【コラム】NHK技研公開(1) 開発フェーズにより近づいた8K 第3世代カメラは小型軽量化、 120P対応の三板式やシアターカメラも登場

2014.6.12 UP

  
2020色域でしか表現できない多くの色があることがわかる

2020色域でしか表現できない多くの色があることがわかる

ビデオテープを彷彿とさせる固体メモリーパック

ビデオテープを彷彿とさせる固体メモリーパック

丸印の箇所に立てば、前方スピーカーのみでも音像が定位する

丸印の箇所に立てば、前方スピーカーのみでも音像が定位する

 5月29日から6月1日までの4日間、NHK放送技術研究所が一般公開された。今年は、ハイブリッドキャストと8Kスーパーハイビジョンを前面に出した展示となった。既にサービスが開始されているハイブリッドキャストは、更なる進化を予感させる展示がなされていた。8Kスーパーハイビジョンは、主力のカメラがFIFAワールドカップのためブラジルに「出張中」(展示パネルの表現=上写真)となったが、多くの新機材が登場し、8Kスーパーハイビジョンが実用化に向けて進んでいることを印象づけていた。8K以外では、フレキシブルディスプレーやインテグラル立体ディスプレーといったディスプレー関係に有意義な前進が見られた。現行の放送を支援する技術も多数登場し、制作の効率化、視聴者ニーズの把握など多方面への適用が期待される。(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)

■「明日の技術」を紹介する場
 NHK放送技術研究所(以下、技研)の一般公開「技研公開2014」が、今年も開催された。5月29日から6月1日まで行われた公開では、31の展示に加えて、ポスター展示、デモ、講演などが行われた。展示は、技研1階と地下1階が使用された。
 今年は、1階のエントランスホールに8Kテレビを備えたリビングルームの姿や8Kハイブリッドキャストが置かれ、8Kが実現した時の視聴像を真っ先に示していた。この後、展示は、8Kカメラや撮像技術、伝送(変復調)、制作機材、8K用音響と続き、1階の最後はインテグラル立体テレビとホログラフィ用表示素子(変調素子)となる。現在最も注力する研究が現れるのが1階ならば、地下一階は幅広い研究を見せる場所とも言える。ユーザーニーズの吸い上げや、力覚提示といった視聴者と接触するもの、撮像素子の高感度化、制作に使用する新技術などが並ぶ。
 技研公開が終った翌日の6月2日からは、4Kの試験放送がCSで始まったが、技研公開には4Kは全く登場しなかった。4Kは技術的に見れば「今日」のものであり、「明日・明後日」の技術を研究開発する場所とは関係がないと言えるだろう。

■8Kカメラ “ブラジル出張中”の第3世代機は20kgに 三板式やフルスペックのシアターカメラも登場
 1階の展示で目を引いたのは、8Kカメラ小型化の歴史だ。2002年に初めて登場したカメラは80kgだった。これが2004年には32kgに小型化され、現行の第3世代機は20kgとなった。この第3世代機は「FIFAワールドカップのためブラジルに出張中」のため、写真パネルでの展示となった。いずれも三板式である。その横には、2012年に開発された単板機と昨年登場したキューブ型機(単板)が並ぶ。今回は、別のスペースで広色域、120P対応の三板式「フルスペックカメラ」や、静寂性や感度を高めた「シアターカメラ」も出展され、多くのカメラが揃った。
 8Kカメラは、これまで4K素子を使い「画素ずらし」により解像度を高めたデュアルグリーン方式が多く使われてきた。第3世代機や、シアターカメラはこれである。今回の展示で、8K素子による三板式は「フルスペックカメラ」との名称で扱われると判った。8KがITU-RでBT.2020として標準化されたことにより、カメラはこの仕様に沿ったものになると見られる。すべての要素がBT.2020仕様をフルに満たす必要はないが、日本の放送に見込まれる要素は「フル」化してゆくだろう。

■8K撮像素子を採用した三板式フルスペックカメラ 目に鮮やかな広色域実現
 今回登場したフルスペックカメラは、4K画素ずらしではなく、8K撮像素子を用いた三板式で、最高の解像度が得られるものである。そして、120Pに対応した。これだけなら2012年に開発済であるが、色域もBT.2020が定める色域(通称:2020色域)に拡がっている。階調も12ビットと、配信に使われる10ビットよりも4倍の細かさを持つ。
 色とりどりの小さなオブジェクトが置かれたコーナーを、このカメラが撮影していた。やや離れた場所に置かれたディスプレーには、光ケーブルで映像信号が伝送されていた。現時点では2020色域に正確に対応したディスプレー装置は発表されていないが、遠からず出現が見込まれる。
 今回は、測定機上に色分布が示されたが、現行のHDTVで使われる色域(通称:709色域)の外側に多くの色が現れていることが測定器の表示からわかった。別に特別な色ではない。我々が蝶の羽に見る鮮やかな青さや、海の碧さに通じると感じるエメラルドグリーンが709色域の外にあり、2020色域で再現されることが見てとれた。民生用のテレビでは、各社ごとの色域拡大処理のため、同じ色が異なる色に展開される事態も起きている。広色域デバイスが開発され、2020色域が普及すれば制作側意図通りの色で表示されることになる。

■記録装置は半導体メモリー採用で小型化 独自方式でRAWデータを圧縮
 8K時代は、完全にテープレスになる。半導体メモリーやハードディスクが記憶媒体として使われるだろう。今回、中継車等での利用を指向した「メモリー着脱型8Kスーパーハイビジョン小型記録装置」が登場した。
 VHSカセットよりもやや小さな「固体メモリーパック」には、半導体メモリーが収められている。このメモリーへは、技研が独自開発した非可逆圧縮により映像が収められている。圧縮方式は「フレームで完結した独自方式」(説明員)とのことで、編集性などを配慮している。ここで重要なのは圧縮方式そのものではなく、RG1G2Bの4チャンネルカメラ出力を効率よく圧縮していることである。CCU通過後のRGBではなく、RAWデータを圧縮する。カメラヘッドが出力するデータを直接扱っている。各チャンネルは幅4K高さ2Kの画素となるが、2つのGデータを合成して幅8K高さ4K画素のデータを作り、これを圧縮する。従来のG1G2と分離した場合よりも画質が向上したとのことだ。
 現時点では、カートリッジの形状や接続するピンの信号規格、そして圧縮方式は研究用とのことで公開されていない。将来の制作における混乱回避のためには、標準化機関への提案が必要であると考えられる。

■前面パネル周辺のみで22.2チャンネル立体音響を実現 
 音響の研究も着実に進化している。8Kでは、22.2チャンネル音響を用いるが、視聴者宅にサブウーファー込みで24本のスピーカーを置くのは現実的ではないと批判されてきた。今回は、頭部伝達関数の演算により、パネル周辺に取り付けられたスピーカーだけを用いて、後ろから、上からといった立体的な音源位置感覚を実現した。
 今回は、ディスプレー前3箇所でしか定位が実現しないということで、視聴中自由に身体を動かすことはままならない。しかし、演算能力が向上すれば定位するスイートスポットを拡大することは可能だ。また、立体感を与えたい視聴者を連続的に追跡する技術ができあがれば、動きに対する耐性はさらに大きくなる。2020年の放送開始までに、実用的なスイートスポットを実現できる可能性は十分にあり、精力的な研究開発が望まれる。

2020色域でしか表現できない多くの色があることがわかる

2020色域でしか表現できない多くの色があることがわかる

ビデオテープを彷彿とさせる固体メモリーパック

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丸印の箇所に立てば、前方スピーカーのみでも音像が定位する

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#interbee2019

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