【Inter BEE 2018】INTER BEE IGNITION セッション「ミレニアルズ マスなき分散時代のメディア」テレビマンにとっての新たなビジネス構築のヒントが満載
2018.11.6 UP
土屋氏「このさき、スマホネイティブがあたりまえになったとき、どういう基準になるのか。送り出す側としていっしょに考えたい」
森氏「放送局とともに潤沢な制作費でコンテンツをつくれるのは、クリエイターやネットの関係者にとっても大きなメリット」
「最近は海外からも反響がある。ネットメディアはグローバルなつながりを感じる。ミレニアルズという共通感覚がある」
長谷川氏「嗜好や価値観が分散化した時代の中で、マスっていう概念はどうなるんだろうか。そのときのテレビの役割を議論したい」
今、放送局が持つ番組制作の経験値や高度な広告ビジネスのしくみとは別の領域で、映像コンテンツのマーケットが急激に成長しており、若者を中心にメディアとして定着している。物心ついたときからスマホがあった「スマホネイティブ世代」にとって、YouTubeなどのネット映像メディアは、テレビよりも身近な存在という。このセッションは、そんな状況の中で「もはやマスメディアと呼べる媒体はなくなりつつある」という仮定を掲げ、テレビやネットメディアの関係者が登壇し、これからのメディアのあり方、コンテンツビジネスの進むべき方向について予測しようという試みだ。
■土屋氏「テクノロジーが新しくなれば、コンテンツが変わる」
さきごろ、某会議室で行われた登壇者の前打合せでは、すでにセッションの本番と思われるほど、中身の濃い話が交わされていた。
登壇者の一人、日本テレビ放送網株式会社 日テレラボ シニア・クリエイターの土屋敏男氏は、パネリストの中で唯一、テレビ側の立場からの参加となる。リアリティTVの嚆矢ともいえる「電波少年」や「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」などを手掛け、数々の高視聴率番組を手掛けてきたが、テレビ画面にも有名人として露出する機会も多い。土屋氏は、「ネットメディアの拡大で映像のコンテンツ自体は爆発的に増えており、人々の限られた可処分時間の取り合いはますます激しくなってくると感じる。視聴者、国民全体をマスと言ってくくれる状況ではなくなってきており、番組の作り手もそこを見直す必要がある」と危機感を隠さない。
「電波少年」では、新人タレントの猿岩石にハンディビデオカメラを持たせ、ディレクターと3人でヒッチハイク・ロケを敢行。「テクノロジーが新しくなれば、コンテンツが変わるというのが基本スタンス」で、日本初のテレビ局主導のインターネット動画配信サービス「第2日本テレビ」を立ち上げ、現在は「1964東京VR」などのVRコンテンツを精力的に開発するなど、最先端のメディアを手掛けている。
「テレビは昔、いろいろなことの基準だった。テレビで紹介されたということが、ちゃんとしている。テレビでCMをやっていることがちゃんとしている。その基準がなくなりつつあるときに、それがなくなったときにどうなのか、と考える。このさき、スマホネイティブがあたりまえになったとき、どういう基準になるのか。送り出す側としてそれをいっしょに考えてみたい。逆に、ネットの中では、もっと面白いことができるはずなのに、なんでできないんだろうと思うこともある。ネットはみんな、ものすごく直接的にビジネスのことを考えすぎているのではないか」(土屋氏)
■森氏「クリエイティブなYouTuberが長期にわたって人気を保持」
「スマホネイティブ世代」と呼ばれる若年層を対象にしたマーケティング会社VAZは、YouTuberやTikTokkerを所属タレントとして抱え、人気のあるインフルエンサーへと育成している。インフルエンサーのフォロワー数では、日本で一、二を争う。上位のインフルエンサーでは、200万以上のフォロワーを抱える。
VAZ 代表取締役社長の森泰輝氏は「テレビ番組はネットと比べると、比較的潤沢な制作費の中で、コンテンツを作れる環境にある。YouTuberは、再生数、フォロワー数が収益に直結する中でコンテンツを作るのと違いがある」とテレビとネットのコンテンツ制作の環境の違いを指摘する。
