Inter BEE 2023 幕張メッセ:11月15日(水)~17日(金) オンライン:12月15日(金)まで

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Special 2021.09.14 UP

【Inter BEE CURATION】テレビ報道は新しい文法を探せ

メディアコンサルタント / 境 治 テレビとネットの横断業界誌MediaBorder

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、InterBEEボードメンバーでもあるメディアコンサルタント・境治氏が運営するMediaBorderからの転載。「報道ステーション」のキャスターに元NHK・大越健介氏が就くことが報じられたことについて書いています。

大越健介氏の民放移籍にメディアが沸く不思議

「ニュースウォッチ9」で5年間キャスターを務めた大越健介氏が、NHKを退職した数日後にテレビ朝日が「報道ステーション」のキャスターに就任することが発表され、メディアが沸いた。週刊現代はこんな記事を書き、現代ビジネスで公開している。

この報に、いつも芸能ネタを書くスポーツ紙でさえ、硬派な報ステが復活すると喜んでいるように思える。そんな空気に私は引いてしまった。そこまで大騒ぎすることなの?

大越氏の民放キャスター就任に沸くのは「報道」という内輪社会ではないだろうか。何にとってそれがいいことなのか、何か大きなことなのか、私にはわからない。

そもそも、テレビ局はいまこぞって若者に向かおうとしていたのではなかったか。還暦を迎えて定年退職した人物を、月金ベルトのニュース番組にキャスターとして据えると、若者が見てくれるのか?あるいは、政権批判を腰を据えてできるから沸いているのか?

はっきり言うが、「NHKの大物」が民放界に降りてきてくれることに沸いているだけではないだろうか。そんなことに喜ぶのは、メディア社会がちっとも時代に添って変わろうとしていない証としか思えないのだ。

大越氏が嫌い、と言っているわけではない。だが60歳になる定年退職者を迎える民放の姿勢に、それでは置いていかれると危機感を持つのだ。「コア視聴率」を取りたいんじゃないの?

思い出して欲しいのだが、「報ステ」の前身、「ニュースステーション」が始まったときは、「ザ・ベストテン」などで軽妙な語り口が人気だった久米宏氏がキャスターとなったから驚いた。「中学生でもわかるニュース番組」がコンセプトだと言っていた。確かに「ニュースステーション」はニュース番組のイメージを変えたのだ。ニュースの文法を新しいものに変えた。

それがいつの間にか、ニュース番組の代表格になってしまった。新たな権威となり、「中学生でもわかる」というコンセプトをどこかへやってしまったように見える。「報ステ」と名を変えたのはともかく、「元NHKの大物キャスター」をお迎えして、ますます権威になりたがっているように見える。

それを喜ぶ他のメディアは、「ニュースステーション」が何を変えたか、忘れてしまったのだと思う。テレビのニュース番組にいま必要なのは、まったく別のことだ。そしてそれは「中学生でもわかる」もヒントになる。

硬派な話題を若者の目線で語ること

7月28日に、「ネットフリックスvsディズニー」の著者、大原通郎氏をお迎えしてウェビナーを開催した。後半では、京都産業大学教授の脇浜紀子氏をゲストにディスカッション。多岐に渡る話題を濃厚に議論していただいた。
アメリカではCBSがネットでのニュース配信で先んじ、CBSNの名で若者から支持されていると大原氏が述べたことについて、どんな内容を届けているのか、という質問が出た。これに対し、大原氏が答え、脇浜氏が補足的に語った部分が印象的だったので、書き起こしてみた。

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※ウェビナーの画面より。中央丸ワイプの中が大原氏、右が脇浜氏。

大原
「結構ハードな企画が多く、銃規制に本気で切り込んでいく企画とかです。日本だとチャラチャラした番組をやれば若者が集まってくるんじゃないかと思われがちですが、CBSNの特集企画を見ると、ヒスパニックの国境をめぐる問題、アメリカで差別されているインディアン(ネイティブアメリカン)の問題など、地上波でななかなかつっこめないところを一人のリポーターがずーっと追っていって企画を作っています。CBSNはテーマが重いものを追求して成功しているんじゃないかと思います。」

脇浜
「それを捕捉する話があります。2年前にAJ+という、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラがアメリカで立ち上げたデジタル配信に特化したメディアの話を聞いたのですが、ここも徹底的に若者をターゲットにして展開しているそうです。取り上げるのはものすごくハードなネタです。人種差別であるとか、環境問題、移民の問題などを取り上げるのですが、語り口が独特。音を聞かなくてもわかるように字幕をふんだんに使って表現をしたり、リポーターが喋る時も自撮りのような映像にして、バーで友達に話しかけるような口調になっているかをチェックするそうなんです。そうじゃないと若者たちに最後まで見てもらえないと言っていました。」
このウェビナーは私にとっても学びの多いものだったが、この部分はそのひとつだった。若者がお笑いや恋愛ドラマばかり求めるわけではない。そういう部分もあるだろうが、真剣に硬派な話題を考えたい若者だっている。アメリカだけでなく日本でもそうだろう。少なくとも私が接する若者たちは、私が若者だった頃よりずっと社会への関心が高い。

硬派なテーマを扱っても見てくれる。だが語り口がポイントだ。若者たちと同じ目線で語ることが重要なのだ。

アメリカのテレビがこうした努力を始めているとき、日本のテレビはNHKから大物キャスターが民放ニュースにやってくることに沸いている。そのズレは大きすぎる。そこにある権威主義から脱却しないと、若者は振り向いてくれないだろう。

テレビ報道にいま必要なのは、キャスターの知名度ではない。アメリカのテレビがネットで試行錯誤しているような新たな文法の開発なのだ。コア視聴率を取りたいというのならなおさら、若い層とニュースの関係を再構築すべき時だ。若い世代は社会課題への意識がある一方、同じ目線で語れないと相手にしてもらえない。テレビ報道は、反権力を謳いながらひとつの権力になってしまった。その重く錆びた鎧を捨てることこそが必要なのではないだろうか。

※本記事の掲載元、有料マガジン「MediaBorder」ではテレビとネットの融合をテーマにした記事を多数掲載しています。興味ある方は下記関連URLからどうぞ。

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