【NEWS】エリクソンが「どこでもテレビ」を提案　局側サーバーに記録し利便性向上　スマホの大幅な低価格化が利用者を爆発的に拡大　スマホ用Firefox OSも注目 MWC報告（２）

　2月に開催された「MWC2014」（主催＝英GSMA）では、エリクソン（スウェーデン）から「TV Anywhere」（TV エニーウェア）というサービス提案がなされた。居間のテレビでも、スマートフォンでも同じコンテンツを視聴できる、というものだ。これまで、何度も語られてきたサービスだが、放送事業者やPC企業のコンセプトではなく、通信機器事業者の製品として登場した、という部分が新しい。一方、視聴で最も使われると見られるスマートフォンは、「25ドルになる」という見方もMWCで披露された。携帯機器を念頭に置いた配信装置の登場、そして超低価格のスマートフォン。「どこでも視聴」は、いよいよ当たり前のものになりそうだ。（上写真：TV Anywhereにより異なるデバイスに同じコンテンツを送れる事を示している）
（映像新聞 論説委員／日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司）

■従来型より高い利便性　「番組編成フリー」型の TV視聴へ
　2月24日にMWC会場において行われたエリクソンの発表で「TV Anywhere」というサービスが示された。テレビ番組を、ケーブル局のサーバーで録画し、指定の機器に再生画像を送ることができるものだ。構想としては、何年も前からあり、一部は実現されている。それでも、大きく異なる部分として、通信機器事業者が装置（システム）を提供することと、局側のサーバーで録画することが挙げられる。
　視聴者は、宅内での受像機器の移動（居間のテレビから、寝室のテレビへ受像機を変更）はもちろん、受像機の持ち出しもスマートフォンを使うことで可能になった。現在放送中のコンテンツに対してばかりではなく、録画コンテンツも同様に扱われる。
　利便性の大きさは明らかだ。視聴者は番組表に縛られる必要が全くなくなる。もちろん、放送側は、放送時刻ごとのコンテンツ価値などに大幅な見直しが必要となるが、より長い時間、視聴者を何らかのスクリーンの前に固定できることになり、コンテンツ価値の向上が狙える。
　現在は、コンテンツによって、ソースを視聴者が選ばなければならない。生（ライブ）コンテンツは電波またはケーブル、タイムシフト視聴やVODはネットのサービス、ということが多い。このような選択を視聴者（利用者）に行わせることなく、「地元のケーブル局」といった一つのブランドが、通信路を意識させずにどの用途にも対応できる、というシステムがTV Anywhere だ。その名称は、これまで何度も使われてきており商標として成立するか見通せないが、提供したいサービスは明確だ。

■いくつもの大転換 　複数利用者の「私的利用」保管でコスト削減
　このサービスは、大きな衝撃を秘めている。まず、通信機器メーカーから放送業界への機器・サービス提案である事だ。そして、小型軽量化したシステム構成は、業界のこれまでのやり方に敢えて目をつぶることで実現している。
　これまでの「どこでも」サービスの多くは、視聴者宅のSTBで録画し、ここから視聴者の出先にインターネット経由でコンテンツを送るように作られていた。STBにハードディスクを内蔵し、ここからコンテンツを送るのだ。例えば、米ディッシュ・ネットワークのSTBは、子会社のスリングメディアが開発した機能を内蔵し、登録した１台の機器に対してSTBからコンテンツをストリーミングする。受信した後は、あくまでも利用者が行う１対１の通信、という形を取っている。その中間に位置するのが、STB内のハードディスクだ。ハードディスクに録画された時点でコンテンツは私的利用、として切り分けている。
　エリクソンの提案では、録画はヘッドエンド（局）側で行う。この考え方は従来からもあったが、各視聴者に一定の記憶容量を割り当てて、あくまでも視聴者が自分で操作して行う、という形にされていた。ヘッドエンド側は容量を貸しているのであり、コンテンツの録画は視聴者の私的利用、ということだ。ただし、エリクソンの提案では一歩進めて「複数人が同じコンテンツを録画しても、ファイルは一つ」としている。これで、記憶装置に掛けるコストも通信コストも低下させられるとする。