そうした中、本人のタレント性とともに、自ら番組のスタイルを開発しているYouTuberが、長きにわたり人気を得ているという。「意外と思われるかもしれませんが、人気のYoutuberは、"芸歴"が長く、何年もトップの座を守っていて、いわゆる"一発屋"というようなブームとは違う支持をされています。『ヒカキン』や『ヒカル』などは、 自ら番組のスタイルを開発しているクリエイターでもあり、そこが高い支持を得ている要因の一つだと思います」(森氏)
最近では、広告代理店が手掛け、テレビドラマのノウハウを取り入れたコンテンツも登場しているという。「ナショナルスポンサーから予算を得て、TVCM並みの制作費でドラマをつくり、フォロワー数を一気に増やそうという試みもあり、そうした作品の演者としてYoutuberが起用されることもあります。潤沢な制作費でコンテンツをつくれるのは、クリエイターやネットの関係者にとっても大きなメリット」と森氏は話す。
■石井氏「国境を越えたミレニアルズ同士の共通意識」
自身がミレニアル世代で、インスタグラムとYouTubeを軸に動画コンテンツを発信する女性向けメディア「BLAST」を立ち上げ、編集長として活躍する石井リナ氏。BLASTは、日本の女性を応援、開放することをミッションとしており、テキストメディアを持たずに、インスタグラムだけで運用しているのが特徴だ。今年3月に立ち上げてまだ半年ぐらいだが、もともとインスタグラムのマーケティングの書籍を書いていることもあり、SNSを通してミレニアムを見ることが多いという。
「キャリア、恋愛、結婚、家族、あるいは性やセックスの価値観も多様化している。選択的シングルマザーとか、精子バンクを使ってどうやって妊娠するかといったテーマも取り上げる。感度が高くて柔軟な考えの人たちが各自でインスタグラムに動画コンテンツをつくったり、インタビューをつくっている。日本の女性たちがいろいろなチョイスをできるようにと考えているが、最近では海外からも反響がある。ネットメディアだと、そういうグローバルなつながりを感じる。ミレニアルズという共通感覚もあり、逆に、文化の違いを素直におもしろがる意識も感じる」という。
■ネットとの交流でWinWinの関係を
本セッションを企画した、モメンタム・ホースの長谷川リョー氏は、企画の背景を次のように話す。
「人類の2000年の歴史の中で、全員が同じメディアを見ていたのは、この50年ほどぐらいなのかもしれない。今は、例えば学校でみんながYouTuberの話をしていても、それはマスではなく、超巨大なコミュニティでしかない。ニッチなコミュニティがインターネット上にたくさんできて、それぞれみんな自分が支持するメディアに可処分時間を投下している。嗜好や価値観が分散化した時代の中で、マスっていう概念はどうなるんだろうか。そのときのテレビの役割を議論したい」(長谷川氏)
長谷川氏は「テレビとSNSが対抗するものではなく、互いを補完することでWinWinの関係ができ、両者にメリットが生まれるはず」と話す。「インフルエンサーを使って何ができるのか、テレビとの連動でどう使えるかといった新たな方向もすでに始まっており、テレビ関係者が仕事に生かせるセッションになるはず」(長谷川氏)
【概要】
タイトル:ミレニアルズ ~マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー
会場:展示ホール6 INTER BEE IGNITION内オープンステージ
開催日時:11月14日(水) 13:00~14:30
登壇者:
○モデレーター
長谷川 リョー 氏(株式会社モメンタム・ホース 代表取締役)
○パネリスト
土屋 敏男 氏(日本テレビ放送網株式会社 日テレラボ シニア・クリエイター)
森 泰輝 氏(株式会社VAZ 代表取締役社長)
石井 リナ 氏(株式会社BLAST 代表取締役社長)
土屋氏「このさき、スマホネイティブがあたりまえになったとき、どういう基準になるのか。送り出す側としていっしょに考えたい」
森氏「放送局とともに潤沢な制作費でコンテンツをつくれるのは、クリエイターやネットの関係者にとっても大きなメリット」
「最近は海外からも反響がある。ネットメディアはグローバルなつながりを感じる。ミレニアルズという共通感覚がある」
長谷川氏「嗜好や価値観が分散化した時代の中で、マスっていう概念はどうなるんだろうか。そのときのテレビの役割を議論したい」