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Special 2024.08.23 UP

【Hollywood Report】ハリウッド製作ドラマ『SHOGUN 将軍』 VFXスーパーバイザーによる業界向けプレゼンテーションが開催される

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

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8月15日(木)、ロサンゼルスのThe Landmark Westwoodにおいて、ハリウッド製作ドラマ『SHOGUN 将軍』のVFXスーパーバイザー、マイケル・クリエットによるプレゼンテーションが行われた。

これは、『SHOGUN 将軍』がエミー賞の視覚効果賞(ミニシリーズ/テレビ映画/スペシャル番組部門)にノミネートされた事を受け、ハリウッドの映像業界関係者へ清き1票を投じて頂くためのキャンペーンの一環として、企画されたプレゼンテーションであった。

司会はアカデミー賞受賞歴を持つVFXスーパーバイザー、ロブ・レガートが務め、ゲスト・スピーカーであるマイケル・クリエットに対して質問を投げかける形で進められた。

シアターの場内はハリウッドの撮影現場のクルー、そしてVFX関係者などで埋め尽くされ、正にエミー賞を意識した業界向けの講演である事が伝わってきた。

それでは、その模様を要約してお届けする。

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司会:
ドラマ『SHOGUN 将軍』では、膨大なショット数のVFXが使用されています。しかし、この作品はVFXを全面に押し出した作品ではありません。どちらかと言えば、クラシカルなスタイルの人間ドラマです。このストーリーを支えるべく、どのようにVFXが制作されたのかお聞かせください。


マイケル・クリエット:
撮影は、全てカナダのバンクーバーで行われました。17世紀の日本を映像の中で「再現」すべく、全く何もないゼロの状態から作り上げていきました。

VFXは膨大なショット数となり、可能な限りリアルに、違和感なく見せる必要がありました。ストーリー上、観客の心を画面に引き込む必要がありました。
海の嵐のシークエンスは、臨場感を高める為、撮影は実物大の船のセットに油圧稼働のシリンダーを備えたジンバル(フライト・シミュレーターのようなリグ)で、実際に船を大きく揺らしながら撮影されました。

また、スウェーデンのVFXスタジオImportant Looking Piratesが流体シミュレーションによって、船内に流れ込むリアルな大波を表現しました。

地震のシークエンスは、画面に緊張感と臨場感を持たせるため、俳優の目線の高さからのショットを多用しています。

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プレゼンテーションの様子

司会:
アートディレクション、シネマトグラフィー、ディレクションなどが見事に調和していますが、これらをどうやって上手く融合させたのでしょうか?


マイケル・クリエット:
リアリティのあるドラマに仕上げるために、外部の専門家の意見を聞く事が重要でした。プロダクション・デザインの初期では、日本から時代劇のアドバイザーや専門家を招き、演者の細かいゼスチャーに至るまで指導を受けました。ゼスチャーの1つ1つが、日本の時代劇の中ではとても重要な意味を持つのです。

市街地や建築物にしても、建材や材木など1つ1つにも細心の注意を払い、適格な素材を選んでいます。なぜなら、建物の屋根のパーツの1つに的確でない木材を使ってしまうと、もうそれだけでウソっぽくなってしまうのです。このドラマの視聴者は、ウェスタン(西洋人)だけではないのです。目の肥えた日本の視聴者の方がご覧になっても、違和感がない完成度のビジュアルにする必要がありました。

特にスタント俳優には、「サムライ・ブートキャンプ」(笑)と呼ばれる2週間のトレーニングを受講してもらいました。日本から来た専門家の方から、日本刀の構え方、姿勢、侍の動きなどの徹底的な訓練を受け、体得した上で、撮影に参加しているのです。


司会:
この作品は、我々が日ごろ慣れ親しんだウェスタン・カルチャーの作品スタイルではなく、「日本の世界観」をカナダのバンクーバーの撮影スタジオにゼロから築いた訳ですが、その辺りのプロセスについてお聞かせください。


