【コラム】IBC報告1 進む4K化 DVBのロードマップ phase1対応の機器充実へ
2014.10.9 UP
映像への情熱でCIONを作った、と明かすAJAのブライス・バトン氏
PLマウントを装備したブラックマジック・シネマカメラ
容量の99%まで使用してもアクセス速度が下がらないこと誇るFacilisのジェームズ・マッケナ氏
VIXSのHEVCゴールデン・デコーダは、業界で「標準」とされている
9月に開催された「IBC2014」(主催=英IBC)では、4K関連機器、サービスが当たり前のように会場に並んでいた。昨年の講演会では「HDか4Kか」が議論になっていたのに比べると、1年で大きく状況が変化した。会場内には4K対応機材があふれている。機材面での4K対応は一段落し、今度はHFR(ハイフレームレート)やHDR(ハイダイナミックレンジ)対応の機器開発へ向けての動きが活発化すると見られる。
(映像新聞論説委員/日本大学 生産工学部講師 杉沼浩司)
★4KからUHDへ
欧州放送業界も4K化、そしてUHD(ウルトラHD)化へ舵を切った。DVBプロジェクトが設定したロードマップでは、3840×2160画素で50/60pとなるのが今年から来年にかけてで、これがフェーズ1とされている。phase1(フェーズ・ワン)は4K化、プログレッシブ(順次走査)化がHDとの大きな違いになる。
2017年から18年にかけて実現が見込まれるphase2(フェーズ・ツー)は、色空間がBT2020準拠の通称2020色域」になるほか、HFR,HDRも実現する。今年の機器状況を見ると、phase1対応のものがほとんどで、phase2対応の製品は見当たらなかった。
まず、問題となるのは色域だ。2020色域は、現行の709色域よりはるかに広い色をサポートするが、これを表示できるモニターがない。今回、出展されていた4Kモニターは、709色域より広いDCI-P3色域に対応したものはあったが、2020色域のものはなかった。2020色域の色度点に対応した蛍光体が未完成と見られる。モニターがなければ絵を作れない。また、HFRは、収録時のデータ量が倍になる。カメラと録画機機間の伝送方式を見直す必要が出てくる。4K(またはphase1)までは既存技術の単純な延長で実現可能だったが、フェーズ2以降は複数の技術の協調的発展や新技術の導入が必要となる。
★充実するカメラ
4月のNABショウで新しい4Kカメラが紹介された。今回は、より多くの情報が明かされた。
米AJAビデオシステムズ社でプロダクトマーケティング・マネジャーを務めるブライス・バトン氏は、同社のカメラ「CION」について「4年の開発期間を経て製品化した」と、その背景を語った。このカメラはアップル社のProRESフォーマットでファイル出力するほか、3G-SDI経由でRAWデータも出力する。ファイルベースの作業を指向しているカメラといえる。バトン氏は「我々は、レコーダを開発販売してきたため、どのような信号を送り込めば良いかは分かっている」と信号方式選定の背景を語った。レンズマウントはPLが標準だが、マウント部分を取り外し、サードバーティ製のEF、B4、Gマウントへのコンバータも取り付けられ、各種レンズを装着できる。CIONは、従来の4KカメラがDシネマ指向で、ポストプロダクションでの各種調整を前提としているのに対して、テレビカメラ向きの調整、補正機能を内蔵している。そのため、未調整のカメラ出力でもバランスの良い映像となることをバトン氏は強調していた。
レコーダや信号変換器を製品とした同社がカメラに進出した理由は「AJAの人間は、多くが制作の現場にいた経験があるからだ。映像への熱意がある。それが我々をカメラ開発に向けた」と制作者魂に火が付いた事情を語ってくれた。なお、発売時期は「間もなく」であるとしていた。
ブラックマジックデザインは、同社の「ブラックマジック・シネマカメラ」および「ブラックマジック・プロダクションカメラ4K」にPLマウントモデルが製品化されることをIBCにて発表した。従来のEFマウントに加えて、PLマウントも選択できる。レンズの利用の幅が、大きく拡がりそうだ。
★超小型信号発生器
蘭デック・テックは、USB3.0ポートに接続する超小型の信号発生器「DTU-315」を発表した。DVB-T/T2やISDB-Tを含む、世界のほぼ全てのデジタル信号方式の信号を生成する。最新の衛星放送方式DVB-S2Xの信号も生成でき、対応信号数は19に及ぶ。
この装置は、ソフトウェア無線技術を利用しており、ソフトウェア的に信号生成を行っている。数式で信号を発生させるため、信号の品質は極めて高く、歪みのない信号が得られる。
DTU-315は、警備用懐中電灯を思わせるデザインながら、先端は絞られたユニークな形状を持つ。フィールドサポートのエンジニアは必携のデバイスとなりそうだ。
★遅くならないHDD
米ファシリス・テクノロジーズは、独自制御技術で実現した「遅くならないハードディスク」を用いたストレージで、ワークフロー時代への対応を示した。一般にハードディスクは、表示容量の80%程度まではカタログに示されたアクセス速度を維持するが、それ以上の容量を使うと急激に速度が低下する。
ファシリス社は、独自の制御技術をハードディスクに適用することで「容量の99%まで使用しても、速度低下が起きない」(マーケティング部長のジェームズ・マッケナ氏)ことを誇る。従来の設備が、ハードディスクを満容量まで使用させないために大規模化したのに対して、同社方式では規模を抑えて容量を確保できる。多くの容量を要する映像コンテンツ事業者に向く、としている。
★標準デコーダ
カナダのVIXSシステムズは、トランスコーダLSIの開発で知られていたが、最近ではテレビ用SoCなどに勢いがある。4K HEVCで10ビット対応のデコーダを最初に出荷したのは同社という。パナソニックの4K機にも同社製品が採用されている。そのVIXSが開始したのが「ゴールデン・デコーダ・プログラム」だ。同社のHEVCデコーダがコンテンツ業界などで標準として用いられていることから、技術開発用だったデコーダを、コンテンツ企業などで再生が行いやすく改良し、金色の筐体に収めた。「”(その信号が正しいか)VIXSのデコーダでテストしてみろ”と言って貰えるようになった」と、同社のペリー・チャッペル(セールス部長)は喜びを隠さない。
映像への情熱でCIONを作った、と明かすAJAのブライス・バトン氏
PLマウントを装備したブラックマジック・シネマカメラ
容量の99%まで使用してもアクセス速度が下がらないこと誇るFacilisのジェームズ・マッケナ氏
VIXSのHEVCゴールデン・デコーダは、業界で「標準」とされている