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メディア・ソリューション 2019.03.14 UP

【NEWS】5Gで変わる映像、コンテンツ――MWC19で見えてきた次世代の姿

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 最近では一般のニュースなどでも目にするようになった、次世代の移動体通信システム「5G」。2018年に米国で一部の商用化が始まり、2019年には各国で商用サービスの開始が見込まれている。国内でも2019年にプレサービス、2020年に本格サービスが始まる予定の5Gは、コンテンツやエンターテインメントの世界にどのような影響を与える可能性があるのだろうか。モバイル業界で最大規模のイベント「MWC19 Barcelona」(スペイン・バルセロナ、2019年2月25日~28日、以下MWC19)から今後の5Gとコンテンツの関係性を見てみよう。
(ITジャーナリスト 岩元直久)

5Gの3つの特徴「超高速・大容量通信」「超低遅延・高信頼性通信」「大量端末接続」

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「5G」の文字が否が応でも目に入るMWC19の会場。5Gの幟が掲げられているドイツテレコムのブース

 本題に入る前に、5Gについて手短に説明したい。現行のスマートフォンなどで使われているのは4G(第4世代)のLTE(およびLTE-Advanced)方式で、5Gはその次の世代(第5世代)の移動体通信システムのこと。4Gと比べて、大きく3つの方向で性能向上を図る。1つ目が「超高速・大容量通信」、2つ目が「超低遅延・高信頼性通信」、3つ目が「大量端末接続」である。高速性では、現在国内のサービスにおける最大通信速度が理論値で1Gbpsであるのに対して、ピーク値で20Gbpsといったスペックを目指す。通信処理にかかる遅れを示す遅延では、LTEが20ミリ秒程度あるのに対して、1ミリ秒のレベルに抑える。大量端末接続は、IoT(モノのインターネット)用途などで大量のデバイスが同時に接続しても耐えられるネットワークの構築を意味する。

 これらの中で、コンテンツやエンターテインメントに直接的に関係が深いのが、「超高速・大容量通信」と「超低遅延・高信頼性通信」の2つの性能だ。大きな傾向としては、高速な無線通信により4Kや8Kの高精細映像や360度映像をワイヤレスでやり取りできるようになり、低遅延の性能を生かしてモバイル環境でリアルタイムの対戦ゲームなどが可能になる。

低遅延性能を生かしてリアルタイム対戦

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ノキアのブースではインテルのブースと結んだマルチプレイヤーゲームを実演

MWC19で5Gの応用として目についたのは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と手や腕の動きを検出するデバイスを組み合わせて楽しむエンターテインメントコンテンツ。5Gの高速な通信を生かして、離れた場所のプレーヤー同士がVR(仮想現実)の世界で対戦したりマルチプレイヤーが参加するゲームの実演が、米インテルとフィンランド・ノキアのブースなど多くのブースで見られた。対戦ゲームでは、相手の動きと自分の動きの間に大きなタイムラグが許されないため、通信回線を経由してプレイするには低遅延性能が必要不可欠となる。ワイヤレスで遅延が少ない5Gの性能を使うことで、場所を問わずに対戦ゲームを楽しむことの可能性が見えてくる。

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KTが実演していた野球のバーチャルプレイ。ヘッドマウントディスプレイをつけた参加者がピッチャーとバッターとなって対戦

 低遅延の性能をアピールするコンテンツのデモとしては、バーチャルなスポーツゲームのデモも興味深かった。韓国の通信事業者であるKTは、野球のバーチャルプレイを5G活用のデモとして実演。HMDとセンサーデバイス、センサーをつけたバットなどを使い、ピッチャーが仮想的に投げたボールを、バッターがHMD内の3D映像を見ながら打つゲームを見せた。遅延が少ないことから、ピッチャーが「投げた」ボールがバッターに自然なタイミングで見え、見事にクリーンヒット(実際の世界では空振りだが)している試演者も見られた。ノキアのブースでは、卓球のバーチャルプレイで5Gの低遅延性能を示した。いずれもデモでは至近距離で対戦していたが、5Gの通信サービスを使えば遠隔地のプレーヤー同士が戦うことも可能になる。

視点を変えてコンテンツを楽しむ

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エリクソンのブースでデモがあったカーレースの観戦の新しいスタイルへの提案。ヘッドマウントディスプレイでレーサーの視点やレース場の様々な視点の360度映像を楽しめる

 5Gの超高速・大容量通信の性能を使えば、多様な映像を端末に対して同時に送信し、選択して視聴することも可能になる。スウェーデン・エリクソンのブースでは、カーレースのミニチュアのコースを用意し、5Gを使ったスポーツ観戦の新しい見せ方を提案していた。1つは、レーサーの視点の360度映像のリアルタイム配信。5Gの高速性を活用し、レーシングカーなどに取り付けた360度映像をHMDでリアルタイムに体験できる。観客席や自宅からレース中のレーサーの視点を楽しめるというわけだ。また、レース会場の様々な箇所に設けた360度カメラの映像も選択して視聴でき、レースの重要なポイントをその場に立ったかのように見ることができる。

