【インタビュー】「4K映像 衛星伝送実験のポイントと今後の課題」 スカパーJSAT マーケティング本部サービス開発担当主任 今井豊氏に聞く

2013.4.1 UP

FC東京対柏レイソルの4K伝送実験
スカパーJSAT 今井氏

スカパーJSAT 今井氏

 スカパーJSAT(東京都港区)は9日、東京・台場のお台場シネマメディアージュを上映会場に、同社2回目の4K映像を衛星伝送する実験を実施した。サッカーJリーグ「FC東京対柏レイソル」の試合をライブ中継したものだ。実験を統括したスカパーJSAT 有料多チャンネル事業部門マーケティング本部プラットフォームサービス部サービス開発チームサービス開発担当主幹の今井豊氏に、今回の実験のポイントや確認できた技術課題、今後の展開などについて聞いた。(映像新聞社 信井文寿)

■「大スクリーンでの4Kの見せ方を工夫」
Q. 昨年10月の伝送実験(Jリーグのベガルタ仙台対浦和レッズ戦)と今回の違いは。
 「前回は、60pの4Kコンテンツがほとんどない中、4Kによるサッカー中継が本当に期待できるものなのかを確認したいというのがわれわれの思いだった。前回は4Kの解像感を最大に出すため、ズームや絞り、カメラの動かし方などを細かく指示し、番組仕立てでどのようになるのか、全スタッフが体験しようと本番に挑んだ」
 「今回の伝送実験では、4Kの専用機材がまだ少ない現在、できるだけ既存のHD制作機材を使い、スローやCGを含めて、実際のスポーツ中継にどれだけ近づけられるか確認することをテーマとした。そのため今回の運用は制作側に任せ、細かい指示はしていない。今回は前回より広い会場を使い、スクリーンサイズも大きくなった。制作側も一度体験しているので、今回は自由に取り組んでもらい、大スクリーンでの4Kの見せ方を工夫してもらおうと思った。

■「レンズにより解像感に大きな違い」
Q. 4Kの映像について感じたことは。
 「4Kの解像感は高いが、これはレンズによってかなり異なるということだ。いろいろなレンズを試してみて分かった。レンズはそれぞれ設計思想が異なる。レンズの選択が解像感にかなり影響するということは意外に理解されていない」
 「視聴者が4Kと聞いてまず想起するのは解像感だろう。特に普及の初期ではこれに応えることが重要で、レンズを含めてそれに合った機材を探していくことが必要になる。しかしこれは実際にテスト撮影や測定しないと分からない」
 「前回は意図的にサポーターの人数が一番たくさん映る角度を選んで最初に見せるなど、4Kの解像感を印象付ける工夫をした。今回は、より現在のHD中継に近い演出をしている」

■「課題はインタフェースの規格化」
Q. これまで取り組んできて分かった課題は。
 「一つは、準備に非常に時間がかかるということだ。これは3Dでも同じだが、4K中継をやろうとすると、そのための接続や配線をしなくてはならない」
 「4Kを1本で送れるインタフェースがまだない。これまでの実験では、4K/60pの映像をHD4枚にして、4本の3G-SDIで送った。HDでは1本で済むインタフェースの数が4、5倍となってしまう。これらを機材につなぎ同期をかけるといった作業をすると非常に時間がかかる。今回はスローのシステムを2系統準備したが、そのチェックも大変だった。4Kを進めるうえではまずインタフェースの規格化が望まれる」
 「3G-SDIも60pでしか必要ないので放送の現場ではあまり使われていない。その普及が進まないと、今後の4K推進に影響すると思う」
 「実験では衛星伝送よりカメラから中継車への3Gの伝送の方が苦労した。中継に必要なタリーやインカム、電源の送り、オンラインの戻しができる3G対応の伝送装置はまだ種類が少ないのが現状だ。今回は、テレビカメラ研究所をはじめ、カナレ電気、PFUの製品を使っている」
 「われわれもメーカーもまだ経験が足りない。今後も一緒に伝送実験をしながら、接続のインタフェースなどを探っていきたい」

■「精細感の高い4Kスローカメラ」
Q. スローカメラやCGテロップの効果はどうだったのか。
 「「FT-ONE」は360コマで撮影したが、HDと比べてかなり精細感があり、これまでとはかなり印象が違うスローを見せることができた。ボールの動き、選手の瞬時の判断が非常によく分かる。もう少し調整ができればより高い効果を出せると思う」
 「CGシステムは、前回、HDのシステムを使って4画面合成をしたが、今回は北海道日興通信(NIXUS)の「CG-STORE」にアストロデザインの4K対応ビデオカードを挿して、一つのシステムでリアルタイムの4Kテロップを実現している」

■「4Kリアルタイムに対応した機能の充実を」
Q. 総務省の検討会では2014年のサッカーW杯を4Kで放送する案が示されている。
 「現時点では、それらが今後どう進むのかは分からないが、現状では4Kで番組制作がどこまでできるかを把握しておくことが必要だ。それが分かっていれば、必要な機能、機材が判断できる。メーカーに的確な要望をしていけば、技術は進んでいく。そのためにも伝送実験は重要だと考えている」
Q. メーカーに特に望むことは。
 「SDからHDになった際、画角は変わったがセンサーサイズはあまり変わらなかった。しかし4Kになるとセンサーサイズがかなり大きくなり、ビデオのダイナミックレンジや使い方も変わる。現在の4Kカメラはシネマ用から発展しており、リアルタイムではまだ使いにくい面がある。4Kの特性に沿った調整パラメーターや合わせ込む機能を詰めていく必要がある」

スカパーJSAT 今井氏

スカパーJSAT 今井氏

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