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Special 2024.05.15 UP

【Inter BEE CURATION】FAST入門からFAST実践まで <vol.3>【FAST特集】

映像戦略コンサルタント 奥村文隆 Screens

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※Inter BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2024年4月22日に掲載されたインタビュー記事を転載しています。是非お読みください。

機会を頂いて我が国の放送、映像、コンサルティング業界に向けてFASTをより正しくご理解頂き、実践していただくことを目的としてFASTをテーマに記事を寄稿させて頂いています。

前回までがFAST入門にあたると思われ、今回からFASTの実践に向けたフェーズとポイントを解説させて頂きたいと思います。 また、代表的サービスにはどんなものがあるのか、サービスの概要、特色をご紹介いたします。

FAST入門からFAST計画策定まで<vol.1>【FAST特集】

FAST入門からFAST計画策定まで <vol.2>【FAST特集】

(1)前回までの要約 FASTはテレビの進化形である

多様化されたニーズを持つ現代の視聴者に対して、メディアとして最高の視聴体験を提供するためには、より専門化したより多くの番組、より多くの機会/より多くのデバイスでリーチすることが求められるようになりましたがVOD疲れを感じているテレビ愛着層には表面はテレビライクな、かつ中身は先進的なサービスを提供することが必要でした。米大手メディアは古典的な地上波・ケーブルの放送からストリーミングに本格移行するため、FAST企業の買収に成功し、従来の企業理念を維持しながら、これまでテレビから離れていた若年層視聴者を獲得し、同時により大きな画面で優れたテレビ体験サービスを提供するデジタル変革の機会をもたらしました。FASTのビジネスモデルは豊富な動画ライブラリを持つ多くの配信会社、ローカル放送局、知財保有者は新たな収益機会を得、業界全体の成長が再開、加速されました。

(2)FAST実践のステップ (フェーズ1 ユニークなサービスを作る)

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FAST導入ステップ簡易版 筆者作成

FASTサービスを開始すること自体は期間、費用ともにシンプルと考えられています。数年間で米国だけでも30以上のサービスが登場していることがそれを証明しています。しかしそれらのサービスがみな高収益かというと、その逆で、高い利益の出ている所は2~3割ではないかと思います。ですので、ここでは如何に収益を上げられるストリーミング事業を実現するかを主題に実践編として少々解説をさせていただきます。

当たり前ですがメディアビジネスの主収益は「できるだけ多くの方」に「出来るだけ長くマッチした広告を見てもらう」ということです。米国の進化したストリーミング広告の模倣・実践はシンプルではありませんでした。配信サービス、広告PF、収益システム、クラウド、データ解析が面倒な事に全て絡み合っているからです。とはいっても、段階的に設計を詰めていくことになりますので、フェーズ1としてはマスタプランの作成とサービスデザインを行います。マスタプランではサービス開始までの計画を作成し、さらにサービスの設計を行います。そこで設計するのは完全無料にするのか有料にするのか、キュレーションチャンネルと映画チャンネルの配分はどうするのかといったことや、ローカル、キッズ、さらにスポーツ、ニュース等の各リニアと関連したチャンネルを行うのか、年齢指定、コンプライアンスの対応、配信会社との提携など4つのステップの中で最も重要になります。すべきことは多々ありますが細かい事は専門家に聞いて頂きたく、複数のストリーミング関連企業が米国サイトでFAST開始のガイダンスを提示していますので興味のある方は是非ご覧頂ければと思います。(注1)そこで言われていないことを中心にお話をしたいと思いますが、最もお勧めしたいのは「特にマネタイズシステムに知見を持つ米国の質の良いITパートナーを選択する」ことです。マネタイズシステムの根幹は広告挿入とデータ解析です。日本よりも7年以上進んでいる彼らの知見を活用しない手はありません。数年前までは国内にはこれをいったサービスが無かったようですが、『screens』で昨今紹介されているように近年有能な事業者も増えているようですので国内の専門家の支援を受けられると思います。(注2)

