【NEWS】Jスポーツ　FT-ONE用いて4K切り出しスロー　ラグビー日本代表戦で実施　”競技を分かりやすく伝える手段として非常に有効”

　ジェイ・スポーツ（東京都江東区／以下、Jスポーツ）は5月25日、東京都新宿区の国立競技場で実施されたラグビー「アジア五カ国対抗2014」（兼ラグビーW杯2015アジア地区最終予選）の日本対香港の中継において、フル4Kバリアブルフレームレートカメラ「FT-ONE」（朋栄）を使った「4K切り出しによるHDスーパースロー再生」を実施した。制作上の利点が確認できたことから、30日の日本対サモアでも使用し、6月21日の日本対イタリアの中継でも運用する予定だ。（上写真は国立競技場の観客席南側上部に設置したFT-ONE）
（映像新聞社　信井文寿）

■スポーツ中継の演出に4K技術を駆使
　Jスポーツは次世代放送推進フォーラム（NexTV-F）におけるコンテンツ制作の取り組みの一環として昨年12月、関東大学ラグビー対抗戦グループの早稲田対明治の試合で初の4K収録を実施。これは4K中継のノウハウ獲得を目的に、機材の特徴を把握することに主眼を置いていたが、今回は、スポーツ中継の演出に4K技術を生かす方法を検討する中で企画された。
　Jスポーツ制作技術部部長の室口裕氏は、「4KからHDを切り出すことで、撮りこぼしがなくなり、演出的な広がりも出てくると考え、制作部に提案した」と実施の意図・経緯を説明する。
　また、今回の試みに当たって室口氏は、3Dでの反省を生かしたいという。Jスポーツは、かつて3Dに積極的に取り組み、ラグビーの3D中継を全国数カ所へのパブリックビューイングとして実施した実績がある。
　この取り組みは注目度も高く、視聴した関係者から評価もされたが、技術側主導であった点が否めなかった。そこで今回は、制作側に実際に使ってもらい、演出面などで有効だと実感してもらったうえで、継続的に使われる流れをつくりたかったという。

■4K切り出しシステム用いてHDスーパースロー再生　トライシーンで活躍
　今回のシステムは、FT-ONEと、4K切り出しシステム「ZE-ONE」（朋栄）を組み合わせて、HDのスーパースロー再生で使用することにした。
　ZE-ONEは、FT-ONEで収録した4K映像から、タブレット端末のタッチパネル操作によって簡単に、任意のサイズでHD映像を切り出し出力できるシステム。FT-ONEとZE-ONEは共同テレビジョンが導入していたことから、同社の4K中継車「KR-Adovance」とともに利用した。
　日本対香港の中継は6カメ体制で、グラウンドを縦方向から撮る位置にFT-ONEを設置。
　往年の名プレーヤーとラグビーファンによるチームの前座マッチでテストし、本番の日本対香港戦に臨んだ。試合は、日本が8トライを奪って49対8で勝利し、ラグビーW杯2015の出場権を獲得している。
　4K切り出しHDスロー再生は、トライシーンを中心に実施。前後半それぞれのハイライト、エンディングで使用した。ZE-ONEはノートPCからマウスで切り出し位置を指定したが、操作が簡単で運用しやすく、今後の活用に可能性を感じたという。本線系のHDのスローにはEVSを使ったことから、切り出しはリアルタイムでは用いなかった。

■「スポーツ中継での”４Ｋ撮影ー切り出し”は非常に有効」
　ラグビーはスクラムやモール、ラックといった密集からの展開、キックからの展開など、広いグラウンド全体で目まぐるしく局面が変わる。密集の中での選手の手の動き、ボールの動き、それにかかわる反則などは、試合の流れを左右する重要な部分だか、視聴者に分かりにくいことも少なくない。またラグビー中継では実況や解説者の話に合わせて撮ることが多い。しかしカメラが追いきれないこともあるという。
　室口氏は、「視聴者に見せたい部分を的確にとらえ、競技を分かりやすく伝えるには4Kは非常に有効だと感じた」と述べている。
　Jスポーツ制作技術部映像技術チームリーダーの富久洋次郎氏は、「通常のHDではカメラマンがボールをフォローしなければゲームの映像作りはできない。4Kからの切り出しでは、4K映像の中から必要な画を探すことがリアルタイムでできる。従来できなかった画づくりができる利点がある」と述べた。
　ただし、ライブのスポーツ中継の場合、4K切り出しでいくら良い映像が得られても、ゲームが進行している中、スロー再生で使えるものは限られる。そこで今回は確実に使える前後半の終了時のハイライトとエンディングで使用している。
　Jスポーツでは、今回の運用で、4K切り出しHDスロー再生がラグビー中継で有効と判断。同社が中継したリポビタンDチャレンジカップ「日本対サモア」（5月30日／秩父宮）でも使用した。同「日本対イタリア／同」（6月21日）でも同システムを運用する予定だ。