Inter BEE 2023 幕張メッセ:11月15日(水)~17日(金) オンライン:12月15日(金)まで

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Special 2024.02.09 UP

【Inter BEE CURATION】放送局が考える広告メディアの向かう先【VR FORUM 2023 レポート】

VR Digest編集部 VRダイジェスト+

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[登壇者](右から)
株式会社テレビ朝日 ビジネスソリューション本部 セールスプロモーション局 オンラインビジネス部長 萱沼 崇英氏
株式会社テレビ東京 営業局 営業推進部長 谷 真輝氏
日本テレビ放送網株式会社 営業局 営業戦略センター アドリーチマックス部 武井 裕亮氏
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット ビジネスソリューショングループマネージャー 兼 ネットワークユニット 関西支社 鈴木 康啓

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。

関東地区だけで月に約2,000のテレビ番組が制作され、365日24時間の編成のなかで的確な広告枠を設けて圧倒的なリーチ力を誇るテレビCM。しかし、生活者のメディア環境は大きく変化し、インターネット広告市場は大きな伸びを見せています。
そのような中、放送局が広告メディアをどのように捉え、どのように進化させようとされているのでしょうか。このセッションでは、それぞれ独自の取り組みにチャレンジしている放送局の3名をお招きして、放送局が考える広告メディアの向かう先についてディスカッションしました。

■優れたコンテンツとリーチ力が強みのテレビの現在地

イントロダクションとして当社の鈴木が、「広告メディアの今」について当社MCR/exデータを交えて考察しました。男女12-69歳(東京50km圏)のメディア接触時間は、コロナ禍の2020年にピークがあるものの、「6年前と比較すると全体的に増加・維持の傾向にある」。ただ、注目すべきはその内訳で、「リアルタイム視聴やタイムシフト視聴の割合が減少し、ネットや配信動画の割合が大きくなっている」ことを指摘しました。

また、女性25-29歳(東京50km圏)の視聴行動に目をむけると、自宅内はテレビが強いものの、動画視聴には「ゴールデンタイムにコネクテッドTVで」と「ゴールデンタイム以降にスマートデバイスで」と大きな山があることにも言及(図1)。

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(図1)

加えて、自宅外では昼休みにあたる「11時~13時にスマートデバイスでの動画視聴が増えている」とし、これらを踏まえて、「デジタルメディア視聴が進んでいること、オンオフシームレスな動画コンテンツ視聴が一般的になっている」との見解を示しました。
テレビメディアを取り巻く環境が変化する中、改めてテレビメディアの強みを考えたとき、鈴木は次の3つがあると述べました。
① リニアなコンテンツであること(24時間365日番組が放送)
② 週に約2,000に及ぶ共視聴可能な番組がプロによって制作されていること
③ オールターゲットに対して圧倒的なリーチ力を持っていること
また、鈴木は特定のウェブサイトやアプリケーションを1ヶ月間のアクティブユーザー数を示す指標であるMAU(4歳以上)がテレビ視聴率調査※1によると1億1,425万人であることにも注目。これは、日本国民の総数に近い数字であることを踏まえ、「テレビは、日本全国ほとんどすべての人がみるメディアであることは変わらない」とテレビの価値を強調しました。一方で、特に男性の若年層におけるMAUやテレビ所有率の低下が見られるなど、年代によってバラつきがある現状にも触れました。
※1)2023/9/1(金)~2023/9/30(日)、全国32地区、リアルタイム視聴、判定条件1分以上

これら生活者のテレビメディア接触動向の変化を踏まえ、テレビメディアの「のびしろ」について、各放送局はどう捉え、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

■テレビ東京:独自性の高いコンテンツを軸に熱狂的なファン作り

2023年に開局60周年を迎え、局ブランドを「テレビ東京」から「テレ東」に一新した株式会社テレビ東京(以下、テレビ東京)の谷氏からは、新時代のテレビに向けて模索している具体的な取り組みが示されました。