収益力が高いサービスは存在がユニークです。その為フェーズ1でサービスの個性を決めて頂きたいところです。アラン・ウオルクがtubiやPlutoを見てFASTと名付けたことから、それらのユニークなサービスにはFASTの成功要因の示唆が豊富です。そこで今回と次回は米で人気のある4大FAST Pluto TV(以降Pluto)、tubi、Peacock、Roku Channel(以降Roku)を取り上げ、それぞれ彼らがどのようなデザインで新しいストリーミングサービスを行おうとしているのか、どのような広告挿入手法しているのかを解説してみたいと思います。各サービス4者4様で興味深いことになっています。

注1)参考1:FAST チャネル: 2023 年の完全ガイド (backlight.co)

2:Streaming Tips for Everyone: The Ultimate Guide – Restream Blog

3:Services (simplestream.com)

注2)参考1ultra Impression社https://www.screens-lab.jp/article/29370

2動画広告プラットフォーム「インクリー」https://www.screens-lab.jp/article/29572

(3) Pluto TV

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写真は冥王星イメージ:ロゴの〇は冥王星を表現。黄色いロゴは2024年から使用

2013 年にTom Ryan(トム・ライアン)、マッキンゼー出身のNick Grouf、Ilya Pozinrarらがカリフォルニア州ロサンゼルスに共同設立したOTTサービスであり、今日、南北アメリカ、英国、EU、オーストラリア等世界約30か国以上で利用可能な無料の広告付きストリーミングテレビサービスで、米国FASTの中で最もグローバル化に成功したサービスです。当初のコンセプトは、「インターネット上には素晴らしいオンラインビデオがたくさんあるが、良いものを見つけるのは難しい。良いものを集め安全に提供すること」ということでした。そこで主に従来のケーブル放送番組の操作と同じように設計されたデジタルリニアチャンネルを通じてコンテンツを提供しています。配信はSmart Cast オペレーティングシステムを基盤にしています。UIはケーブルテレビの番組表に似ていますが、番組はどこまで進んでいるかというバーが表示され、時間をスクロールすると番組表がなめらかに動き、先までのプログラムを表示します。

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ケーブル放送番組のUIをエミュレートした画面(出所:Pluto TV)

Plutoはコンテンツのキュレーションチャンネルを提供するために開発され、当初はVimeo、Dailymotion等のVODから集めたコンテンツと、テレビネットワークとのパートナーシップを通じて提供されるクラシカルなコンテンツのシリーズ番組を特徴とする約100のカテゴリ化されたチャンネルを提供して来ました。原則としてサードパーティのコンテンツプラットフォームとして、2020年には170のコンテンツパートナーと契約を結び、250以上のチャンネルに拡大し、2024年の現在は370以上の番組を提供しています。

映画はメトロ・ゴールドウィン・メイヤー、パラマウント、ソニー・ピクチャーズ、フリーマントルなどの配給会社からライセンスを受けた映画やテレビシリーズの大規模なライブラリで構成される、VODサービスも提供しています。

FASTの特長であるID登録、パスワード、クレジットカード必要なしを貫いています。広告収益は、番組中にAI等を使って挿入されるプリロールとミッドロール広告から生み出されますが、ケーブル・地上波の広告時間が60分のスロットだと15分前後だったのに対して、8~9分と6割程度に抑えることでビデオ体験の向上を図っています。長いもので30秒が数回、15秒のものが多く、広告のリード時間も無く、アンスキッパブルで、視聴者毎に広告を変えています。

(4) Pluto TVの由来

Plutoというサービス名は「NETFLIXやYouTubeが金星や木星のように大きく輝いていたとしても我々も新しいストリーミングサービスだ。小さく暗い冥王星のようでも希望がある惑星だ」といったことから命名したとされます。2022年1月には、月間アクティブユーザー数が累計6,400万人に達しました。2023年10月には7,800万人に達したとアナウンスしました。これは米国だけの数で全世界のユーザー数は公表していません。既に光り輝く星雲になっていると思います。

