【コラム】4Kハイフレームレートに新たな提案 300Pや150PなどIBC 2013で突如わき起こったフレームレート論争

2013.10.3 UP

  
BBC R&Dは50Pと150Pで見え方がどう異なるかをデモで示していた

BBC R&Dは50Pと150Pで見え方がどう異なるかをデモで示していた

BBC R&Dは、研究機関が集まるフューチャー・ゾーンの入口にブースを構えHFRをアピール

BBC R&Dは、研究機関が集まるフューチャー・ゾーンの入口にブースを構えHFRをアピール

EBUは、BBCやNHKなどから提供された素材で240P HFRなどの映像でボケが消えることをデモした

EBUは、BBCやNHKなどから提供された素材で240P HFRなどの映像でボケが消えることをデモした

 4Kのフレームレートがきな臭い。オランダ・アムステルダムで9月12日から17日まで開催されたIBC2013では、EBU(欧州放送連合)や英BBCが、現行の50Iを遥かに超える150Pや300Pの映像を示し、撮像ボケや蓄積効果(サンプル&ホールディング)が効果的に抑圧されることを示していた。また、EBU元技術部門長代理であるデビッド・ウッド博士も講演で「4Kを含むUHDTVの唯一の問題点はフレームレートである」とするなど、新しいフレームレート導入に意欲を見せた。一方、日本では「UHDTVは最高120Pで決まり」と安心していた感があり、IBCでのデモ情報を耳にした関係者の第一声は「そんな馬鹿な」であった。ハイビジョンの際もフレームレートが長く論争の的となったが、今回もそれを繰り返すのであろうか。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■120P以外のHFRを求める動き
 4Kへ放送業界が大きく舵を切ったのが明らかになったIBC2013であるが、もう一つの大きな流れが起きていた。「120P以外のハイフレームレート(HFR)」を求める動きだ。
 EBUは、映像比較として50P、60Pといったものから、100P、240Pなどを示し、低いフレームレートにおいて何が問題かを示していた。このコーナーは、BBC、伊RAI、独IRTそしてNHKの協力が示されていることから、前記各機関が素材を提供したものと見られる。EBUの展示では、以前からBBCの研究部門が作成したHFR映像を見せていたが、今回はより広範な協力を取り付けた形である。

■BBC 展示の中心はHFR 50P、100P、150P、300P
 BBCの研究部門BBC R&Dは、研究機関の展示が集まるフューチャーゾーンで展示を行った。BBCはいくつかの展示品目があったが、最も目立つところにHFRが置かれてきた。
 展示の中心は50Pと100Pもしくは150Pの比較が中心であったが、時たま300Pの映像も現れた。撮影時、シャッターが開いている間に対象物が動くと、これはボケとなって現れる。これを強調したデモであった。
 デモでは、50Pでシャッター開角度を設定し、100Pや150Pで同じシャッター開口時間を確保した場合の映像の違いなどを見せていた。開口時間が同一で、フレームレートが上がれば、画像のボケは抑えられ、スッキリとした絵になる。カメラが固定されていて、その前を模型機関車が通るシーケンスが示されたが、50Pでは文字がボケて読めなくなるが、150Pではよく読める。撮像時のボケが抑えられた為である。
 また、50Pを保ったままシャッター開角度を小さくし、開口時間を短くした映像も示された。こうすれば、撮像時に被写体の動きによるボケは減らせられる。しかし、一方でストロボ効果やジャタリングといった不快な副作用が現れた。
 BBCのブースでは、自転車に乗った人をカメラが追うといった構図で、撮像ボケが生じやすい状況を作り、パンしたカメラが映す標識の文字がボケる様子も見せていた。
 LCDで表示した場合の動画のボケは、撮像ボケばかりでなく、網膜の蓄積効果によるものもある。これは、50Pや60P程度のフレームレートでは避けようがない現象だ。ただ、BBCは50Pと150Pの時の違いは撮像ボケが主原因として説明していた。筆者が説明を受けた限りでは、撮像ボケを動画ボケの主原因としているように聞こえた。ボケの主原因の一つが蓄積効果であることを指摘し、なぜその説明を行わないのか尋ねたところ、100Pと150Pの違いを蓄積効果が主原因として説明する、とのことであった。ただし、100Pと150Pの比較はほとんど行わなかったため、来場者がどこまでボケの原因を把握できたかは疑問である。