コアなファンをターゲットに
「テレ東は、創意工夫と挑戦する姿勢がステークホルダーに評価されてきた」という谷氏。そのようなファンを大切にする施策について語りました。
一人ひとりのファンの熱量を上げるための取り組みとして、「テレ東ファン支局」を紹介。こちらは、「2019年にプロジェクトが発足され、2021年10月からスタートし、プロデューサーの連載やドラマ裏話など、コアなファンの喜ぶコンテンツが提供されている」と谷氏は言います。

また、幅広い視聴者ではなく、コアなファンにターゲットを絞ったのは、物事の8割は2割の要素で決まるという「パレートの法則」が後押しになったとも。「当時のマーケティング担当が、当社の過去のデータにも同法則が当てはまることを発見し、深堀りしたことが、このプロジェクトにつながっている」と谷氏は説明しました。

視聴者のインサイトを汲み取った番組制作
ファンを大切にする姿勢は、番組作りにも落とし込まれていると谷氏。その代表例として取り上げられたのが、視聴者のインサイトを汲み取って制作された0-2歳の乳幼児向け番組『シナぷしゅ』。

視聴率測定では対象外となる0-2歳をターゲットとしたテレビ東京の新たな挑戦とも言えます。「子育て中の社員が、子どもがテレビを観ることへのマイナスイメージに疑問を持ったことがきっかけ」と谷氏は言い、育児中の方から大きな支持を得ていると続けました。

ここで株式会社テレビ朝日(以下、テレビ朝日)の萱沼氏は「テレビ局はCMを出稿いただき、広告主からお金をいただくのが前提。本取り組みを行うにあたっては、社内でも相当な議論がなされたのではないか」と指摘。それに対し谷氏は「ビジネスとしては、広告収入以上に、グッズの商品化や販促プロモーションなど立体的にさまざまなビジネスを生み出すことに重きを置いている」と答え、新しい番組作りのアプローチとして一石を投じました。

視聴率以外の物差しの可能性
これまでの谷氏の話を受け、鈴木は、番組コンテンツの"視聴質"評価がわかる当社「コンテンツカルテ」のデータを示しました(図2)。

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(図2)

横軸に個人視聴率(男女12-69歳)、縦軸がQレイトと呼ぶ「非常に好き」という回答者の割合をとり、その分布を示したもの

データからは、テレビ東京の『あちこちオードリー』『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』などはファンの支持が高く、"濃い・深い"番組だということが示唆されました。
これを踏まえて、鈴木は「コンテンツの濃さ・深さを示す視聴率以外の物差しの可能性」について問い、谷氏は「肌感覚で捉えていた番組評価を、エビデンスとして数値化できるなら、ぜひ参考にしたい」と期待を寄せました。

■テレビ朝日:デジタル&リアルの接点を起点にムーブメントを起こす

テレビメディアの近年の課題である若年層の視聴率低下に対し、どのような取り組みを行っているのか、 テレビ朝日の萱沼氏からは「FIBAバスケットボール ワールドカップ2023(以下、バスケW杯)」の取り組みが紹介されました。

放送は、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)と共同で地上波・BSで実施。さらに、TVerでスペシャルライブやアーカイブも配信。このほか、萱沼氏は独自の取り組みとしてデータ放送を活用した双方向コミュニケーション施策やリアルイベントを開催するなど、360度でコンテンツ提供を展開したことを紹介しました。

データ放送を活用し視聴者との一体感を醸成
バスケW杯のデータ放送では、視聴者との一体感を生む取り組みとして「ライブ予想クイズ」を実施したと萱沼氏。「ライブ予想クイズ」自体の事前PRを、同局が出版したムック本『バスケットボール・ワールドカップ2023観戦ガイド』で実施し、目玉づくりにも力を入れたと続けました。
その結果、今回の放送では、クイズに過去最大級の応募があったと紹介。萱沼氏は、「まさに、膨大な熱量を注ぎ込んだ事前準備の賜物だった」と振り返りました。

リアルイベントでは、事前盛り上げと当日施策の2本立てで実施。
事前施策としては、テレビ局イベントでバスケットボール応援番組『バスケ☆FIVE』ブースを展開。
当日施策としては、東京ミッドタウン日比谷でのパブリックビューイングを設置し、「事前施策も含めて、バスケットボールを盛り上げ、視聴者が熱い想いを画面にぶつけているところにCMを流せた。バスケットボールでの最大リーチを目指せたのではないか」と萱沼氏は述べました。

