【コラム】ILMが映画「スター・ウォーズ エピソード7」制作へ向け英国にVFXスタジオ新設を検討中 税優遇制度の恩恵を視野に
2013.5.21 UP
ルーカスフィルムに飾られたヨーダ像
ハリウッドの複数メディアが報じたところによれば、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)は、スターウォーズの新作映画『スター・ウォーズ エピソード7』の制作に向けて、イギリスでのVFXスタジオ新設を検討しているという。この背景には、イギリスが実施している外国映画に対する税優遇制度の恩恵を視野に入れたビジネス戦略がある。(鍋 潤太郎)
■制作コスト低減に税制度を利用か
昨年10月、ディズニーがルーカス・フィルムを買収[http://www.inter-bee.com/ja/magazine/detail/online/1067]した結果、ILMもディズニー傘下に収まる形となった。その際、2015年の公開を目標に映画「スター・ウォーズ エピソード7」を制作する事が同時発表されており、イギリスの税優遇制度を利用することで同作品のポスト・プロダクションに掛かるコストを抑える狙いがあると見られている。
監督に予定されているのは映画「スター・トレック」でお馴染みのJ・J・エイブラムズで、米メディアやネット上では、「レンズ・フレアと共にあらん事を」「レンズフレアの逆襲」等とジョークを交えて紹介しているところも見られた。
実際のところ、ILMによるイギリスでのスタジオ新設計画はまだ「検討段階」で、まだ特に具体的なプランや新設時期が決定している訳ではないという。また、仮にもし実現しても、ヘッドクォーター及びビジネスのコアは現在のプレシディオ(サンフランシスコ)から移す予定はなく、VFX制作現場の規模も現状を維持する。
■進むグローバル化で米西海岸が窮地に
ILMはこれまでにも、カナダのバンクーバーにプロジェクト・ベースのサテライト・スタジオを、そしてシンガポールにもスタジオを構えており、これらの国の税優遇制度の恩恵を受けながら運営している。
大人数のアーティストを雇用する必要がある大作映画のVFX制作においては、アメリカ国内だけで制作するよりも、税優遇制度の恩恵を得られる国で制作を行う事で、多大な税の還付金を受け取ることができる。それが結果として制作コストを下げることに繋がるが、その影響によりVFX業界でのグローバル化が進み、米西海岸のVFX業界が窮地に立たされる[http://www.inter-bee.com/ja/magazine/detail/online/1262 ]といった弊害が起こっている事もまた事実だ。
■英国との繋がりが深いスター・ウォーズ・シリーズ
しかし、なぜバンクーバーではなく、イギリスなのだろうか? バンクーバーは非常にアグレッシブな税優遇制作を提供していることで知られており、多くのVFX会社がバンクーバーにスタジオを構えている。筆者が現地の業界関係者に取材した情報では、ILMは現時点ではバンクーバーのスタジオを拡張する予定はなく、あくまでもプロジェクト毎のニーズにあわせたサテライト・スタジオ、という位置づけを貫いているらしい。
そういえば、過去のスター・ウォーズ・シリーズは、ほぼ全作品がイギリスのスタジオで一部ないしは多くが撮影されており、しかもサントラはロンドン交響楽団が演奏するなど、イギリスとの繋がりが深い。その流れからすると、新作のVFXをイギリスで制作するのは、決して不自然ではないということだろう。
新作「エピソード7」の公開時期が2015年とほぼ定まっているため、ロンドン進出可否が決断される時期はそう遠くないと見られている。実際、ILMの人材リクルート・サイトでは、応募者が勤務を希望する地域メニューのリストに既に「イギリス」が入っており、ロンドン進出の可能性は極めて高いと言える。
ディズニーによるルーカス・フィルムの買収後、ゲーム部門ルーカス・アーツの閉鎖、そして手描きの2Dアニメーション部門ではベテラン・アニメーターたちの解雇など、ディズニーはビジネス面で大なたを振るう。ILMの今後の動向から、ますます目が離せない今日この頃である。
ルーカスフィルムに飾られたヨーダ像