【NEWS】多様化する3Dプリンター 原材料がコピー用紙の3Dプリンターから スマホの画像を元に形状データ生成サービスも登場 SIGGRAPH 2013 報告(3)

2013.8.16 UP

Mcor IRISは、造形した表面にカラーでプリントもできる
Mcor社のMcor IRISは、樹脂の代わりにコピー用紙を用いて造形する3Dプリンターだ

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Sculpteoは、3Dプリンティングのクラウドサービスを標榜し、米国でも活動を活発化させている

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The Foundryは、クリエイターによるツールの説明が大きな人気を博していた

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Pixarは、新作「モンスターズ・ユニバーシティ」公開にあわせブースを大学キャンパス風に仕立てていた

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 7月に開催されたCG・インタラクティブ技術の学会、展示会である「SIGGRAPH2013」(主催=米ACM SIGGRAPH)では、今年も3Dプリンターが数多く現れた。SIGGRAPHでは、約20年前から3Dプリンターが展示されている。この技術自体は、SIGGRAPHにおいて珍しいものではないが、今年は全く異なる素材を用いる製品が現れた。また、フランスからは3Dプリントサービスも上陸した。素早くアイデアを具体化する3Dプリンター旋風は、まだまだ続きそうだ。
(映像新聞 論説委員/日本大学生産工学部 講師 杉沼浩司)

■SIGGRAPHではおなじみの3Dプリンター
 3Dプリンターが話題になっているのは、この2年ほどだろう。細かな形状を容易に試作できるとあって、あたかも3Dプリンティング技術が製造事業のすべてを変革するような考えすらメディアには登場する。しかし、プリントの速度と使用する素材の強度から、よほどの少量生産品で無い限りは試作用に限るというのが業界での理解とされている。
 SIGGRAPHには、20年ほど前から3Dプリンターが登場しているが、当初はサーバー用ラックほどの大きさがあった。昨年、1300ドルほどの卓上型が登場し話題を呼んだが、小型化には目を見張るものがある。
 SIGGRAPH展示における3Dプリンターは、3Dスキャナーと併せて展示されることが多い。対象物の形状取得を行い、CADで加工の上、取得形状を基にした新しい作品をプリントするといった一連の過程を想定したデモとなる。これは、プロダクションにおいて、造形を行いながらイメージを固めてゆく過程に合わせた展示だ。ただし、CAD加工の部分を省けば、オリジナルの物品と同じ形を容易に作成でき、3Dコピーとして利用できてしまう。3Dプリンティングの理論的発展は、SIGGRAPHの論文発表で見られるが、やがて「3Dコピーできない形状の自動作成」といった論文が登場するだろう。
 3Dプリンターが使う素材は、熱可塑性の樹脂素材(主としてプラスチック)が多い。溶けた状態で薄く樹脂を敷き、固まるとその上に更に積み上げてゆく。薄く敷いてゆく時に、ヘッドから樹脂が押し出される。この形成過程がプリンターと呼ばれるゆえんであろう。
 ただし、SIGGRAPHでは過去に全く異なる素材を使うものも現れたことがある。その一つは食用発泡素材を使ったものである。これは、加工の行いやすさから選ばれた素材だ。「環境に優しいし、失敗作は食べられる」と、当時話題になった。
 そして今年、またもや新素材を用いた3Dプリンターが登場した。

■紙を重ねて造形
 アイルランドのMcore Technologies(エムコア・テクノロジーズ社、http://www.mcortechnologies.com)がデモした「Mor IRIS」は、紙を素材として造形する3Dプリンターだ。アイルランドの大学からのアイデアという。紙を重ねる際に樹脂で固めながら行うため、十分な強度がある。会場では、このプリンターで作った栓抜きが報道関係者に配られていた。当然、素材は紙であるが実際に栓を抜ける。
 使用するのは、特殊な紙ではない。ごく普通のA4コピー用紙だ。紙を素材としたことで、着色も容易になった。ブースでは、リアルに着色されたバナナ、3Dスキャナーから形状・画像両データを取得し造形したリアルな顔面など、素材の特徴を活かした作品が展示されていた。
 同社によれば、Mcor IRISは、利用素材が市販のコピー用紙であるためランニングコストが極めて低く、同等サイズのプリンター比で約3年でコスト回収ができるという。日本での代理店は(株)ジェービーエム(東大阪市)であり、8月より国内販売を開始した。(http://www.mastercamx.co.jp/3Dprinter/mcor_info.html)

■プリントサービス
 3Dプリンティングは行いたいが、プリンターを購入するには躊躇する。そのような層に3Dプリンティングを提供するのは、仏Sculpteo(スカラプティオ、http://www.sculpteo.com/en/)である。Sculpteoは、3Dデータのアップロードを受けて、プリントを行い返送する。米国内の場合、月曜日にアップロードすれば、金曜日には手元に届くという。
 同社のユニークな点は、単なる3Dプリントサービスに終わっていないところだ。同社のサイトでは、3Dデータ作成用の各種のツールが揃っている。たとえば、スマートフォンにて撮影した映像から形状データを起こすツールや、キーリング(キーホルダー)を作成するツールなど10種以上のツールが揃っている。これらを利用して造形も行え、手元に大規模な3Dソフトを置く必要が無い。更に、同社のサイトから3D造形物を販売することも可能だ。造形から販売までサポートする総合サイトに育っている。
 なお、同社は2012年よりCESに出展しており、2013年のイノベーション・アワードを受賞している。

■フルライン戦略へ
 コンポジット(合成)用ツール「NUKE」で知られる英The Foundry(http://www.thefoundry.co.uk/products/nuke/)は、ライティングツール、モデラー、レンダラーなども備えた全方位対応のツール開発企業となっていた。同社は、NUKEの他、KATANA(ライティング)、MODO(統合ツール)、MARI(テクスチャー)などのツールを、実際に制作過程で使用しているクリエイターが自ら語ることによるデモを行って好評を博していた。デモでは、映像の制作過程が見られた。水柱上をスケートボードで駆け抜けるVFX映像の解説では、バケツで水を落として作った水柱を、いかにNUKEで加工していったが示され来場者から歓声が上がっていた。
 また、同社のライティングツール「KATANA」は、今年のエレクトリック・シアターにてトリを飾ったPIXARの最新作「Blure Umbrellaブルー・アンブレラ」で使われた。PIXARからクリエイターが来場し、いかなる加工をおこなったかが示されていた。
 今年は、オートデスクが展示フロアへの出展を取りやめたが、米NewTek(代表製品は「LightWave3D」)、独Maxon Computer(同「CINEMA 4D」)、加Side Effects(同「Houdini」)といった商用統合ツールは、多くのユーザー、来場者をブースに集めていた。また、無料の統合CGツール「Blender」の開発を主導する蘭Blender財団も出展していた。
 プロダクションの出展で唯一目立ったのは、米Pixar Animation Studiosだった。新作「Monsters University」の公開に合わせ、ブースを大学構内風に飾り人気を博していた。

Mcor社のMcor IRISは、樹脂の代わりにコピー用紙を用いて造形する3Dプリンターだ

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#interbee2019

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