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Special 2021.06.24 UP

【Inter BEE CURATION】ABCテレビ発バラエティ番組なぜ世界で評価されたのか(前編)

編集部 Screens

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ABCテレビ『シークレットゲームショー』の出演者。(左から)増田紗織アナ、加藤諒、陣内孝則、足立梨花、チャンカワイ

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2021年5月13日に掲載されたテレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子氏による記事です。お読みください。

ABCテレビ発バラエティ番組なぜ世界で評価されたのか

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ABCテレビ、05年入社の桒山哲治プロデューサー
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ABCテレビ、10年入社の土井長慶宗ディレクター

世界の番組フォーマット流通ビジネスをリードする権威ある賞で日本の視聴者“巻き込み”型番組が高い評価を受けた。制作したのはABCテレビ。
NBCユニバーサル・フォーマットと共同開発したバラエティ番組『シークレットゲームショー』が国際的なコンテスト「インターナショナルフォーマットアワード 2021」で最優秀賞に輝く、快挙を成し遂げたのだ。
フランス・カンヌの商談テーブルから始まったという国際共同開発の道のりをABCテレビコンテンツクリエイト局制作部所属の桒山哲治プロデューサーと土井長慶宗ディレクターの2人に話を聞いた。前後編にわたってお伝えする。

カンヌMIPTV生まれの企画の種をNBCユニーバサル・フォーマットと練り上げる

ABCテレビ発のバラエティ番組『シークレットゲームショー』は同局が得意とする視聴者“巻き込み”型である。真面目に働く1人の会社員が主役となって、突如ドッキリ会場となった日常のオフィスで賞金100万円をかけて“秘密”のミッションに挑んでもらうというもの。事前打ち合わせは一切なしのぶっつけ本番の設定が新たな笑いを生み出す。世界番組流通市場トレンドであるリアリティショーに新風を吹き込む内容でもある。2020年3月の初放送以来、世界ヒットの可能性がある番組のひとつとして、フランス・カンヌの世界最大級の番組コンテンツ見本市MIPTV/MIPCOMで注目度が上がっていた。

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その背景にはタッグを組んだアメリカの巨大メディア企業NBCユニーバサルグループ傘下でフォーマット番組ビジネスのリーディングカンパニーであるNBCユニバーサル・フォーマットの存在も大きい。そもそもABCテレビがNBCユニーバサル・フォーマットと『シークレットゲームショー』の番組開発を始めることになったきっかけから、ABCテレビで現在、『ポツンと一軒家』チーフプロデューサー、『M-1グランプリ』プロデューサーを務める桒山プロデューサーが話し始めた。

「バラエティ番組のフォーマットを世界に輸出するビジネスにも力を入れていこうと、局内で大号令がかかったのが2018年。その年から海外セールスチームと一緒にMIPTVに参加し、NBCユニーバサル・フォーマットと会うきっかけを作りました。『シークレットゲームショー』の番組の種が生まれたのは、翌年2019年のMIPTVです。NBCユニーバサル・フォーマットのカンヌの商談ブースの華やかさに驚き、半ばカルチャーショックを受けながらも、イマジネーションが広がっていきました」。

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その時、NBCユニーバサル・フォーマットから提案されたアイデアが「“ブルーマンデー”の月曜の朝、いきなりオフィスのPCがジャックされた挑戦者がゲームマスターから出されたミッションを、クリアしていく」というものだった。それに対して、すかさずABCテレビもアイデアを出していく。NBCユニーバサル・フォーマットの担当者が拠点とするイギリス、シンガポール、東京、そして大阪をオンラインで繋ぎ、1年にわたって企画会議が積み重ねられた。ABCテレビで『やすとものいたって真剣です』や『M-1グランプリ』などを担当し、『シークレットゲームショー』では演出を担った土井長ディレクターもその場にいた中心人物の1人だった。

「普段使いのオフィスのPCがジャックされるというNBCユニーバサル・フォーマットのアイデアは際立つものがありました。オフィスで働く誰しもがゲームの主人公になれて、誰がターゲットになるのかわからない。唯一無二の企画です。それをどのようにしたら『一番面白いねん』と、ABCテレビのアイデアを膨らませていきました」。

「絶対にバレてはいけない」条件で世界に売れる番組フォーマット開発

両社のやりとりが最もヒートアップしたのはチャレンジャーが受けるミッションの内容だったという。そこには笑いの文化の違いが根底にあったことを土井長ディレクターが説明する。

「海外は比較的、短絡的な笑いを求めます。1人のピエロが人前で変わった格好をして、コケて、面白いでしょうと見せる。それに比べて、日本の笑いはもっと複雑。ボケる人がいて、それを受けてツッコむ人がいる。なかでも、企画会議のやり取りの中で鮮明に覚えているのは、チャレンジャーを“イジる”とはなんぞやと、説明したことです。チャレンジャーが社内で愛されているからこそ、実現可能な日本独特の笑いの作り方があって、日本ではそれを楽しむ文化があることを通訳の方を通じて説明しました。だから社内情報の提供者として、スタジオにチャレンジャーの“上司”を招く設定にし、これがチャレンジ内容にも繋がる番組のキモになると考えました」。

またABCテレビが長年培ってきた視聴者“巻き込み”型のノウハウも詰め込まれた。「絶対にバレてはいけない」条件が大前提にある番組を成立させるために準備段階から細心の注意が払われた。桒山プロデューサーは「通常では通らない企画だった」と明かす。

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「大掛かりのロケになることは企画段階からわかっていました。予算のかけ方は単発番組としてはあり得ないもの。それでも、ダイナミックなことができたのは、NBCユニーバサル・フォーマットと世界に売れる番組フォーマットを開発することを前提に放送枠も予算も確保できたから。スタッフ全員、事前の技術、美術のセッティングには「バレないように」肉体的にも精神的にもむちゃくちゃボロボロになりながら、苦労もしました」。

土井長ディレクターも当時を思い出しながら、「オンエアするまで全てのプロセスに実績がなかった」と続けた。「一般のオフィスに仕掛けた隠しカメラから、ライブ中継して見せる番組なんてこれまでなかった。スタッフも誰もどうなっていくのか先がわからないまま本番も進んでいくので、ハラハラドキドキ感がスタジオの出演者の方々にも伝わっていきました。MCを務めた陣内孝則さんがオンエアで発してくれた“いきなり放送事故になっちゃうかもしれない”という言葉は、まさにその場の空気感を物語るもの。台本にはなかった言葉でした」。

見る者にもスリルと笑いが強烈に伝わってくる番組であることは間違いない。世界最大手のコンテンツ業界メディアのC21Media(イギリス)らが主催した「インターナショナル・フォーマット・アワード2021」で同アワード全11部門のひとつ、コメディ部門で日本、フランス、イギリス、アメリカからノミネートされた6作品からABCテレビの『シークレットゲームショー』が最優秀賞を受賞する実績まで作った。国際共同開発というかたちで番組作りに取り組んだことで新たな可能性まで生み出している-。後編に続く。

なお、『シークレットゲームショー』は受賞を記念して今月5月1日に関西ローカルで再放送され、見逃し配信サービスTVer・GYAO!で5月15日まで全国配信が行われている。要チェックである。

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