【NEWS】クロノス・グループ・OpenGLとOpenGL ESの統合をSIGGRAPHで発表 一つのソースがどのマシンにも使えるように
2014.9.4 UP
「次世代OpenGL構想」を語るクロノス・グループのニール・トレベット代表
8月10日から14日までバンクーバー(カナダ・ブリティッシュコロンビア州)にて開催されたSIGGRAPH 2014において、米クロノス・グループはCG用APIであるOpenGLとOpenGL ESの統合を発表した。これまで、デスクトップ用と組み込み用に分かれていた二つのAPIがいよいよ統一されることになった。CGプログラマが夢見てきた、一つのソースがどのマシンにも使える状況がいよいよ出現する。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)
■統合を発表
CG用ミドルウェアであるOpenGLと組み込み機用のOpenGL ESは業界で広く使われている。ゲームの分野では米マイクロソフト社のDirectXに存在感があるが、CADやCGといったビジネス向け(プロ用)分野ではOpenGLが多く、スマートフォンではOpenGL ESは100%近く採用されている。
OpenGLはOS独立のミドルウェアで、そのAPIは業界標準の仕様になっている。API動作の互換性は、米クロノス・グループが実施する認証により保証されている。このため、CGアプリケーションのソースコードを変更することなく機種・OSをまたいで使用することが可能になる。OpenGLにはライブラリとして高度なCG表現が用意されているため、短期間に高度なCGプログラムを作成できる。
OpenGLを組み込み機、ゲーム機用に構成したものとしてOpenGL ESがある。こちらは、処理能力が低い機器での使用を想定しているため、OpenGLに比べて一部の機能を抑えたり、省略している。また、整合性が取られているとは言え、OpenGLとOpenGL ESの記法には異なる点もあるため、両者の互換性は完全ではない。一つのソースで、どのようなマシンでも実行できる、という状況は実現されていない。
この件は、長年問題とされてきた。これまでは、両APIの間で機能を揃える作業が行われてきており、最近ではOpenGLの新バージョンに対して、一世代(API改訂1回)の遅れで新機能が導入されてきた。20年の歴史を持つOpenGLには、多くの機能拡張が行われており、全体の整理を求める声も強まっていた。今回、クロノス・グループは、全体を整理し、デスクトップ用と組込用で一つのAPIにまとめこむことを決断した。
8月10日(プレスリリース表記は11日)に発表されたAPIの統合について、クロノス・グループのニール・トレベット代表に聞いた。
■後方互換性を捨てる
−---なぜ、いま、APIを統合するのか
「OpenGLが最初に設計された頃、グラフィックスを行うのは専用のアクセラレータを搭載したワークステーションだった。いま、グラフィックスは手のひらに載るようになり、GPUはどこでも使われている。プラットフォームの拡がりが、デスクトップ機用のOpenGLと組込用のOpenGL ESを統合する必要性を高めた。また、OpenGLのオリジナルな部分は、GPUが無い時代に考案されたものだ。GPUの構造を活かしたグラフィックス・アーキテクチャを用いれば、より効率よくグラフィックスを行える。次の20年のために、新たに設計する時が来た」
−--- これまで20年の蓄積がある。互換性はどうするのか。
「互換性は、取らない。現在、動作はかなり複雑なものになっている。プログラマがある操作を計画し、記述しても、別の箇所で変化が起きるといった副作用が出ている。そこで、行いたい操作のみがなされるような”明示的なコントロール”を実現する。これは、更なる高性能化をもたらす。また、”マルチスレッド&マルチコア・フレンドリー”な構造にして、現在のプログラミングスタイルに対応する。CPUへの負担を大幅に減らせると見ている。
−--- 処理の流れは変わるのか
「大きく変わる。既にOpenCL(Open Computing Language)で採用している中間表現にSPIRがあるが、これに似た中間表現を使うことを考えている。シェーダーを記述した後、中間表現が生成され、これを実行する形を考えている。この方法を使えば、コンパイラの前処理部分は共通化し、プラットフォーム依存部分のみを各プラットフォーム毎に開発すればよくなる」
−--- 誰が検討しているのか
「クロノス会員企業で、NVIDIA、インテル、ARMをはじめとするGPUのメーカーやユーザーが集まっている。ゲーム関連では、ソニーやエレクトリック・アーツが参加しているし、PIXARアニメーション・スタジオも加入している」
−--- マイクロソフトの姿が見えない
「マイクロソフトは、クロノスに参加したばかりだ。活動の状況を理解すれば参加すると期待している」
−--- いつ、完成するか。
「できるだけ早く、だ。何年も掛けて委員会が検討する国際規格のようなことは行わない。OpenCLの時は、アップルが原案を持参してから仕様策定までに9カ月でやり抜けた。これは、個人的感想だが、この速度に近づくと思う。もちろん、9カ月よりは時間が掛かるが」
−--- OpenCLの時は原案の提出があった。今回は、あるのか。
「ある。複数企業から提案されている。この委員会は、オリジナルのOpenGL ESグループを上回る熱気だ。期待して欲しい」
−--- その他に、重要な事項はあるか
「教育活動であるKITEには20の高等教育機関が集まった。画像認識関連ではOpenVXの暫定仕様を7月に発表した。カメラ用インターフェース仕様であるOpenKCamは、年内に暫定仕様を発表する予定だ」
★★★
来年には、新たなAPIが登場する。デスクトップとスマートフォンが同一のAPIを使えれば開発効率は大幅に向上する。開発負担も軽減される。次の20年に向かう新たなAPIに期待したい。
「次世代OpenGL構想」を語るクロノス・グループのニール・トレベット代表