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サムスン電子は5G対応スマートフォン「Galaxy S10 5G」で、野球のマルチアングルの選択視聴を実演。画面下から見たいアングルを選ぶと上に表示される

 韓国サムスン電子は、発表したばかりの5G対応のスマートフォン「Galaxy S10 5G」を使って、5Gのアプリケーションとして多視点のコンテンツを紹介した。コンテンツは野球で、野球場に設置した複数のカメラの映像を5Gで配信。視聴者は、スマートフォンの画面上で好みのアングルの映像を自在に選択して、リアルタイムで楽しめる。視聴者自身がスイッチャーになることが可能になり、スポーツ中継などのコンテンツの作り方を変える可能性を持つ。

遠隔地のコラボレーションを可能に

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NTTドコモは、右手前の隔離されたスタジオと左奥のステージで5Gによる遠隔セッションを実演。左奥のステージには、女性ボーカル&キーボード奏者のホログラム映像が浮かび上がっている

 5Gの低遅延性をアピールするコンテンツとして今回のMWC19で目についたのが、音楽の遠隔協調演奏だ。NTTブースではNTTドコモが、エリクソンと英ボーダフォンのブースでは両社の間で、5Gを介した遠隔協調演奏のデモが行われていた。

 NTTドコモは、ブース内のステージと、少し離れた個室型のスタジオの間を5Gで結び、遠隔のセッションを実演した。ステージには、スタジオ内のボーカル&キーボード奏者の映像がホログラムで立体的に表示され、低遅延の性能を生かしたボーカル&キーボードの演奏に合わせてステージ上のギター奏者が演奏するといったもの。相互の通信に遅延があると、リアルタイムの音楽の演奏は成立しないため、5Gの低遅延性能のメリットを感じやすいデモとして多くの来場者の関心を集めていた。

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エリクソンとボーダフォンは、ブースをまたいだ遠隔セッションを実演

 エリクソンとボーダフォンは、異なるホールにある両社のブースを結んで、お互いの演奏映像と音楽を5Gで伝送しながらセッションを実演した。こちらもズレを感じることなく、遠隔地を結ぶセッションが無線伝送で実現できることを示した。場所を問わずに、アンサンブルやセッションが可能になれば、音楽の演奏はもちろん、芝居やミュージカルなどの多地点同時公演や、参加型のコンテンツの提供など、表現の多様性を求めることにもつながりそうだ。

スマートフォンが「シネマ」のデバイスに

 現時点では5Gに対応しているわけではないが、今後の可能性を感じさせるデバイスの発表・展示もあった。ソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォンの最新フラッグシップモデル「Xperia 1」がそれだ。Xperia 1は、従来主流だった16:9や、最近のトレンドの18:9などのアスペクト比を超える、21:9の「シネマワイド」サイズの4K HDR 有機ELディスプレイを搭載。Amazon PrimeやNetflix、YouTubeですでに配信が始まっている21:9のシネマコンテンツを画面いっぱいに表示して、迫力のある映像を楽しめる。

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21:9シネマワイド画面の「Xperia 1」を紹介するソニーモバイルコミュニケーションズ 代表取締役社長の岸田光哉氏

 さらに、プロフェッショナルのニーズに応える機能を用意した。1つが、ソニーのマスターモニターの絵作りを再現した「クリエイターモード」の表示。放送規格のBT.2020の色域に匹敵するディスプレイの性能を生かし、プロ向けの機材を製造するソニー厚木事業所のエンジニアと協力してマスターモニターの絵作りを極限まで再現した。手のひらにプロ向けのモニターが入り、クリエイターの意図を完全に再現することが可能になると説明する。

 また、映像の撮影時にもプロフェッショナルの要望に応える「Cinema Pro」モードを用意する。ソニーのシネマカメラ「Cine Alta」シリーズの最新機種である「VENICE」とほぼ同一のインタフェースを採用し、21:9のアスペクト比の4K HDR動画を、24fpsで撮影できる。さらに、VENICEと同様に色相/画作りのプリセットである「Look」を複数用意し、Lookを当てて狙い通りの画質や色味の映像を記録できる。

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左が「Xperia 1」による撮影とモニター、右がプロ用機材による撮影とモニター。写真ではわかりにくいが、プロ用機材と同様の色合いや表現がスマートフォンでも実現できていることを示していた

 現時点のXperia1は5Gには対応していない。とは言え、ソニーモバイルでは今後の5G対応スマートフォンを見据えてシネマを同社製品のキーコンテンツとして位置付け、撮影から再生、さらにDolby Atmosに対応した3D音響も含めて、「プロフェッショナル」のシネマ映像クオリティーに対応したスマートフォンを提供していく。5Gの超高速・大容量通信性能を生かせば、プロ級の映像の制作の仕方がスマートフォンによって変化していく可能性もある。

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