【Inter BEE CURATION】Netflix 「広告つきプラン」導入
ジャーナリスト 津山恵子 GALAC
※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年12月号からの転載です。
米ストリーミングサービス大手のNetflixは10月13日、11月から「広告つきベーシック」プラン(以下、s広告プラン)を導入すると発表した。同社が計画を明らかにしたのは、わずか半年前だが、早急に広告プランは必要だった。その背景は、ストリーミングサービス業界での競争が激化しているためだ。視聴時間や視聴者は増加し続けているうえ、広告入り無料テレビ配信サービス(FAST=Free Ad-Supported Streaming TV)が急成長しているのが引き金となった。
広告プランは、日本では11月4日午前1時より提供が始まり、料金は月額790円。従来の最安値だった990円の「ベーシック」から200円安くなる。米国では、8・99ドルだったベーシックに比べ、広告プランは6・99ドルとなる。導入されるのは、米国、ブラジル、フランス、英国、韓国、日本など12カ国だ。
注目されるCMは1本15秒から30秒で、表示の仕方はテレビCMと同様となる。1時間に平均4~5分の広告と、テレビ放送の平均15分よりかなり短い。このため、CMがないのが魅力だったが、料金が安くなり、放送に比べCMが少ないなら、プランを乗り換えてもいいという視聴者はいるだろう。
Netflixが広告プラン発表のカンファレンスコールで見せたCMのサンプルを見ると、右上に「Ad」という表示があり、その後に何秒でCMが終わるかクロックが出る。これは、ユーチューブで広告をスキップするためにクロックに見慣れている多くの視聴者には受け入れやすい表示だろう。
Netflixの最高執行責任者(COO)兼CPO(最高製品責任者)のグレッグ・ピーターズ氏はカンファレンスコールでこう述べた。
「政治的あるいは政策的な広告、違法な広告は掲載しない。法律に違反するものや、詐欺的なもの、差別的なもの、銃や爆発物、喫煙関連の広告、一攫千金を狙うようなものなど、みなさんが(CMとして)想定しそうなものも表示しない」
この方針も、視聴者に多い若い世代、イコール、アンチ伝統的なテレビメディア世代にアピールする。今年は11月8日投開票の中間選挙を控え、テレビでは選挙・政策広告が急増している。そのなかには、特に保守派候補者の広告で銃社会の支援や、紛争を想起させるイメージも表れる。それが、特に若い世代のテレビ離れにも繋がっている。
拡大するストリーミング業界
Netflixがこうして、CMの1時間当たりの尺やCM内容を制限しても、広告プランを発表したのは、意味がある。
第一に、ストリーミング市場は伸び続けており、NetflixをAmazonプライム・ビデオやDisney+、Huluなどが追い上げている。パイは拡大の一途で、米国では年内に、ストリーミングの視聴シェアがケーブルテレビのそれを上回ると見られている。ニールセンによると2021年6月のケーブルテレビ視聴は、全映像視聴の40・1%だったが、22年6月には35・1%に減少した。これに対し、ストリーミング視聴は、27・4%から33・7%に急上昇した。このままのペースでいけば、年内に視聴シェアが逆転する可能性は大きい。Netflixの広告プランが、ストリーミング視聴をさらに拡大させる可能性もある。
また、米調査会社ライトマン・リサーチグループ(LRG)によると、全米1900世帯を対象にした調査で、成人の59%がテレビ以外のデバイス(スマートフォン、タブレット、PC)で、毎日動画配信を見ていることがわかった。20年は55%、17年は43%であり、急増していることがわかる。
一方で、ストリーミング業界の拡大に、広告入り無料テレビ配信サービス(FAST)の急成長も貢献している。テレビ放送のオンライン版ともいえるFASTは、「高いケーブルテレビ料金を払いたくないが、従来のようなCM入りのテレビ体験をしたい」という中高年層にアピールしている。CMになると用を足しに行くという習慣がある世代だ。米ケーブルテレビ大手のコムキャストによると、自社のFASTサービス「Xumo」の利用者が、昨年から今年にかけて倍増したという。
「広告つきプラン」やFASTの成長で、ストリーミング業界に対する広告主からの注目も高まっている。
米ローカルメディアのコンサル会社、BIAアドバイザリー・サービシズは、ネット配信によるストリーミングサービスは、ローカル広告のなかで最も急成長するという報告を発表した。中間選挙がある今年の売上総額は前年比57%増の20億ドルを予想。大統領選挙年の24年は28億ドルに、次の中間選挙年の26年には34億ドルに達する見込みという。テレビ放送業界が「選挙の年」に受けてきた政治・政策広告の恩恵の一部を、ストリーミング業界が奪取することになる。
広告主から見れば、テレビからストリーミングへ視聴シェアがシフトしているため、当然の判断であろう。ストリーミング業界の拡大で、映像視聴には大きな変化が起きており、それはいずれ日本にも到達するのは間違いない。
【プロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。
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