■「50Hz圏と60Hz圏での交換が容易な300P」
 HFRは、展示フロアだけの話題では無い。講演会でも、今後のテレビ方式の大きな問題として指摘された。今回、米SMPTEと共同で開催された「HDの先:将来の放送技術を見る」と題されたセッションでは、4K/8Kを実現するのに求められる技術が論じられた。
 ここで、EBU技術部門において部門長代理を務めたデビッド・ウッド博士は「UHDTV(ITU−Rで定めた4K/8Kの総称)は、単にピクセル数が求められるのではなく、良いピクセルが必要だ」と述べピクセル数だけが画質を決めるのではないとした。そして、4K/8Kなどを規定したITU−R 勧告2020において4KがUHD-1、8KがUHD-2とされていることを示した。同氏は、UHD-1を更に2つに分け、現行レートを取るものをUHD-1C(Cはコンベンショナルの意味)、最大120PとなるものをUHD-1Hとしてはどうかと提案した。また、UHD-1Hでは、UHD-2(8K)との前方・後方互換性を確保する、としている。
 なお、この提案には、若干の飛躍がある。同氏は、勧告2020もUHD-1Hも「最大120P」としているが、それは正確な表現ではない。勧告2020では60Pの上は120Pとしており、会場で話題になっている100Pは含まれていない。それを述べずに100Pが勧告2020にあるかのように示された理由は不明である。
 講演の最後に「解決すべき最も重要な問題は何か」として同氏は3点を挙げた。それには、「フレームレート、フレームレート、フレームレート」と記されていた。
 SMPTEのトーマス・ブラウス・メーソン氏は、UHDTVの生態系について論じ、この中でやはりフレームレートを問題とした。同氏は、SMPTEのスタディーグループが、フレームレートを検討していることを明かし、50Hz圏と60Hz圏での交換のために150Pを採用した場合は変換が難しいが、300Pであれば比較的楽に行えるとの見方を示した。

■ITUの勧告修正を迫る可能性も 「寝耳に水」の日本 放送事業者
 IBCで100P、150Pが話題となっていたことを聞いて、日本のある関係者は「そんな馬鹿な」と口走った。「ITUでの議論では、HFR化は120Pで合意したはずだ。それを今さら100Pや150Pでは、合意が崩れる」とその背景を語る。
 しかし、EBUやSMPTEは、必要ならば勧告2020の修正も辞さない考えのようだ。今回の講演会でも「勧告に新たな値を加えて修正することも考えられる」という発言が聞かれた。
 一方、一部のメーカーは120Pですら避けたい模様だ。こちらは、放送事業者にロビー活動を行い最高で60Pに抑え込もうとしているという。しかし、一度映像の違いを知ってしまった映像制作者は、60Pに抑え込まれることに反発するであろう。放送が60Pまでしか許容しないのに、制作機材は100P、120Pを可能とするならば、彼らはネットでの配信を選ぶかも知れない。
 ハイビジョンの際のフレームレート論争は放送事業者を中心としたものだった。今回は、より多くの関係者に及ぶ。大論争に発展することが予想される。その時、日本の放送事業者、業界はどうするのか。確固たるメッセージが求められている。
 (おしらせ)
 杉沼浩司のセミナー「緊急セミナー:IBC 2013に見る4K ハイフレームレートの新展開 日米欧 “ハイフレームレート戦争 勃発” か!! 」(有料)を10月9日に開催します。お申し込みは、http://peatix.com/event/20894/まで。 

BBC R&Dは50Pと150Pで見え方がどう異なるかをデモで示していた

BBC R&Dは50Pと150Pで見え方がどう異なるかをデモで示していた

BBC R&Dは、研究機関が集まるフューチャー・ゾーンの入口にブースを構えHFRをアピール

BBC R&Dは、研究機関が集まるフューチャー・ゾーンの入口にブースを構えHFRをアピール

EBUは、BBCやNHKなどから提供された素材で240P HFRなどの映像でボケが消えることをデモした

EBUは、BBCやNHKなどから提供された素材で240P HFRなどの映像でボケが消えることをデモした

#interbee2019

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