マイケル・クリエット:
撮影初日に最初のショットを撮影する9か月前からリサーチや準備期間を設けました。900ページにも及ぶ「リサーチ・バイブル」と呼ばれる設定資料を用意し、ウェスタンのクルーが17世紀の日本の世界をスムースに再現出来るよう準備をしたのです。

日本から俳優陣、プロデューサー宮川絵里子さん、そしてアドバイザーの方々が来られ、みなさんと非常に良い関係を築きながら、お互いに尊重し合い、助け合いながら準備を進めて行ったのです。

1つ、忘れられない思い出があります。バンクーバーの撮影スタジオのサウンドステージには、大阪城の内装セットが建てられました。セット撮影の初日、現場入りした日本の俳優の皆様が、セットに入るなり「本物の畳の香りが!!」と感激されていた姿が、とても印象的でした。ウェスタンのスタッフ達は、そういう細かいところにも、こだわり抜いたのです。

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大阪城の細部のデザインは、プロダクション初期からコンセプトアートが準備された。 Courtesy of FX Networks

司会:
嵐のシークエンスで、撮影中、何か難しかった事や、印象に残るエピソードはありますか?


マイケル・クリエット:
あの時、エピソード監督はジョナサン・バン・トゥレケン、撮影監督はクリス・ロスでした。彼らが忙しく手が回りきらない時など、私がVFX視点から、画面の中で「何が起こっているか」を俳優たちに説明したこともありました。撮影セットの中は静かですが、「船は嵐の中で、すべてがバイオレントです。大風が吹き、大波が流れ込み、大声で叫ばなければ相手に何も聞こえせん」と説明をして、「ここはポスプロで後から大波が足されます、そういうつもりで演じてください」などと、監督の邪魔にならない範囲で、演技指導の一旦を担う事もありました。

船の油圧稼働のジンバルは、実際の船の1/4だけを実物大で作り、船の残りの3/4の部分は後からVFXで足したわけです。ここに後からCGIの大波を追加していきます。ロドリゲスが海中に落ちる、あのシークエンスです。ここで按針がロドリゲスを助けた事で、エピソード3ではロドリゲスは大阪脱出を手助けしました。このシークエンスは物語の展開上、大変重要な役割を果たしたのです。


司会:
こういったシークエンスでは、エディターとのコラボが大変であったことが、容易に推察できますね。時々、エディター自身も、タイミングやショットの尺をどうすべきか、完全に把握しきれていない場合もあります。


マイケル・クリエット:
その通りです。このエピソードのエディターのマリア・ゴンザレスと小まめに連絡を取り、非常に沢山の電話のやりとり、画面ごとの説明を沢山行い、進めていきました。


司会:
続いて地震シークエンスについてお話を伺います。私がプロダクション・デザイナーの方から聞いたお話なのですが、当時の日本家屋は木造家屋で、木材と紙を使用し、地震などで破壊され易い側面を持ちながら、すぐに再建が可能なようにデザインされているという事でした。これは、地滑りのシークエンスではどのように反映されましたか。

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地震の後、姿が見えなくなった虎永を探す按針 Courtesy of FX Networks

マイケル・クリエット:
虎永の軍勢は、地震によって大きな打撃を受ける、というのがストーリー上の流れでした。

初期の脚本では、「軍勢は駐屯地の宿泊中に、紙造のテントが崩れ大半が命を落とす」という設定になっていたのですが、これでは物語の説得力に欠ける、地滑りによって軍勢を失う方が画面に迫力が出るだろう、というアイデアが出て、設定が変更になった経緯がありました。

虎永が立っていた場所は、崩落しつつも、大きな地滑りには至らず、彼は命を取り留めました。この設定に至るには、実は私自身の経験が活きているのです。私は現在バンクーバーに住んで12年になりますが、その前はLAのハリウッドサインのある山に住んでいました。あの一体は固い岩石層で、LAで地震が起こっても、私の家はあまり揺れを感じた事がありませんでした。その経験から、「虎永は岩盤層の端に立っていて助かり、軍勢は岩盤層外に居たため、地滑りに巻き込まれる」というアイデアを提案したところ、それが採用されました(笑)

