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Special 2022.06.13 UP

【Inter BEE CURATION】英国で保守系テレビ続々開局 お騒がせ男モーガンVS.トランプ

小林恭子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年7月号からの転載で、「英メディア界のお騒がせ男」モーガン氏 VS トランプ前米大統領に関しての記事となります。ぜひお読みください。

保守系テレビ開局事情

 米国の保守系ニュース専門局「FOXニュース」は、トランプ前米大統領のお気に入りだった。愛国心溢れるその報道は、ニュース番組での不偏不党の原則に縛られる英国の主要放送局からすれば「超保守的な偏向放送」であり、その言論を眉唾で聞くか最初から相手にしないのが、英国の多くの人の一般的な姿勢だった。

 これまで、保守系のニュース専門局は英国にはなかった。昨年6月、英国の欧州連合(EU)からの離脱を支持した保守層の声を代弁するメディアとしてようやく誕生したのが、新放送局「GBニュース」だった。「GB」は英国の国名「グレート・ブリテン(Great Britain)」のイニシャルである。米ディスカバリーや投資家らが創設資金を提供した。

 関係者は「FOXニュースの英国版ではない」と繰り返し述べたが、英国ではまっとうな報道媒体として見られていないFOXニュースと同一視されてはたまらない、という思いがあったのだろう。期待をよそに開局当初から放送事故が発生し、視聴者数は鳴かず飛ばずとなった。離脱運動の立役者となった政治家ナイジェル・ファラージによるトーク番組が頼みの綱だ。

 今年4月、新たな保守系放送局「Talk TV」が開局した。こちらはFOXニュース系列の英新聞社「News UK」が所有・運営する。目玉は夜8時からの1時間の報道番組「アンセンサード(「検閲しない」の意味)」で、その司会者が英メディア界の最大のお騒がせ男ピアーズ・モーガン。モーガンといえば、最近ではメーガン妃についての失言があった。昨年3月、エリザベス女王の孫ヘンリー王子とその妻メーガン妃が米国のテレビ番組に出演し、王室の内情を暴露して世界中の話題をさらった。当時、民放ITVの朝の情報番組「グッドモーニング・ブリテン」の司会だったモーガンは「メーガン妃の言うことはまったく信用できない」と断言。翌日の放送で共同司会者の一人がモーガンの発言を強く批判すると、モーガンは怒って一時スタジオを出る一幕があった。その後、ITVによって降板させられた。

英メディア界のお騒がせ男・モーガン

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バスの車体に出ていたモーガンの新番組「アンセンサード」(Talk TV)の宣伝広告(筆者撮影)

 モーガンが大手メディアから解任されたのは今回が初めてではない。大衆紙『サン』に勤務中、“メディア王”といわれた経営者ルパート・マードックに気に入られたモーガンは、同紙の日曜版的な『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』(2011年廃刊)の編集長に29歳で抜擢された。それから2年も経たないうちにライバル紙の『デイリー・ミラー』の編集長に就任。2004年、前年に開始されたイラク戦争で頭に袋を被らせれたイラク兵に英兵が尿をひっかける画像を掲載した。これは後にフェイクであることが判明し、モーガンは職を追われた。彼自身は「フェイクであることを知らなかった」と主張している。11年には先の日曜紙で行われた電話盗聴疑惑事件の関与を疑われ、モーガンは全面否定したが、後のレベソン委員会による調査でその証言には「まったく信憑性がない」という結論が出た。新聞界を去ると、モーガンはテレビ界に進出し、米国の著名トーク番組「ラリー・キング・ライブ」の後番組「ピアーズ・モーガン・ライブ」の司会者に。米国と英国を行き来しながら、テレビ界に欠かせない人物となった。

 彼のこれまでを振り返ると、「なぜこれほど重宝されるのか」と、筆者は常に不思議に思っていた。一言でいうと「嘘つき」であり、誠実さのかけらもない。ところが、知人の男性ジャーナリストは「憎めない奴だから」という。ミラー時代のフェイク写真の件も、「解任されたのだから、みそぎを済ませている」。モーガン支持者によると、その持ち味は「政治的には正しくないことでも、ズバリと発言してくれること」。ITVの降板にいたった「メーガン妃の言うことは信じない」も、モーガン支持者には留飲を下げる発言の一つだった。

 モーガンは、新番組の冒頭で「この番組には言論検閲はない。言いにくいこともはっきり言う」と宣言した。第1回のゲストは、トランプ米前大統領。「先の大統領選で勝ったのは自分だった」「ヘンリー王子はメーガン妃に操られている」など、想定内の暴言が続いた。初回の視聴者数はピーク時で40万人近くとなり、同時間帯のBBCや衛星放送のスカイテレビの視聴者数を超えた。インタビューの最後、トランプのお目付け役が終了を催促すると、トランプが立ち上がり、部屋を去った。この様子の一部を見せて、モーガンは「トランプが怒って部屋を出た」というフェイクの文脈を広めて視聴者数を稼いだ。一カ所、モーガンがあっけにとられた場面があった。「自分は正直だ」というモーガンに対し、「お前は正直なんかじゃないぞ」と答えるトランプ。「お前はフェイクだ」。フェイクニュースという言葉を流行らせたトランプにまで「フェイク」と言われてしまった。開局から2週間後の5月上旬、Talk TVの視聴者数は急速に減少。保守系テレビが英国で傍流の位置から抜け出すには時間がかかりそうだ。

■ライター紹介
こばやし・ぎんこ メディアとネットの未来について原稿を執筆中。ブログ「英国メディアウオッチ」、著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『英国メディア史』(中公選書)


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放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版

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