【マイクロソフト リサーチ アジア インタビュー 後編】4 SIGGRAPH2012における活躍

2012.10.30 UP

図A (c)ACM
図B (c)ACM

図B (c)ACM

図C (c)ACM

図C (c)ACM

図D (c)ACM

図D (c)ACM

図E (c)ACM

図E (c)ACM

(前号より続く)
 SIGGRAPHの”顔“ともなりつつあるMSRAグラフィックス・グループは、SIGGRAPH2012においても大いなる活躍を果たした。今年のSIGGRAPHの論文セッションは、いずれのカテゴリーも非常にユニークな発想の技法で賑わっていたが、特にレイを活用した技法の数々にはそのような特徴が顕著だったといえ、MSRAグラフィックス・グループを率いるXin Tong氏はその代表格ともいえる論文セッションのオーガナイザーを務めた。(倉地紀子)

■虹や光の解析をシミュレーション
 「Physics & Mathematics for Light」と題したこの論文セッションでは、光の“波”としての物理特性をレイベースで置き換える技法が複数発表された。具体的には“虹”や“光の回折”をシミュレートする技法で、いずれも過去の技法の改善版というよりも、過去の技法とは異なった新たな視点に立ってユニークなアプローチを提示しているだけに、今回の手法に止まらない潜在性を感じさせるものとなっていた。
 また、同じ論文セッションでは、MSRAグラフィックス・グループも深く関わってきたBTFやPRTのような技法を、本格的なリアルタイム化に向けて効率化するための鍵となる非常に基礎的な新理論も発表された。こういった新理論は従来CGの分野で一般的であった理論よりも一つ敷居の高い数学的アプローチを導入している点が大きな特徴で、それだけにこれらも将来的に大きな潜在性を保持したものとして高く評価されていたようだ。

■Diffusion Curveの計算処理を大幅に効率化
 もちろん、毎年のことながら、MSRAグラフィックス・グループも非常に画期的な技法を複数論文発表している。一つ目は同グループのお家芸ともいえる技法で、Diffusion Curve Textureとよばれるものを活用したレンダリング技法だ。Diffusion Curveそのものは2006年にフランスのINRIAから発表されたベクター・ベースでスムーズ・シェーディングをおこなうための新たな形のプリミティブだが、MSRAグラフィックス・グループは今回これをグリーン関数ベースで定義し直すことによって、その操作性やレンダリング効率を大幅に高めることに成功した。
 大きな潜在性を期待されながらも実用面からは今一歩という感のあったDiffusion Curve というものを、GPU上のリアルタイム・レンダリングにおける応用まで含めて本格的な実用段階にまで押し進めたことの意義は大きかったといえよう。
 2つ目は、一昨年あたりからSIGGRAPHでおなじみになりつつあるCGを複雑な質感の物体表面に印刷する技法で、今回MSRAグラフィックス・グループがチャレンジしたのはHDR画像を物体表面に印刷することだった(文献12)。単純に入力HDR画像をそのまま物体表面にあてがうだけではなく、視点方向やライティングの情報をユーザーが与えることによって、入力HDR画像のエクスポージャーを自在に変化させた印刷結果をつくりだすことができる。どのような印刷デバイスにも対応できる汎用性の高さも大きな特徴だ。こちらはMSRAグラフィックス・グループの研究開発の新たな方向性を示唆する手法ともいえそうだ。