2019年1月にバイアコムに340Mドル(510億円)で買収されました。Viacom は自社のメディアライブラリライセンスの活用と自社のマーケティングツールとしてサービスを使用することが狙いでした。翌年、新しく設立されたViacomCBS Streaming(2022年2月にParamount Streamingに改名)のコア事業となりました。現在は、パラマウント・グローバルのパラマウントストリーミング社に移管され、CBSが保有していたSHOW TIME等のBVODサービスをParamount+というSVODサービスに再編成し、PlutoのCEOであったTom Ryanが両サービスを率いています。彼は同社のサイトでPlutoを「テレビにおけるリニアストリーミングの姿の追求」だとしています。さらに「SVODで疲れた視聴者に、厳選された番組プログラムより快適で良質なコンテンツを全地球に届けられることが使命」と述べています。

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ビジネスモデルは完全無料で、映画本数は約1000本(想定)、チャンネル数は385、オリジナルコンテンツやスポーツ中継は少ないといった従来のThe FASTらしいものです。ビジネスモデルがシンプルで運用費用が低いことからチャンネル登録希望者が増大し、2019年にはFASTのN0.1ブランドとなりました。キュレーション注力なので、新たにオリジナルコンテンツの作成などは原則行わないことから利益率は最も高いと想定されます。

他のFASTが映画、スポーツ、オリジナルコンテンツを投入し、視聴時間奪取競争の激化が進んでいることから利用時間は減少中です。(2020年にはニールセン・ザ・ゲージで1.0であった時間シエアが2024年3月には0.7に)しかし、公表されたアクティブユーザー数は最も多い部類ですので、ローカルニュースやバラエティ等の短時間の視聴ユーザーが多いことが想定されます。0.7だとtubiの半分以下ですので、このまま相対的に減っていくのか、巻き返すのか注目しています。

(5) 最も成功しているD2Cビジネス

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筆者作成:出所 Paramount global annual report 2017-2023

視聴時間だけでは見えにくいPlutoの凄さは、全社売上への貢献度をみれば理解出来ます。D2Cの収入が成長を支え、2023Q4では約25%がストリーミング関連の収入となっています。このCAGRが継続すると2027度中にはD2Cが50%を超えることになります。筆者の知る限り、ストリーミングシフトに最も成功しつつあるメディアネットワークです。

(6) Tubi

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(黄色いロゴは2024年から使用。右上は彼らの当初のロゴから)

tubiは、視聴履歴で番組を推薦するエンジンを開発したAdRiseのCEOだったFarhad Massoudi氏とThomas Ahn Hicks氏によって2013年にサンフランシスコで設立され、2014年に無料サービスとして“tubi TV”の名称で開始されました。2019年2月にはNBCユニバーサルと400のテレビエピソードと映画を含む配給契約を締結し、6月には月間アクティブユーザー数が2,000万人を超え、翌2020年9月には同ユーザー数が3,300万人に達しました。2023年末には7,800万人に達したと報告しています。独自のコンテンツパーソナライゼーションエンジンを使用して、カスタマイズされたコンテンツで視聴者にリーチするシリコンバレーの技術でハリウッドの古典的な配信事業者に新しいストリーミングビジネスへの参画を促すことに取り組んできました。大手の映画会社からの信頼も厚く、Metro-Goldwyn-Mayerなどからの支援を受け5万本と言われる大規模な映画ライブラリを保有するに至ります。

2019年子供中心のコンテンツの専用チャンネルであるtubi Kidsを立ち上げています。

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写真出所:tubi

2020年4月、Fox CorporationはTubiを4億4,000万ドルで買収しました。Farhad Massoudiは、独立した子会社のCEOとして2023年に退任するまで、No.1 FASTと称されるまでにtubiを成功に導きました。2023年7月、Massoudiの退任に伴い、Anjali Sud がtubiの新CEOに就任したことが発表されました。Massoudiが、変わってしまった、しかしNO.1のFASTとなったtubiをどういう思いで去ったのか知る由もありません。