配信と地上波の伴走によるムーブメントの重層
セッションでは、テレビ放送と並行して実施された配信に関しても触れました。
まず、鈴木からは、テレビ視聴率調査のデータをもとに、バスケW杯の全5試合における到達者数を紹介。到達者数は、5,689.1 万人※2にものぼり、かなり大きな数字になったことが示されました。
その中で、放送の視聴人数が少し下がった第2戦の対フィンランド戦が、配信では最も多い約20万人(図3)となっていることにも鈴木は触れ、日本テレビの武井氏は、「対フィンランド戦は、劇的な勝利だった。配信は、その感動をシェアしたいという人の受け皿になったのではないか」と分析。配信が、のちの試合のテレビ放送の視聴人数を伸ばした可能性についても武井氏は言及しました。

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(図3)

このようなテレビ放送と配信の補完関係は、コンテンツの部分でも表れており、株式会社AbemaTVとタッグを組むテレビ朝日では、「同じ競技大会の番組でもAbemaTVとテレビ朝日では違う視点でコンテンツを提供している。同じコンテンツであっても様々な楽しみ方ができる時代がきている」と萱沼氏は強調しました。

※2)4歳以上、日本戦5試合計、全国32地区、リアルタイム視聴1分以上、1日以上有効サンプル

バスケコンテンツのBuzzの広告的価値
バスケコンテンツの影響について、鈴木からはX(旧Twitter)のPost数を観測し、番組の質を数値化、可視化出来る「Buzzビューーン!」のデータが紹介されました(図4)。

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(図4)

点線(番組放送終了時間)を境に、左側は番組放送中、右側は放送終了後を表し、前後30分の毎分のXのPost数を示したもの。

バスケ、ドラマ、音楽番組、バラエティ番組をPost数の多いコンテンツで並べた結果、バスケは試合終了時の爆発力が強く、終了後もかなり多くPostされている様子がデータから示されました。

このデータを踏まえて、「Buzzデータを放送局はどう捉え、どのような価値があるのか」という鈴木の問いかけに、萱沼氏は「バスケに限らず他の番組も番組終了後にBuzzのピークを迎えることからも、テレビメディアによる影響力は強い」と述べ、また「話題性がある番組にはアドバタイザーも付きやすく、このような指標があるとセールスに活かしやすい」と続けました。

その一方で、「スポーツコンテンツは、バズりの事前予測ができないためセールスが難しい側面もある」と武井氏。この話を受けて、鈴木は、バスケ国際試合の視聴率を時系列でまとめたデータを提示し、
「バスケW杯の視聴率の伸びは、それ以前の視聴率データからは予測が難しいものである」と示しました。(図5)

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(図5)

そのような中、スポンサード企業はどのようにスポーツコンテンツを捉えているのか。萱沼氏は現場で広告主から感じたことをもとに、「スポーツという身近なコンテンツに対し、アドバタイザーも寄り添う姿勢があり、そのようなアドバタイザーが多いほど、バズったときに大きな効果が現れる」と述べ、続けて「スポーツコンテンツは、放送局、アドバタイザー、そして視聴者とともに育てていくもの」と見解を示しました。

■日本テレビ:テレビ広告×アドテクノロジーでデータの迅速化・未来化

次に、テレビの未来を考察するということで、アドテクノロジーを使ったテレビ広告の進化について、日本テレビの武井氏が、同局の取り組みを説明しました。
具体的には、日本テレビが開発するプラットフォーム、ARM(アドリーチマックス)について、「テレビ広告の良さを残しながら、デジタルの利点を取り込むことを目指している」と武井氏は語りました。

テクノロジーを活かし広告枠の柔軟運用を実現
「広告主の期待に応えているか」ということを念頭に置いたときに、テレビ広告の課題のひとつとして挙げられるのが、広告枠の運用に柔軟性がない点と武井氏。
テレビ広告業界では、広告の搬入基準があって、タイミングによっては広告素材の変更は困難。一方で、「インターネットではプログラマティックに動画広告を配信できる時代となっており、テレビ広告はその潮流から立ち遅れている」と武井氏は指摘しました。