さて、撮影はすべてカナダのブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーで撮影されました。ある時、撮影で訪れたバンクーバー郊外にある草原一体には、山がありませんでした。しかし、エピソード5には、虎永の軍勢が草原で駐屯をするシークエンスがあり、背景には山があるという設定でした。そこで、およそ150にも及ぶショットで、VFXで背景の山を足さなければなりませんでした。このエピソードに出てくる背景の山は、こうして、後から追加された山だったのです。

Q&A

ここでは、場内の来場者からの質問を受けつけた。来場者と言っても、全員が業界関係者であり、密度の高い質疑応答となった。

~この作品ではプレビスをあまり活用されなかったようですが、それには何か理由があったのでしょうか?

その通りです。複数の理由から、プレビスは活用されませんでした。私は推奨派だったのですが、反対意見を持つ人や、見積もりが予想より高かった事などから押し切られました。しかしながら、エピソード1が終わった後の反省会の際、今回はVFXショット数が7,000にも及び、フルCGショットも多く、エディターと頻繁にコミュニケーションを取らねばならなかった反省も踏まえ、次回のエピソード2ではプレビスを活用する事になりました(笑)


~何かのインタビュー記事で、あなたは日本に住んでおられた経験をお持ちであると読んだ事がありますが、今回の作品に何か影響を与えた事はありますか?

その通りです。父親の仕事の関係で、幼少の頃に日本に住んでいました。日本という国の文化や人々に親しみ、私は日本が大好きになりました。良い思い出が沢山あります。
そういった経験から、この作品を担当する事が決まった時は、とても興奮しました。しかも、私は80年代の「将軍」オリジナル・シリーズも、父親と一緒にVHSで観ていましたし、何かご縁のようなものを感じました。今回の『SHOGUN 将軍』は、80年代の「将軍」オリジナル・シリーズの”リメイク”ではなく、「新しい方向性で描いた作品」です。

プロダクションが始まった頃は、友人と話をすると「今、何やってるの?」「SHOGUN」「へ~、聞いた事ない作品だね」「そのうち、あちこちで耳にする事になると思うよ」、なんて会話をしていました。

撮影現場では、真田広之さんや日本人キャスト、日本人クルーの皆さんとも大変懇意にさせて頂きました。私は日本語を少し覚えていたので、日本語でご挨拶すると喜ばれたりしました。
公私ともに、大変楽しんで仕事をしました。


~デジタル・ダブルについて質問です。デジタル・ダブルによる表現は難しい課題の一つだと思いますが、この作品では大変効果的に使われています。モーション・キャプチャーなどを併用したのでしょうか?

はい、モーション・キャプチャーは沢山使いました。また、俳優さんなどスキャン出来るものは全てスキャンしました。同時に高解像度のテクスチャーを取得し、侍のデジタル・ダブルに活用しました。16人の俳優さんをスキャンして8レイヤーに増やし、侍の人数を増やしました。モーション・キャプチャーと一部手づけアニメーションも加えつつ、ライティングの調整を経てデジタル・ダブルが完成します。血しぶきのエフェクトではHoudiniを活用しています。結果は、大変うまくいったと思います。


~船のジンバルについて質問です。何か特別なセットアップは施しましたか?

あのジンバルは、実は「ピーターパン」を撮影していたチームから引き継いだもので、撮影スタジオもそのまま使用しました。現場にはジョリー・ロジャー(海賊旗)が残されていました(笑)


~バーチャル・プロダクションは活用しましたか?

