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Special 2022.07.15 UP

【Inter BEE CURATION】ストリーミングサービス「CNN+」が わずか1カ月で終了した背景

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年8月号からの転載で、CNNのストリーミングサービス「CNN+」に関しての記事となります。ぜひお読みください。

深刻化する「コードカッティング」

 米ケーブルニュース局のCNNが、揺れている。サブスクリプション・ビデオ・オンデマンド(SVOD)の「CNN+」を3月29日(現地時間)に始めたが、わずか1カ月後の4月30日に終了したのだ。「1980年6月に創業者テッド・ターナーがCNNを開局したとき以来の最も重要な事業」としていた新サービス。さらに、テレビ業界が、SVODを含むストリーミングサービスに揺さぶりをかけられ、若い視聴者を獲得しようとした矢先の頓挫だった。

 CNNは、24時間ケーブルニュース局のパイオニア。だが、過去約20年は、保守系ケーブルニュース局のFOX News Channel(FNC、96年開局)とリベラル系のMSNBC(96年開局)に、視聴者数で大きく差をつけられた。3局で圧倒的に視聴者数が多いのはFNCだ。

 また、若い人を中心にケーブルテレビなどペイテレビを解約する「コードカッティング」も深刻だ。テレビネットワーク局やケーブル局は、放送という手段ではなく、オンラインでコンテンツを消費する若者獲得に手をこまぬいている。

 CNN+の料金は月額6ドル、1年で60ドルだった。ケーブルとは異なる生ニュースのオリジナル番組が、CMなしで配信されていた。それが打ち切りになったのは、CNNをめぐる経営体制の変化が背景にある。CNNの親会社であるワーナーメディアをメディア大手ディスカバリーが合併し、今年4月8日、新会社「Warner Bros.Discovery」が誕生した。CNNグローバルの会長兼最高経営責任者(CEO)に、メディア大手バイアコムCBSからクリス・リヒトが就任した。

 経済ニュース専門局のCNBCによると、リヒトは4月21日、CNN+の従業員約400人とCNN従業員に対し、CNN+を4月30日に終了すると伝えた。CNBCが従業員の話として伝えた終了の理由は3つある。

 ディスカバリーとワーナーメディア幹部は、合併前に事業計画を話し合うことができず、ディスカバリー幹部は、CNN+の先行きに懸念を示していた。第2に、ワーナーメディア幹部は、CNN+の会員が1年で200万人になると見込んでいた。しかし、初期の会員数は伸び悩んだ。また、Warner Bros.Discoveryの新CEOとなったデビッド・ザスラフは、単独サービスではなく、複数のサービスを組み合わせる「バンドリング」などに集中するストリーミング戦略の構想を持っていた。つまり、合併した両社の思惑が一致しなかったところに頓挫の理由がある。

 バンドリングは、現在のストリーミング業界に起きている激しい競争を反映した戦略だ。CNN+終了の直前である4月19日、Netflixは、会員数が10年以上ぶりに20万人減少したと発表した。第1四半期(1―3月)決算の発表で、4―6月期には会員がさらに200万人減るという見通しも示し、同社の株価は翌20日に35%暴落した。

ストリーミングの成功例

 巨人Netflixは10年以上トップを維持したが、米・英国での料金値上げやロシアからの撤退、パスワードの共有対策などの問題を抱えていた。「Amazonプライム」「ユーチューブTV」「Hulu」「Disney+」「HBO Max」「Discovery+」 など、ほかのストリーミングサービスも追い上げている。

 こうしたなか、CNNを傘下にするワーナーメディアは、人気ドラマ局「HBO」を保有。そのストリーミングサービス「HBO Max」が人気だ。一方、合併相手のディスカバリーは、「ディスカバリー・チャンネル」「フード・ネットワーク」などのケーブル局を運営。さらに、米国では21年からストリーミングサービスの「Discovery+」を開始している。つまり、合併により巨大なケーブルネットワークテレビ企業が誕生し、ストリーミングでも「HBO Max」「Discovery+」という成功したサービスがすでにあった。そのなかでCNN+が単独で始まったため、既存のストリーミングとのシナジー効果はなかったといえる。

 一方で、ニュース専門のストリーミングで成功例もある。メディア大手NBCユニバーサルの報道部門、NBCユニバーサル・ニューズ・グループは、ネットワークテレビ局NBCのニュース・報道番組、ケーブルニュース局「MSNBC」、経済専門ケーブルニュース局「CNBC」を運営。さらに20年以降、ストリーミングの「Peacock」「NBC News Now」を開始した。同ニューズ・グループはそこに、NBCの看板報道番組「ミート・ザ・プレス」や、ミレニアル世代を対象にした新番組を投入している。

 NBCユニバーサル・ニューズ・グループ会長のシーザー・コンデは、政治ニュースサイト「Axios」の会議でこう語った。

 「ストリーミングは、エンターテインメントの観点から、視聴者の層や新しい技術を開拓し、テレビ業界に変化を促した。今や、ニュース部門もその流れに乗れることがわかった。『NBC News Now』では、(ケーブルニュース局のように)生ニュースに常に接することができる。視聴者の世代も、シニアより若いのが特徴だ」

【プロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。


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