■髪型を異なるポーズに再トレース
 MSRAグラフィックス・グループは一昨年・昨年と髪の毛のレンダリングに関する興味深い手法を発表してきたが、3つ目はこの髪の毛に関するもので、今年発表されたのはイメージ・ベースドのヘア・モデリングの手法だ。イメージ・ベースドのヘア・モデリングとしてはその精度に応じてすでにさまざまな技法が考案されてきているが、今回目指されたのは撮影ポートレートの髪型をCGプロフェッショナルではないユーザーが自在にモディファイできるようにすること(文献13)。一枚の撮影画像に対して最低限の処理を加えるだけでユーザーがもとめている髪の毛の見え方を瞬時にできるだけ高い精度でつくりだすことが最終的なゴールとなった。一枚の撮影画像のみが入力データーとなっているものの、最新技術を駆使して毛の向きの復元やその向きに沿った毛のトレースをおこなっており、これらの処置を通して毛の3D情報を復元している。それゆえに、復元されたヘア・モデルを撮影画像とは違った顔やポーズの顔に割り当てることも可能となっている。
 CGユーザーの裾野の広がりは新たなCGトレンドやCGに対する新たな要望を次々に生みつつあり、今回MSRAグラフィックス・グループが発表した上記3つの手法はそのような背景を反映させたものともいえそうだ。理論・実用両面における同グループのさらなる活躍が期待される。

文献10)Diffusion Curve Textures for Resolution Independent Texture Mapping
(Xin Sun, Guofu Xie, Yue Dong, Stephen Lin, Weiwei Xu, Wencheng Wang, Xin Tong, Baining Guo)
文献11) Printing Spatially-Varying Reflectance for Reproducing HDR Images
(Yue Dong, Xin Tong, Fabio Pellacini, Baining Guo)
文献12) Single-View Hair Modeling for Portrait Manipulation
(Menglei Chai, Lvdi Wang, Yanlin Weng, Yizhou Yu, Baining Guo, Kun Zhou)

(写真説明)
(図A)
Diffusion Curveとは、2006年SIGGRAPHでフランスのINRIAによって論文発表されたベクター・ベースでスムーズ・シェーディングをおこなうための新たなプリミティブ。カーブの両サイドで定義された色を、カーブに沿ってちょうど光のディフュージョンに似たメカニズムで混ぜ合わせることによって、滑らかなシェーディングをおこなう。画像解像度に依存しない非常にシンプルな原理ながらも、上記の色のディフュージョンを計算するためには画像全体に渡ってポワッソン方程式を解く必要があり、特定の地点やピクセルに対するランダム・アクセスが不可能であることが実用面からは最大の難点とされていた。今回MSRAグラフィックス・グループは、上記のディフュージョンの計算工程をグリーン関数(Green function)ベースノアリゴリズムで書き換えることによってランダム・アクセスを可能にし、操作性や効率面で大きな向上を図った。

(図B、C、D)
一昨年あたりから複雑な反射特性の物体表面にCGを印刷するという技法がSIGGRAPHでもおなじみになりつつあるが、今回MSRAグラフィックス・グループはHDR画像の印刷にチャレンジ。図(a)のようにHDR画像を入力データ-とし、図(b)のようにユーザーがこのHDR画像の物体表面上での照明条件を与えることによって(HDR画像を照らすライトの方向や光の強さを変化させる)、図(c)のように物体表面上には異なったエクスポージャーのHDR画像が印刷される。

(図E)
イメージ・ベースドのヘア・モデリングの手法年手は、その精度に応じてすでにさまざまな技法が考案されてきているが、今回MSRAグラフィックス・グループが発表したのは撮影ポートレ-トのヘアスタイルをCGプロフェッショナルではないユーザーが高い自由度と高い精度でモディファイできるようにする手法。図(a)のように一つの視点から撮影された一枚のポートレートに対してユーザーがストロークを用いて最小限の指示を与えることによって、図(b)のように髪の毛一本一本の3D情報が復元される。髪の毛一本一本の3D情報が復元されているため、ユーザーはこれを高い自由度と精度でエディットすることができ、図(c)や図(d)のように入力ポートレートとは違ったポーズやジオメトリーの頭部モデルに髪の毛をあてがってその見え方を(ambient occlusionなども考慮して)正確に復元することも可能だ。

(この項終わり)

図B (c)ACM

図B (c)ACM

図C (c)ACM

図C (c)ACM

図D (c)ACM

図D (c)ACM

図E (c)ACM

図E (c)ACM

#interbee2019

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