検討はしました。しかし、使いませんでした。

バーチャル・プロダクションの活用を検討したのは、城の中庭の野外ショットです。なぜなら、バーチャル・プロダクションであればエンバイロンメントやライティングを完全にコントロール出来ます。バンクーバーの冬の天候における屋外撮影では、時として求める絵を撮るのが難しいため、バーチャル・プロダクションの使用を検討したのです。

バーチャル・プロダクションを検討している間、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」で使用されたバンクーバーのバーチャル・ステージを使用したテスト映像も見ましたが、さほど感銘を受けませんでした。

やはり、私は「現実」が好きです。実際に撮影したものを使うのが好きです。

バーチャル・プロダクションは、正しい結果を得るためには事前準備に大変時間が掛かる上、ほんの少しでも不自然な箇所があると、絵がうまく成立しなくなってしまいます。

実際、バーチャル・プロダクションを使用して、大成功した作品もあれば、あまり上手くいかなかった作品もありますし。


~プロデューサーとしても参加された真田広之さんは、VFXにも関与されたのですか?

真田広之さんは、どちらかと言えば、メイクアップのセッションや、時代考証、撮影現場、ポストプロダクション全般に関与されていたと思います。
私が個人的に尊敬している点は、私がVFXスーパーバイザーとして、真田広之さんに何か質問をしにいくと、常に適格な答えを返して下さったのが、たいへん印象に残っています。


~VFXに関する質問ではないのですが…、準備期間がたったの9カ月間しかなく、あれだけの成果を出す事が出来たという事に、正直驚きです!一体、どうやって完了させたのでしょうか?私の経験では、時代考証にはかなりのリサーチ期間が必要で、9カ月間という短期間で完了させるのは、ハリウッドの通常のプロジェクトでは考えづらいと思うのですが(笑)

はい、やるべき事は非常に沢山ありました。
実は、コスチューム・デザイナーは、彼がプロジェクトに参加する前から、1年半を掛けてテキスタイルのリサーチを行ったそうです。なぜなら、すべての着物の模様には、「言葉」があるのです。
他の部署、セットデコレーションからVFX、俳優陣も含め、コミュニケーションを密に取りながら、念入りに準備を進めていきました。

たしかに準備期間自体は9ヶ月間でしたが、このドラマを製作したFXのプロダクション・チームは、この作品を6年間もの歳月を掛けて開発してきました。その間、脚本の書き直しがあり、コロナによる中断があり、日本で撮影を行うプランから全てバンクーバーで撮影を行うプランに変更になり… などの複合要素が絡んでいるのです。

これらは、極めて稀有なケースであり、それも含めて、貴重な経験が出来たと思っています。


司会者:では、そろそろお時間となります。今日は、ご来場下さり、誠にありがとうございました。

『SHOGUN 将軍』 VFXベンダー一覧:
Important Looking Pirates(スウェーデン)
大人数の軍勢が移動するシークエンスの背景の地形・山脈のエンバイロンメント、地震による地滑りシークエンス、海上での嵐シークエンスの流体シミュレーションなど

SSVFX(アイルランド)
大阪城のエンバイロンメント、大阪の海上シークエンス、按針が虎永に飛び込みを教えるシークエンスの背景など

Goodbye Kansas Studios(スウェーデン)
大阪城のエンバイロンメント、網代のエンバイロンメント、網代の海と船など

Refuge VFX(オレゴン)
大砲で撃たれる丞善の兵と馬、釜茹シークエンス、切腹シークエンス、網代の海上など

Barnstorm VFX (LA・バンクーバー)
鞠子の顔面を弓がかすめるショット、温泉に入る央海と長門のショットのエンバイロンメント、大阪城を脱出後のキリシタン大名による襲撃シークエンスの弓矢や炎など

Pixelloid Studios (インド)
城内のセットエクステンション、ブルーバック背景のエンバイロンメント、空や背景の差し替えなど

Render Imagination (バンクーバー)
プリプロダクション初期から参加し、大阪の街などのコンセプトアートを担当

追記:
◇グリーンスクリーンで撮影したショットのロトスコープ作業は、インドにある複数のロトスコープ専門のスタジオに外注されたという。

◇カラーコレクション/グレーディングは、Company3が担当。


『SHOGUN 将軍』
ディズニープラスで全話独占配信中
Courtesy of FX Networks

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