【Production】ノンリニア編集スタジオ「Labs Dots Studios」開設 「Autodesk Flame」最新バージョンを導入/フリーランスの利用も受け付け、スタジオ構築支援も視野に
2016.2.26 UP
「Labs Dots Studios」
「購入前に『FLAME』の最新バージョンを試すこともできる。アーチストのサポートもしていきたい」と話す石河氏
フィルム撮影助手からキャリアを始め、大手ポストプロダクションを経て、 長年FLAMEアーチストとして活躍している石河慎一氏がスタジオ「Labs Dots Studios」を開設した。石河氏はこれまで、「Inferno」、「Henry」など、往年のハイエンドシステムから、「FLAME」、「SMOKE」など最新のシステムまで、さまざまなノンリニアシステムを使いこなし、幅広い映像ジャンルの編集を手掛けてきた。 2月からスタートした同スタジオを訪ね、スタジオ開設の狙いについて聞いた。石河氏が自ら機材を選定した「Labs Dots Studios」は、ポストプロに新たなサービス形態を生み出すかもしれない。
■中目黒から5分の明るいスタジオ
ノンリニア編集スタジオ「Labs Dots Studios」は中目黒駅から歩いて5分ほどのモダンな低層マンションの一室にある。南北の両面がガラス張りの明るい部屋の中央には4K表示対応の大型ディスプレーとソファ、南側にはマシンに囲まれた編集デスクが配置されている。
石河氏はこれまで、フィルム撮影助手を経て、デジタルエッグ、神宮前スタジオなどで、ノンリニア編集を経験し、2000年からはフリーランスのノンリニア編集アーチストとして活躍してきた。「Henry」や「Inferno」といった往年のハイエンド・システムから、「FLAME」、「SMOKE」など最新のシステムまで多くのツールを使いこなしながら、CM、テレビドラマ、PV、TVグラフィックなどさまざまなジャンルの映像編集を手掛けてきた。石河氏はまた、日本のFlame Smokeユーザーグループの創設に携わり、自らもMotion Worksというブランドで情報発信を展開する。ノンリニア編集アーチストであるとともに、合成、VFX、撮影技術やシステム構築などのアドバイスなど、アーチストのサポート役としても大きな存在だ。
■「FLAME」の最新バージョンを稼働
フリーランスとして活動してきた石河氏が今回、自ら機材環境をデザインしたスタジオを開設した。その狙いを、石河氏は次のように話した。
「今回、スタジオを開設することにした一番大きな要因は『FLAME』をソフトウェア単体で入手できるようになったことです。これまでターンキーでしか入手する方法がなかったのが、ソフトウェアを契約することにより、多様な作業ボリュームに最適化したシステムを自分で構築できるようになりました。そのため、使い方によってはコストを抑えながら、高いパフォーマンスを引き出すことができると考えたのです。また、ファイルベース化が進んだことによって、導入コストやメンテナンスにお金がかかるテープ機器が必要なくなり、コピーなどの時間も短縮化したことで、クリエイティブな作業により時間をかけることができるようになったことも自分のスタジオを開設しようと考えたきっかけです」
「Labs Dots Studios」では、常設マシンを2台導入している。2台構成のため、「FLAME」に加え、並行してPremiereやDaVinci Resolveも走らせ、スイッチしながら使用することもできる。また、1台をバックグラウンドレンダリング用として使用することも予定している。また、「FLAME」は最新バージョンである「FLAME 2016」を導入済み。「たくさんの部屋を持つポストプロだと、バージョン管理が必要なため、最新バージョンをすぐに入れることは控えるケースが多いのですが、こちらは1システムなので、常時最新バージョンを入れて稼働しています」(石河氏)
通常、Macでは、Thunderboltなど直接ディスクを接続するDAS(Direct Attached Storage)を用いることが多いが、今回、同スタジオではLinuxマシンをベースに、PCIeによるDASで構成し、ネットワークを10Gb Ethernetで構築している。「利用者がMacを持参して接続することも想定している」(石河氏)という。
■アーチストへの貸し出しにも対応へ
「Labs Dots Studios」の新たな試みはまだある。アプリでオンライン予約が可能な点で、まるで美容室のように簡単にオンライン予約ができる。さらにカード等で決済も可能。
石河氏は今後の展開として「アーチストにも開放していく」という。前述のように、これまでにもアーチストのシステム構築などのアドバイスをしてきた石河氏だが、「Labs Dots Studios」は、フリーの編集アーチストが部屋を借りて、自分の作品作りの作業をしたり、さらに顧客を招いての編集作業などもできるようにするという。また、「FLAME 2016」など、最新バージョンのツールを試すために利用することも歓迎するという。「『FLAME』は、これまで主にポストプロダクションにターンキーシステムで導入されることが多かったので、個人のクリエイターが手にすることができなかった。『FLAME』を使って見たくても試す場所がなかった。ここへ来れば購入前に『FLAME』の最新バージョンを試すことができる」(石河氏)
■「ブティックタイプ」の流行
一時期、マンションの一室を借りて腕のある編集マンが編集を担当する「ブティックタイプ」と呼ぶポストプロダクションが次々と登場した時期があった。そうした中からクリエイターのクリエイティビティが高く評価されて成長・拡大し、今でも活躍しているプロダクションもある。しかし、パソコンの性能が高機能化し、ラップトップPCでノンリニアソフトが使えるようになり、ポストプロ業界は2極化が進む。同時に映像業界ではデジタルビデオの規格や製品の急激な変化が進み、短期間で機材やソフトが陳腐化する中で、1000万円以上するシステムを次々と切り替えながら、メンテナンス費を賄うことが難しい状況となり、中間的な立ち位置にいたブティックタイプのプロダクションの中には大手に吸収されるものもあった。
■ネットの発達で新たな可能性
今回、石河氏が新たにマンションの一室でのポストプロダクションを開始する環境は、当時との大きな違いが2点ある。高機能のパソコンを低価格で入手でき、従来数千万円していたハイエンド・ツールがソフトで提供されるようになったことで、 知識さえあればビデオ制作のシステム構築も可能な点。同時に、ネットワークが発達したことで、1拠点だけですべてを処理するのではなく、多地点での共同作業が用になった点がある。この二つの違いによって、従来のブティックタイプのポストプロとは違うコラボレーションの形が可能になる。
■スタジオ構築支援も構想
石河氏は「今後、さらにこうしたタイプのスタジオを構築したり、アーチストのサポートという形で同様のタイプのスタジオ構築を支援するということもしていきたい」と言う。ネットの動画配信が拡大する中で、ライブ配信も含めさまざまなタイプに対応する撮影スタジオが登場している。こうした流れと同様、ポストプロダクションも多様化していく可能性があるのではないかと感じる。当然ながら、そこには編集のプロとしての技量が求められるのだろう。
自らも新たなサービスを提供する機会と捉えるだけでなく、多くのフリーランスへのサポートもより積極化していこうとする石河氏の今回の挑戦から、新たな可能性が生み出されることに期待したい。
「Labs Dots Studios」
「購入前に『FLAME』の最新バージョンを試すこともできる。アーチストのサポートもしていきたい」と話す石河氏