その課題を踏まえ、武井氏は「素材の審査・考査が事前に済んでいることを前提に、アドテクノロジーの力で、放送の数秒前までいつでも広告枠や広告素材を変更できるプラットフォームを目指している」と述べました(図6)。

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(図6)

このデジタル広告に近い出稿スタイルに対し、それぞれのパネラーも反応。特に、広告枠をどのような基準で変更するのか、ということが論点に。これに対して武井氏は、「広告主のKPIに応じて最適な枠を人の手に代わって機械が自動的に当てはめていく作業」と説明。「F1層の視聴が多い枠に」「スポーツ番組だけに」「この時間帯に出稿を」といった要望に、機械のほうがミスなく対応できると利便性を説きました。

この実現には、即時視聴率が大きく寄与することになります。ここで鈴木からは、現在15分後に視聴率提供する「PMビューーン!」というサービスを提供していることを紹介。
すでに、生放送の報道番組の番組制作などで活用されている一方で、ARMにおける即時視聴率の重要性の観点から「ゆくゆくは0分提供を目指してほしい」という更なるニーズが武井氏から寄せられました。

長年寄せられてきたテレビ広告へのニーズ
テレビ広告には、発注や素材決定にかかるリードタイムを短縮したい(広告枠の柔軟運用化)ニーズの他にも常態化したニーズがあると武井氏。具体的には、「どのCMが何時何分何秒に流れたのか?」という情報をいち早く知りたいというニーズ。
広告主は月一の頻度で届く放送確認書を通して、実際にテレビCMが流れたかどうかを確認しているのが現状で、「そこの即時性を強めていく必要がある」と武井氏は強調。

さらに、過去の指標をもとに未来の広告枠を売る、ある種先物取引化しているテレビ広告の現状にも触れ、「広告主にとって投資判断がつきやすく、再現性の高いキャンペーン設計ができるような環境を実現する必要がある」と続けました。
武井氏はこれまで長く寄せられてきたテレビ広告のニーズや課題を整理したうえで、「ルールや商品設計の変更、システム開発でこれらに対応していきたい」と意気込みを語りました。

ARMで構想中の統合在庫セールス
併せて、「潜在的なニーズに応えるためにも未来の商品を打ち出したい」と武井氏。現在構想中の「統合在庫」という商品企画を紹介しました。
これは、テレビに加え、TVerなどその他のメディアも含めて放送と配信の広告在庫を統合してセールスするというもの。取引指標としては、放送配信共通でインプレッションを想定していると武井氏は述べました(図7)。

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(図7)

今後は、放送の広告在庫の中からARMにどの程度の割合を充てるのか、といった課題に取り組んでいきたいと意気込みを語りました。

■まとめ~テレビ×デジタル広告統合指標の考え方~

鈴木は、3社の取り組みを受けて、これからのデータの方向性は3つの"I"に集約されると言います。
①Integration:統合
メディア・デバイス・単独視聴・共視聴など、分散化された視聴を統合していくという方向。
②Involvement:深化
熱量やBuzz、そのコンテンツの稼ぐ力など濃さや深さを示していくという方向
③Inter-operability:相互運用性
即時提供や予測、相互連携など、連携性・運用性を高めていくという方向

鈴木は「コンテンツとアドの組み合わせで強みを発揮する方向性、コンテンツとアドを切り離して運用性を高める方向性とも言い換えられる」と述べ、「人を中心において、コンテンツの価値、アドの価値を正確に計測し、あらゆる場面で活用できるよう準備していきたい」とまとめました。

そして最後に、「VR FORUM 2023」では「Co-transformation」一緒に変革しようをテーマにしていることに因み、登壇者の皆さまの「Co-○○○○○」をお伺いしました。

Co-Connect
もっと"繋がる"未来を目指す(武井氏)

Co-Emotional
皆でエモーショナルな体験を(萱沼氏)

Co-Create
まだ見ぬ「おもしろい」を共に創る(谷氏)

Co-Growin'up
ともに対話を続けて、成長する(鈴木)

最後に鈴木は「本セッションで紹介いただいた各放送局の取り組みが少しでも皆様のヒントになれば大変うれしく思う」と締めくくりました。

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