【ニュース】25年の歴史を誇る著名VFXスタジオ Matte World Digitalが閉鎖へ VFX業界にもグローバル化の波
2012.8.30 UP
■「スター・ウォーズ」などを手掛けたILM出身者が設立
四半世紀もの間、ハリウッドのVFX業界に貢献し続けて来た、サンフランシスコにあるMatte World Digital (以降、MWD)が、8月8日にメイン・コンピューター・サーバーの火を落とし、同社の歴史に幕を降ろした。
MWDは、カリフォルニア州マリン郡を拠点とした小規模のVFXスタジオで、1988年にVFXスーパーバイザーのクレッグ・バロン、マットペインターのマイケル・パングラジオ、そしてエフェクト・プロデューサーのカブス・デムコウィッツらによって、元々はMatte Worldという社で設立された。
バロンとパングラジオの両氏はILM出身で、ILMの黄金期に『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』 『レイダース/失われたアーク』『E.T.』等の作品を一緒に手掛けた間柄だという。
■強みは緻密なマット・ペインティング。デジタル化への移行も成功
設立時から、MWDのウリは何と言っても緻密なマット・ペインティングだった。当初は、数メールあるガラス板のキャンバスにマット・ペインティングを描き、それをカメラで撮影し、オプチカル・プリンターで光学合成するSFXであった。
90年代に入り、ハリウッドの特撮業界にデジタル革命が起こる。カメラで撮影する"特撮"から、コンピューター上で処理したデジタル画像をフィルムに焼き付けるという手法に取って変わった。旧来のSFXが、VFXという言葉に置き換わったのも、この頃からである。
この革命に乗り遅れた特撮スタジオは淘汰された。そんな試練の時期を乗り越え、MWDはデジタル化を進め、行き残りに成功。1992年には社名をMatte WorldからMatte World Digitalに変更した。
その後、ハリウッド映画の大作や話題作のエンドクレジットでは、MWDの社名を頻繁に目にするようになり、しばらくは安定した経営が続いた。
実際、MWDが過去25年間に手掛けた作品は膨大な本数に上る。その軌跡は、MWDのホームページで見る事ができる。
■グローバル化の波で価格競争が激化。技術の維持に多大な苦労
ここに、2006年頃からジワジワと始まったグローバル化の波が押し寄せてきた。映画スタジオは魅力的な税制優遇策の恩恵が得られる海外へとVFXを発注する事がトレンドとなり、アメリカ国内のVFXスタジオでは、それに対抗すべく価格競争が激化した。
SFX時代は、ガラス板と絵の具があれば作業ができた。しかしデジタル化によってテクノロジーの維持費とR&Dの費用がうなぎ上りとなり、価格競争は小規模VFXスタジオの経営を圧迫し始めるようになる。
過去数年間、サンフランシスコのThe Orphanageや、サンタモニカのAsylum VFXが、グローバル化による価格競争と不況の影響を受け、閉鎖に追い込まれたのは記憶に新しい。
MWDはシーグラフ2012が開催中の8月8日、25年間の歴史に静かに幕を降ろした。同社のオフィシャルサイト[http://www.matteworld.com/]は、マット・ペインティングがガラス・キャンバス世代からデジタル世代へと受け継がれた歴史を伝えるべく、「Matte World Digitalアーカイブ」として継続されるという。
MWDの閉鎖とほぼ同時に、「プロメテウス」等を手掛けたオーストラリアのVFXスタジオ、FUEL VFXが閉鎖されたというニュースも飛び込んで来ており、ハリウッドのVFX業界はショックを受けている。
(鍋 潤太郎)