【コラム】高画質化進むドライブレコーダー SoCの高機能化で4K30fps対応 HFRも可能に スポーツカム等へ用途拡大するアンバレラ
2013.3.12 UP
Webカム映像は競合品(右)に比べて極めて高画質で、暗幕隙間もよく写っている
ドライブカムに搭載された車線逸脱警報機能
高集積SoCにより超小型のカメラを実現できる
2月15日、ロシア南部チェリャビンスク州一帯に隕石(いんせき)が落下した。これは最も多くの動画像に収められた隕石落下の瞬間であったと思われる。その理由はロシアにおけるドライブレコーダー(通称ドライブカム)の普及の高さにある。HD画像を記録できるドライブカムにおいて、心臓部のSoC(システムLSI)で大きなシェアを占めるのが米アンバレラ社だ。International CES(以下、CES)に合わせて内覧会を開いた同社は、コアの集積を進め高機能化を図っている。
(日本大学生産工学部講師/映像新聞 論説委員 杉沼浩司)
■隕石の落下直後をとらえられたドライブレコーダー
2月15日の隕石落下は、直径10メートル程度の隕石でも猛烈な破壊力があり、上空を通過しただけで衝撃波によってかなりの破壊が起きることを明確に示した。同時に、今回の隕石は非常に多くの動画像が撮影されたことでも記憶に残るだろう。
スマートフォンで撮影した映像の多くは、上空の雲(隕石雲)に気がついてから撮影を開始したと見えて、隕石の先頭部分はとらえられていないようだ。監視カメラによる映像は、平常時と隕石の閃光(せんこう)の明るさの違い、また衝撃波による爆風の様子が連続的に撮影されており、変化を見極めるのに重要なデータを提供している。静止衛星(気象衛星)がとらえた隕石雲は、突入の経路を調べるのに役立つ。
これらの多くが隕石雲を撮影しているが、隕石をとらえた映像となると、運転中の自動車からの映像が圧倒的に多いようだ。ロシアが、ドライブレコーダー大国である故のことと思われる。
同国では、保険会社が商用車のドライブレコーダー(英語通称は「ダッシュボード(ダッシュ)カメラ」)搭載を義務付けており、装着率は非常に高い。昨年12月29日にモスクワ郊外のブヌコボ空港で旅客機がオーバーランして幹線道路に突っ込んだ際も、事故映像はドライブレコーダーからもたらされている。
このドライブレコーダーは、カメラと半導体レコーダーが一体化されたもので、一部にはGPS機能も搭載されている。正確な時刻(GPSが送る時刻情報は、原子時計に基づいている)も記録できるため、運転記録の取得に適している。
■高精細ドライブレコーダーのSoCシェア上位企業 アンバレラ CESで新製品
ドライブレコーダーは、これまでSD解像度の製品がほとんどだったが、画質の高さからHD製品が急速に伸びている。このHD型ドライブレコーダー分野では、アンバレラのSoCが大きなシェアを占める。
同社は、今年もCES会場近くで内覧会を開催しており、ここで新製品のSoCも披露された。新SoCを含めたアンバレラの展示を報告する。
アンバレラは、MPEG2、MPEG4 AVC/H.264用のコーデック(符号化復号)用LSIで知られてきた。最近は、単なるカムコーダー用コーデックではなく、他の処理もできるシステムLSIを多方面に出荷している。目立った分野の1つがスポーツカムであり、もう1つがドライブレコーダーだ。
ドライブレコーダーでは、車内車外2カメラからの映像を同時録画するものと高機能品を展示した。高機能品は、画像認識による車線逸脱警報機能や衝突(追突)警報機能をデモしていた。
車線逸脱警報は、これまでも種々の試みがなされているが、画像認識機能に最適化したメディアプロセッサーの利用がプロセッサー開発事業者から提案されていた。しかし、今回のデモに使われたA7L-Aプロセッサーは、700MHzのARMコアを用いているのみである。従来考えていたよりも、大幅に軽いハードウエアで車線逸脱警報機能が実装可能のようだ。
説明員によると、標識認識機能も実装できるとのことである。最近は、高級車の一部に道路脇の標識を認識して、速度計周辺に表示する機能を持ったものがあるが、これを低価格に実現できそうだ。
なお、車線逸脱警報、衝突警報などの機能は、A7L-Aプロセッサーの開発キットに標準で装備されており、同プロセッサーを採用した事業者は容易に利用できるという。
■SoC内で符号化処理 HD対応で自然な映像表現
スカイプ等のインターネット電話に使うウェブカメラ(ウェブカム)のHD化も進んでいる。また、ウェブカムは利用環境の照度、光源に大きなばらつきがあり、明るさ、色合いに関する高い追随能力が求められる。
今回は、アンバレラ製SoCを内蔵したウェブカムと他社製のものが比較展示されていた。アンバレラ製はHD対応である。いずれもSoC内で符号化(圧縮)処理しているが、同社のものがブロックひずみや色のにじみを生ずることなく自然な映像を実現していたのに対して、比較用に置かれていたものではひずみが目立った。背後のカーテンのヒダはつぶれ、画面全体にカラーノイズが浮いていた。
ホワイトバランス能力の違いも大きく、アンバレラ製のSoCを内蔵したカメラでは視感に適合した色合いを見せていた。ダイナミックレンジも広く、黒いカーテンのすき間に見える背景は、明部もしっかりと映し出されている。比較用の製品では、白つぶれが起きており、アンバレラのSoCが内蔵するWDR(ワイド・ダイナミックレンジ)機能が優秀であることが見て取れた。
■3コア内蔵の新型 H.264で4K 30fpsに対応 1080pで120fpsも可能
今回のCESに合わせて発表された「A9 4KウルトラHD カメラSoC」は、4Kで30フレーム/秒に対応する超高性能機である。従来の最高能力の製品は、4Kで15フレーム/秒だった。4K/30pにおいて、AVC/H.264相当のエンコードができる。
1080pの場合は、120フレーム/秒、720pの場合は、240フレーム/秒まで可能であり、HFR動画の取得もできる。プロファイルは、ベースライン、メイン、ハイの3プロファイルに対応しているため、幅広い分野への応用が可能だ。
A9には、ARM社のコルテックスA9コア2つとARM11コアの計3コアが搭載されており、アプリケーションの高機能化を支えている。このSoCに実装されたコルテックスA9は、FPU(浮動小数点数演算)とNEON(ARM社のマルチメディア拡張命令)に対応したハードウエアを搭載しており、単なるコルテックスA9よりも能力が高い。
前出の車線逸脱警報以外にも、例えば顔検出・顔認識や、転倒検出、残置物検出といった高度な機能を複数実装し、同時に利用することができるだろう。
アンバレラ社のSoCは、当初はカムコーダーへの利用が中心だったが、その後デジタルスチルカメラ(DSC)に利用され、最近ではスポーツカム、ドライブカム、監視カメラといった幅広い用途に用いられている。
カムコーダーとDSCは市場が伸び悩んでいるが、スポーツカムなどは大きく伸びている。そして単なる撮影ではなく、高度な付加機能が要求され始めている。
新時代の画像取得の需要に応える高機能SoCは、今後も伸びが続くと見られる。
Webカム映像は競合品(右)に比べて極めて高画質で、暗幕隙間もよく写っている
ドライブカムに搭載された車線逸脱警報機能
高集積SoCにより超小型のカメラを実現できる