2023年1月、Tubiはワーナー・ブラザース・ディスカバリーと、11の新しいFASTチャンネルとオンデマンドのコンテンツ契約を締結しました。さらに12月には新しいコンテンツ契約を締結し、西部劇チャンネル、クライムチャンネルなどの9つの新しいFASTチャンネルを追加しています。

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多様なアーカイブからAIで推薦されたメニューは人気を誇っており、黒人やラテン系などの少数民族の間で常に高い評価を得ているとされます。2022年にはPlutoを抜いて最も人気のあるFASTサービスの地位を確立しました。5万本の映画、テレビシリーズを入れて20万本とする豊富な映画ライブラリとテレビエピソードに加えて、FOXのNFL等のライブスポーツの4K配信と、リニア放送との連携で、短期間で多くのアクティブユーザーを獲得しました。一方でtubiは買収後最も変革されたサービスでもあります。FOXの方針としてリニアとの相乗をはかり、スポーツやイベントの同時配信や4K化、東京オリンピック関連試合全配信などを施し、若年層にリニアへの誘導を図っています。またローカルチャンネルも同時に54本(最大107チャンネル)とFAST中、最も多い部類に入ります。

(7) Tubi HVODモデルの先駆へ

元来Massoudiはオリジナル番組には否定的でしたが、FOXからの買収後は年50本以上のオリジナル映画、ドラマシリーズを制作し、米国では「無料のNETFLIX」と呼ばれるようになりました。チャートで一目瞭然ですが、ストリーミングサービスとして視聴者からのニーズに死角がありません。

これらの膨大な製作費の源泉は彼らのプログラマティック広告収益から来ています。彼らの大成功は「広告など金輪際にしない」と言っていたNETFLIXに影響を与え、2021年から彼らも広告入り格安プランの導入を切り出すことになります。

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出所:2024 https://clark.com/streaming-tv/tubi-tv-review/

映画もかなり新しい映画を配信するなど、FAST中、視聴時間及が飛びぬけて(ニールセン・ザ・ゲージ2024年2月1.7)No.1となりSVODのディズニープラス(同 1.9)に迫る勢いです。

海外展開も行っています。2014年の彼らの配信を行っていた国、地域はUS、Canada、Australia、and Mexico、EU and the UKでした。しかし、2018年にEUとUKでGDPR法が発効した結果、欧州連合全体でアクセスできなりました。彼らのアドレッサブル技術に用いるデータがGDPR法に抵触する怖れがあったことが背景だと思われます。この点はGDPR法をクリアしているPlutoの広告技術エンジンと大きな違いがありました。

tubiコンテンツはアンスキッパブルですのでSSAIが主流でしたが、今日スポーツライブなどが増えているため、CMブレイクなどを調整するにはCSAIも併用しているのではと推測しましたが、聞くところによるとSSAIを進化させているとのことでした。

FOXはバイアコムCBSのPluto買収に1年遅れてtubiを買収しましたが、そのM&Aは大成功でした。Fox Corporation CEO のPaul Cheesbroughはtubiの戦略的買収は、FOXのデジタルストリーミング戦略の基礎を確立したとしています。tubiはスーパーボウルLVIIでの歴史的な4Kストリーミング運用を構築する強力な基盤となりました。その折に流したラビットホール(人型ウサギが忍び寄ってtubiの世界に通じる穴に放り込むスリラー的)広告は賛否両論を巻き起こし、話題性が結果的に視聴者獲得に大ヒットとなりました。

Tubi買収の直後、2020年にFOXの最高財務責任者Steve Tomsic氏は技術カンファレンスの出席者に対し、「tubiの収益は最終的にFOXの主力放送ネットワークの収益を上回るだろう」と語っていましたが、この勢いが継続すると意外と早期に実現されるかもしれません。その成長がFOX内部をストリーミング主体の新体制にトランスフォーメーションさせています。

彼らにとってFASTとは「ATSC3.0を用いないデジタル収益成長のための4K8K基盤、かつ、新しいテレビのブランド」であり、将来のFOXの代表的メディアサービスと位置づけています。

(以降次回に続く)※ロゴは各社サイトから 写真は筆者のイメージでフリー素材から転用

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