■米アズキ・システム買収で事業化　放送業界の顧客開拓に意欲
　放送業界としては、ここは大いに気になるところであろう。今回はヘッドエンド側がコピーを行い、視聴者にはリンクが渡されるということになる。これは、従来の権利処理の枠組みで解決できないのではないか、という疑問が生じる。特に日本では、世界に類の無い権利が確立されており、状況をより複雑にする。
　TV Anywhere に関する開発を行って来たのは、米アズキ・システムで、2月にエリクソンに買収されている。アズキ・システムの担当者は「権利処理の方法が変わることは判っている。しかし、各視聴者用に記憶容量を持つ方が無駄だ。コンテンツ保有者も現実的になってきている」と軽いシステムで価格低下を図り、より視聴回数を増やした方が、全体としての利益になるという考え方を強調した。
　ヘッドエンド側での録画は、欧州の一部ではIPTVサービスで実施例があり、全く行えないものではない。ただ、今回の提案のように１コピーを多数の視聴者が利用するという形は初めてと見られる。なお、アズキの担当者は、このシステムはケーブル事業者のみならず地上波放送局も活用可能である事を示した。
　エリクソンのハンス・ベストベリCEOは、筆者の質問に「エリクソンの従来の顧客とは異なる顧客開拓が必要になる」と答え、放送業界に積極的にアプローチすると述べた。

■利用者を爆発的に拡大するスマホの大幅な低価格化で新たなトレンド
　会見で、ベストベリ氏は、「スマートフォンの価格が10ドル下がると、利用者は1億人増える」と、これまでの観察に基づく見通しを述べた。
　これに呼応するかのように、MWCで大々的にデモされたのが「Firefox OS」だ。ブラウザ「Firefox」を開発したモジラ財団が開発したスマートフォン用OSで、昨年から実用化されている。
　今回のMWCでは、実際に販売されている携帯機を中心にデモが行われた。現在、４つの通信事業者が欧州および中南米で同OSを実装したスマートフォンを販売している。昨年夏以来、約75万台を販売した。
　Firefox OSでは、アプリは次世代標準となるHTML5で記述する。このため、機器間の可搬性が非常に高くなっている。CPUが違っても、アプリは影響を受けないようになっている。
　現在発売中の携帯機は、すべて米クアルコム社のシステムLSI（SoC）「スナップドラゴン」を使用している。他のSoC事業者も参入を狙うが、アプリの高可搬性は利用者に歓迎されるだろう。
　モジラ財団の記者会見で「（オープンソースであるこのOSの利用で将来は）25ドルのスマートフォンが可能になる」と示された。現在の低価格機が100ドルであることを考えると大幅な値下げだ。ベストベリ氏の予言に従えば人類皆スマートフォンを利用できることになる。ここにコンテンツを流せれば、非常に大きな市場となる。

■「モバイルワールドコングレス2014 緊急セミナー」開催
　【日時】2014年3月18日14時30分開場、15時開始（終了17時30分予定）
　【会場】フクラシア東京ステーション 会議室L
東京都千代田区大手町2-6-1　朝日生命大手町ビル5F,6F ・JR[東京]駅・地下鉄[大手町]駅　地下直結 ・JR[東京]駅・日本橋口徒歩1分 ・JR地下鉄[大手町]駅　B6出口直結
　【講演内容】（敬称略）
　「MWC2014から見えてきたモバイル/ワイヤレス業界の新たな胎動」（リックテレコム取締役／「月刊テレコミュニケーション」編集長　土谷宜弘）　50分　資料付き
　「IoT、新興市場、高性能化：対応急ぐ通信機器業界」（映像新聞社 論説委員／日本大学 生産工学部 非常勤講師　杉沼浩司）50分　資料付き
　「ＭＷＣインサイダー」（SalesGate International 日本代表　トム・サトウ）
　【事前申し込み】会場の収容人数に限りがあるため、参加の際は事前に申し込み
　【参加費用】ツアーご参加者：無料、ツアーご参加者以外の方：5,000円（税込み）
　【支払い方法】申込みされた方へ請求書を送付。※3月17日までに振込み
　【申込先】（電話またはメールで申込み）JTBコーポレートセールス 本社営業部 第五事業部 日賀野（ひがの）
　　電話／（03）5909-8119　メール／g_higano792@bwt.jtb.jp