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【Inter BEE CURATION】韓国発「イカゲーム」大ヒット、 韓国OTTの現状

安 暎姫 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年1月号からの転載。ソウル在住のジャーナリスト・アン・ヨンヒ氏のリポート。韓国のOTT事情のキーとなったIPとドラマ・アイドルについての記事となります。ぜひお読みください。

Netflixの市場参入

 新型コロナウイルスのパンデミックで巣ごもり状態になった人たちは、オンライン生活を余儀なくされた。コンテンツもテレビだけでなく、OTT(Over The Top media service)を利用する人たちが増えた。日本も韓国も、NetflixNetflixが圧倒的なシェアを誇っている。韓国でもその他多くのOTT事業者が名乗りをあげたほか、11月からはアップルやディズニーも参入。OTT市場は今まさに戦国時代を迎えている。
 Netflixが韓国市場に参入したとき、韓国人はこれまであまり見られなかった米国や英国のドラマが見られると喜んだ。それが今では、テレビでは見られない韓国の面白いコンテンツを見るために、Netflixを見る人が増えている。放送局とはケタ違いの制作費で、規制をあまり受けないからと言える。さらにNetflixはグローバル企業なので、韓国企業の古い慣行などに縛られず、自由に制作できる環境であることも影響している。
 韓国のOTT事業者たちも指をくわえて見ているわけにはいかないので、韓国コンテンツを手に入れようと必死だ。 実際、コンテンツ数だけを見ると、韓国のOTTはNetflixlixを圧倒している。韓国シェア2位のwavveは34万本、4位のWATCHA10万本など、Netflix(コリア)の2万本(推定値)を優に超える。だが問題なのは、キラーコンテンツがまだないことだ。コンテンツの質はコストとほぼ相関関係にある。コンテンツ制作には平均数百億ウォンのコストが投入される。月額料金だけで収益を上げるOTTの構造上、100億ウォンのコンテンツを制作するためには最低100万人の有料加入者が必要となる。
 Netflixには2億人を超えるグローバル加入者が付いているが、韓国のOTTは数百万人に過ぎない。ここで大きな差が出るのだ。また、制作会社やクリエイターたちもできればNetflixと仕事をしたがる。制作費だけでなく、世界レベルでコンテンツが公開されるからだ。「イカゲーム」のような世界的大ヒット作となれば、知名度がぐんと上がる。
 ただし、Netflixは制作費に少しだけ上乗せした金額OTTもNetflixを支払い、すべての著作権を独り占めする。よって、ヒット作を制作しても韓国の制作会社にはトリクルダウン・エフェクトがあまりないのも事実だ。韓国のOTTもNetflixに採用されなかった2番手のコンテンツを制作する羽目になることも多くなる。

「冬ソナ」を経て「BTS」で世界的ヒット

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TIFFCOM(Marketplace for Film and TV in Asia)オンラインセミナーにて、筆者とウェーブ政策企画室長のイ・ヒジュ氏

 では、ここでキーとなる韓国のコンテンツの現状はどのようになっているのか。従来のIP(知的財産権)ビジネスは、制作会社がコンテンツを制作すると、放送局で編成され、海外の放送局に売られる形であった。
 例えば、韓流ドラマの元祖「冬のソナタ」はKBS(韓国放送公社)で制作され、NHKに販売された。ドラマの著作権はKBSが持っており、各国に輸出されるのみで次へのステップは何もなかった。各国でヒットしても、忙しく飛び回ったのは俳優たちで、制作会社には何もメリットがなかった。かえって韓流スターたちのギャラが高騰し、制作費のほとんどを主人公に支払う状態にまで追い込まれた。
 だが、今ではメタバース(Meta+Universe)の世界となっている。世界的なヒット曲を持つBTS(防弾少年団)は、ファンサイト(ARMY)を利用してメタバースやNFT(Non‐Fungible Token)ビジネスに乗り出した。プラットフォームに一つのコンテンツが乗っかれば、それが有機的な関係性を持ちコミュニティを作り上げ、そこに集まった人たちが体験しながら楽しむ。双方向で、どんどん友だちの輪が広がるようにコミュニティが広がっていく。
 これまで多くのアイドルが韓国の芸能界で誕生しては消えていった。言い方は悪いが、芸能事務所はアイドルを量産したものの、消耗品のように作っては解散させていたのだ。だが、BTSの事務所はBTSだけで最大手の芸能事務所となった。韓国のこれまでの男性アイドルは兵役という弱点があったが、それすらもIPユニバースで乗り越えられるものと考えている。
 従来のIPは所有の概念であったが、今のIPはブランド化している。そして、遊びの要素が必要となる。例えば「イカゲーム」は、世界中の人たちがコンテンツに登場するゲームを楽しんだり、コスプレをしたりする機会を発信したと言える。遊び感覚こそが今のIPビジネスの要だ。そして、一つのドラマが終わっても、次のドラマに人気を取られるのではなくシーズン化させることで、またIPビジネスを継続させることができる。BTSの場合、彼らの歌詞はその一貫した世界観をもってファンを魅了する。その世界観はスピンオフされ、マンガになったりもする。
 韓国のコンテンツ・ビジネスは、時代の流れを的確に読んで、BTSを誕生させたり、「イカゲーム」を制作したりしたといえる。
*IP Universe。一つのIPが多様なストーリーのフォーマットで連続性を持って世界観を続けていくこと。わかりやすく言えば、『アベンジャーズ』のような巨大な世界観のことを意味する。

■ライター紹介
アン・ヨンヒ ソウル在住。日韓の会議通訳を務めながら、英語をはじめとする多国語の通訳・翻訳会社を経営している。ネットマガジンの『JBpress』で韓国文化について連載中。

GALACとは
放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

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