてきたポッドキャストだが、アメリカでは過去十数年、人気が上昇中だ。米調査会社エディソン・リサーチによると、2024年には12歳以上の市民の67%がポッドキャストを聴いた。同様に、47%が毎月、34%が毎週ポッドキャストに接しており、同社は「主要なメディアプラットフォームに成長した」と指摘する。

 急成長は聴取時間にも表れている。14年時点では、ラジオを含む音声サービスのうちポッドキャストが占める割合は2%だったが、24年には5倍超の11%に。23%のリスナーが週に10時間ポッドキャストを聴いている。

 また、米調査機関ピュー・リサーチ・センターは選挙後、Facebook、YouTube、Instagram、TikTok、X上で2058人のニュース系インフルエンサーを対象とした調査を発表した。その結果、インフルエンサーの約63%が男性で、30%が女性、残りは性的マイノリティと、ジェンダーギャップが大きいことがわかった。同時にインフルエンサーの27%が右派で、左派は21%、残りのインフルエンサーは政治的立場を明確にはしていない。

 実は、3回あったライブの候補討論会をホストした2つのテレビ局がリアルタイムのファクトチェックをしなかった。ケーブルニュース局CNN(6月27日、バイデン大統領=当時の民主党候補=とトランプ氏)と、最大手ネットワークテレビ局CBS(10月1日、副大統領候補ティム・ウォルズミネソタ州知事=民主党候補=とJ.D.バンス上院議員)の2局だ。

 9月10日にハリス氏とトランプ氏の討論会をホストしたネットワークテレビ局ABCは、可能な範囲でファクトチェックをした。トランプ氏の「移民がペットを食べている」という発言についても、「スプリングフィールド市当局者がその事実はないと言っている」と即座に司会が指摘した。視聴者数が減少しているテレビ局としては、選挙期間中に最も多くの視聴者を得られるチャンスに、ファクトチェックをしないという判断に至ったのは、問題ではないか。間違った情報の拡声器になってしまった。

 日本の兵庫県知事選挙も含め、「事実」がSNSなどによって伝わりにくくなっている状況が問題視されている。米大統領選挙では、その問題が可視化されている。日本、いや世界でインフルエンサーによる影響力をきちんと把握する必要がある。

【ジャーナリストプロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。

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「GALAC」2025年1月号

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