【ニュース】産総研 動く物体の形状を高速・高精度で計測する手法を開発 秒2000コマ撮影、顕微鏡による微細構造の計測も可能に
2012.8.30 UP
写真2 上段:入力画像/下段:形状計測結果
写真3水面の波の計測
写真4 ボールヒッティングの計測
写真5 顕微鏡画像を使った米国1セント硬貨形状計測
■鹿児島大学、広島市立大学と共同開発
独立行政法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、鹿児島大学などと共同で、運動・変形する物体表面の形状を高速・高精度・高密度に計測する手法を開発した。
格子状のパターン光をモデルに投影し、その状態をカメラで撮影することで、モデルの3次元形状を計測するもの。高速度カメラを使うことで、速く運動・変形する物体も計測可能という。運動する人体の測定が可能になることで、運動解析や衣料への応用、衣服のモデリング、衝突実験による材料・構造物の解析などで利用可能だ。
共同実験を行ったのは、産総研 知能システム研究部門 サービスロボティクス研究グループ の佐川立昌研究員と、鹿児島大学 大学院理工学研究科(工学系) 情報生体システム工学専攻の川崎洋教授、そして、広島市立大学大学院情報科学研究科知能工学専攻の古川 亮 准教授、同青木広宙特任准教授の4名。
同技術は、2012年8月6日~8日に福岡で開催される第15回画像の認識・理解シンポジウム(MIRU)および2012年8月28日~9月1日に米国サンディエゴで開催されるThe 34th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC2012)で発表された。
■パターン光を投影することで立体形状を把握
画像処理によって物体(モデル)の表面に投影されたパターン光による波線を検出し、線がどのようにつながっているかを示す交点グラフを作成する。各交点は、投影したパターンと撮影した カメラ画像で1対1に対応するので、交点の3次元位置が計測できるというしくみ。画像のすべての画素について交点を補間し、計算した形状が画像と一致するように最適化すれば、高密度な形状を生成することができる。
今回発表された技術の大きな特徴は、画像処理と高速度カメラを組み合わせることで、1秒あたりに取得できるデータの数が飛躍的に増えたこと。また、格子状のパターンを用いることでデータの精度や密度を高めることができるようになった点にある。顕微鏡を用いた微細構造の立体形状の検出も可能になるなど、これにより、用途が格段に広がると期待されている。
■服装のしわから、水面の形状変化、バットにボールが衝突する形状変化も測定可能
産総研、鹿児島大学、広島市立大学では、これまで形状計測技術をマルチメディア、医療、材料解析、サービスロボット、ロボット安全技術などのさまざまな分野に応用することを目指した研究を進めており、その一環としてパターン光投影に基づいた形状計測技術の開発に取り組んできたという。
この研究開発の一部は、総務省戦略的情報通信研究開発制度ICTイノベーション創出型研究開発「4次元メディアシステムの研究開発 (平成22~24年度)」および、内閣府 最先端・次世代研究開発支援プログラム「人体の内外表面形状すべてをリアルタイム計測するシステム~表情筋の動き計測から腸内壁の形状取得まで~(平成22~25年度)」の支援を受けて行った。
写真3は、水面にパターン投影できるようにした水槽の中で波を起こし、その形状変化を計測したもの。250コマ/秒で撮影することで、複雑に 変化する波の形状を捉えられる。写真4は、バットでボールを打った瞬間のボールの形状変化を2000コマ/秒の高速度で撮影して計測した結果。ボールが バットに接している時間は非常に短いが、ボールが潰れている様子がよくわかる。
また、衣服のしわや、手の細かな 形状も計測できる。従来のモーションキャプチャシステムでは数十点の位置を計測するのに対して、この技術では、数万点の位置を高密度に計測し、しわの動きのデータも取得できる。また、市販ゲームに用いられているあるセンサーでは、1~2 cmの誤差があるのに対し、この技術では1~2 mmの誤差と高精度で計測できる。
今後は計算機の性能を向上させ、撮影しながら形状を得るリアルタイム計測をめざしているという。
「高速・精密な形状計測をリアル タイムに行うことが可能となれば、現在多くの企業が開発に取り組んでいる、ナチュラルインターフェースにブレークスルーをもたらす技術となる」という。
■顕微鏡で微細構造の立体形状も計測
新たな可能性として、前述のように顕微鏡を使った微細な構造の立体形状の計測の実現による応用も期待されている。立体視できる顕微鏡を使って極小領域にパターン光を投影し、顕微鏡画像から形状を計測。写真5の実験では、パターンは約0.05 mm間隔で投影されており、米国1セント硬貨に描かれた横顔の凹凸が1枚の画像から計測できることを証明している。このほか、医療分野への応用として、非接触心拍計測と呼ぶ、非接触で拍動情報を計測する方法が検討されている。これにより、 従来の心電図計による心拍計測での被験者への負担・拘束感や電極が不意に外れるといった問題が解決される。
(画像提供 (独)産業技術総合研究所)
写真2 上段:入力画像/下段:形状計測結果
写真3水面の波の計測
写真4 ボールヒッティングの計測
写真5 顕微鏡画像を使った米国1セント硬貨形状計測