【プロダクション】東映 デジタルセンター ドルビーの新シネマ音響システム「ドルビーアトモス」を導入 「正確で忠実な音づくり」を追究 高品質化・多様化が進む次世代メディアの音響制作に対応
2013.11.25 UP
東宝 デジタルセンターのダビングステージ1「Dub1」
スクリーンから見たところ
室薗氏
マシン室ラック
東映は、東京撮影所(練馬区東大泉)内にダビングステージ2室を開設。先に完成したダビングステージ1「Dub1」(上写真)の営業を10月から開始した。運営はポストプロダクション部門であるデジタルセンター。同室は、ドルビーの新しいシネマ音響システム「ドルビーアトモス」(Dolby Atmos)を採用することで、映画の次世代音響制作環境に対応。さらに機材や施工の工夫で、コンセプトである『正確で忠実な音づくり』の可能な環境を実現した。
■世界70作品で採用 国内ではTOHOシネマズ、イオンシネマが導入
劇場用作品を対象に、横7.3メートル×縦3.2メートルのスクリーンを備える大型ステージDub1は、日本の制作スタジオとして初めて「ドルビーアトモス」を採用した。
アトモスは、12年公開の映画『メリダとおそろしの森』、『ホビット 思いがけない冒険』に続き、全世界の約70作品で採用が発表。北米をはじめ世界で約200スクリーン、約40のダビングステージが導入している(9月時点)。日本ではTOHOシネマズおよびイオンシネマが年内に導入することを発表している。
■サラウンド+オーバーヘッドで3次元の音響・音像を構築
スピーカーにサラウンドのほかオーバーヘッドを使うのが特徴で、オブジェクトと呼ばれる独立した要素をチャンネル素材に重ね、映像に連動するように配置や動きを設計。これにより三次元の音響をしっかりした音像で制作できる。5.1ch、7.1chへのダウンミックスも滑らかな音で、しかも自動で可能だ。
■「映像だけでなく、音も進化」
次世代規格としてアトモスの採用を決めたことについて、ポスプロ事業部の室薗剛課長は「4Kやハイフレームレートなど進化を遂げている映像だけでなく、音声も進化する必要があると考えた」と話す。「アトモスではオブジェクトの概念の導入により、自然なパンニングが可能なうえ低音の響きが向上することで、より自然でリアルな音場を再現。従来の音響システムをいい意味で覆すことが可能だ」という。
■アトモス対応のAVID System 5 Hybrid、ProTools|HDX2を採用
コンソールにはAVID「System 5 Hybrid」(72フェーダー)、DAWに「Pro Tools|HDX2」5式を使用する。ともにアトモスに対応した機材で、オブジェクトはProToolsのパンナープラグインで制御する。
さらに、多様な音響環境を持つシネコンが主流になると同時に、新しいメディアも増加する時代の状況を見据え、「基本になる音をしっかり作る」(ポスプロ事業部・志田直之部長)ことを目指した。コンセプトは「正確で忠実な音づくり」。収録素材や音楽などオリジナルの音を損なわずにモニターでき、それをさらに音声トラックとして完成できるよう設計した。
これを実現するため、施工時にミキサーがコンソール卓に向かって座りながらスピーカー位置や傾きを決定。リスニングポイントの設定に気を配った。投映画面の距離や角度も調整し、フラットで自然かつスケール感をもって設置できたという。必要以上に首を上げなくてすむため、長時間にわたる作業が楽になる。
スクリーンは日本初導入となるスクリーンエクセレンス社製。ハリウッドのダビングステージ「スカイウォーカー・ランチ」でも採用されており、1枚布の織物のため音の透過性が良い。
スピーカーはリア、サラウンドを含め同じカスタム製品で統一したことから、すべての音色が同じでつながりの良い環境が実現。「解像度が高く、繊細だが輪郭があってパワフルな音」(室薗氏)を作ることが可能になった。
■吸音と拡散のバランスを考慮した室内音響設計
東映の新ダビングステージ「Dub1」の室内は、正確な音のモニターと自然な音の響きを保つため吸音と拡散のバランスを考慮し、SONA社オリジナルQRD型とMLS型を組み合わせたハイブリッド・ディフューザーやスリットを活用。スリットとスリットの間にスピーカーを配置することで位相の干渉を防ぐ。デッドになりすぎないことで耳への負担が減り、居住性も高まった。
スピーカーはカスタム製で、スクリーンスピーカー(3ウェイ)3式、サブウーハー4式、サラウンド(2ウェイ)16式、シーリング(2ウェイ)16式を設置した。パワーアンプはLCRとサブウーハー用がブライストン、サラウンドおよびシーリング用がラブ・グルッペン製とした。プロジェクターはクリスティ・デジタル・システムズ「CP2220」。
また、ProToolsおよび、ワーク映像のビデオサテライト(メディアコンポーザーナイトリスDX)と組み合わせるKVMはドイツIHSE社製を採用した。独自プロトコルにより素早く切り替えられ、2式並べたディスプレーに異なる端末の画面を出し、一つのマウスで操作する「マルチスクリーンコントロール」も可能。これにより台詞や音楽、効果音、映像、どのマシンの画面もボタン一つで即座に切り替えて見ることができる。
UPSは200/115/100ボルトを用意し、各機器に最適な電圧を供給している。将来の拡張に備え光ファイバー回線も用意した。
■12月にはDub2が稼働 映画・テレビ3作品体制へ スケジュール変更に柔軟に対応
施工が進むダビングステージ2「Dub2」は12月にオープンする。
横約4.2メートルのスクリーンを設置し、劇場用に加えテレビなどの作品のミックスに対応する。これにより、デジタルセンター内の既存のMA室と合わせると、映画とテレビ用それぞれ最大3作品作業できる。
これには、スタジオでの作業量および作品の種類が増加したことが背景にある。
志田氏は「スタジオ作業が増加しているが1ラインではスケジュールの変更に対応しづらく、制作環境に余裕を持たせたかった。また、劇場以外にもテレビやウェブ動画、あるいはVPなどテレビモニターサイズで作業する作品が増加。中間サイズのDub2を用意することでこれに対応する」と話している。
機材は旧ステージからの移設で、コンソールはNEVEのDFC(56フェーダー)でDAWはプロツールス、ビデオはメディアコンポーザーMOJO DX。パワーアンプはブライストン。
東宝 デジタルセンターのダビングステージ1「Dub1」
スクリーンから見たところ
室薗氏
マシン室ラック