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Special 2022.03.10 UP

【Inter BEE CURATION】『ドライブ・マイ・カー』が 米アカデミー賞作品賞候補に

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年4月号からの転載で、津山恵子氏から米アカデミー賞の候補作品に関しての記事となります。ぜひお読みください。

日本映画初の快挙の背景とは

米映画芸術科学アカデミーは2月8日、第94回アカデミー賞の候補を発表した。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が日本映画として初めて、最も栄誉となる作品賞の候補に入った。また、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞も含め4部門でノミネートされた。作品賞での候補入りは日本映画として初の、「映画史的事件」となる。各賞の発表は、3月27日(現地時間)となるが、純粋日本映画『ドライブ・マイ・カー』がなぜ4部門でノミネートされたのか、背景を探りたい。
 第1に、脚本の巧みさが光る。『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の同名短編がベース。妻を亡くした俳優の主人公(西島秀俊)が広島県の演劇祭に招かれ、専属ドライバーとなる無口な女性(三浦透子)と始まる対話を通し、自身の過去を振り返る。原作は文庫本で40ページあまりの短編だが、短編集『女のいない男たち』からの他の短編に加え、劇中劇でチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を組み込んでいる。上映時間は約3時間だが、複数の物語が同時に進んでいながら、混乱はない。
 第2に、物語ではあるものの、ドキュメンタリーかと思うようなカメラワークや描写が特徴となっている。音響はきわめて少なく、音は対話が中心である。車内や舞台など、目の前に起きていることを淡々と記録しているような気にさせる。それだけに、俳優の表情などもドキュメンタリーを見ているかのように、リアルに伝わってくる。
 第3に、村上作品がベースだったという強みがあった。村上春樹は、日本の作家の代名詞となっており、欧米では読書好きのファンの心をがっちり掴んでいる。英語に翻訳されているのは、harukimurakami.com(公式サイト)によると、23作品に上る。村上の重層的な物語の構造には定評があり、それがベースになっているとあって、劇場に足を運ぶ人も多い。
 一方、映画芸術科学アカデミーそのものに起きている変化も、『ドライブ・マイ・カー』の躍進を支えている。アカデミー賞各部門の受賞作は、アカデミー会員の投票で決まり、選挙のようなものだ。会員は、映画・映像制作のプロで、2015年に約6500人とされていた。しかし15、16年の演技賞ノミネートを白人が占めたことがきっかけで、「#OscarSoWhite(オスカーは白人だらけ)」と批判が高まった。当時の会員の9割以上が白人、約8割が男性だったことも明らかとなり、アカデミーは会員を増員して、「ダイバーシティ(多様性)」を確保する改革に着手した。

多様性が促したアカデミーの進化

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米『ヴァラエティ』誌によると、アカデミーは会員の大幅増員によって多様性の確保を進め、2020年には会員9412人の中で、34%が女性、19%が白人以外となった。
 白人男性以外が投票し始めたことで、近年は、『パラサイト』(韓国作品、2020年作品賞)、『ミナリ』(2021年助演女優賞を韓国人俳優が受賞)、『ノマドランド』(2021年作品賞、監督賞を中国系女性が受賞)などに注目が集まるようになった。
 こうした流れのなか、『ドライブ・マイ・カー』の作品賞ノミネートについて、米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、「米国外の会員を増やし、『白人男性クラブ』からの脱皮を図ってきたアカデミーの進化を表す」と指摘した。
 多様性や、映画的なファンタジーに終わらせない「現代的意義」を追求したノミネート作品は、ほかにもある。スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』で、作品賞など7部門でノミネートされた。同作は、1961年のロバート・ワイズ/ジェローム・ロビンズ監督作品がオリジナルだが、スピルバーグ監督は初のミュージカル映画挑戦で、細部にメッセージを込めた。まず、60年代ニューヨークのプエルトリコ移民と白人移民の対立という構図を忠実に、プエルトリコ系の配役は全員ヒスパニック系で固めた。61年版では白人が演じた主役マリアもヒスパニック系俳優が演じた。また、台詞はヒスパニック系移民社会ではよくあるように、スペイン語と英語が組み合わされており、リアルさを増していた。
 スピルバーグ監督は、テレビのインタビューで、こう語った。
 「分断の時代であるからこそ、最後に理解し合い、和解することが重要だと伝えたかった」
 『ドライブ・マイ・カー』の濱口監督は、このスピルバーグ監督や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオン監督と監督賞を競うことになる。日本人の監督賞へのノミネートは36年ぶりで、『砂の女』の勅使河原宏監督、『乱』の黒澤明監督に続き3人目だ。
 『ドライブ・マイ・カー』はカンヌ国際映画祭で脚本賞に輝き、アカデミー賞の前哨戦とされる米ゴールデン・グローブ賞では日本映画として62年ぶりの非英語映画賞を手にしている。

■ライター紹介
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。


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放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

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