私が見た“NAB SHOW 2012”における技術動向(その2、3D、デジタルシネマ編)

2012.5.8 UP

ロンドンオリンピックに向けた3Dカメラと制作系(パナソニック)
派手なパフォーマンスの3D制作の実演情景(3Ality)

派手なパフォーマンスの3D制作の実演情景(3Ality)

大きな話題を呼んでいた超高精細度カメラ(ソニー)

大きな話題を呼んでいた超高精細度カメラ(ソニー)

4K、8K用ビデオサーバを出展(計測技術研究所)

4K、8K用ビデオサーバを出展(計測技術研究所)

トータルの4Kシステムを公開(アストロデザイン)

トータルの4Kシステムを公開(アストロデザイン)

 前号では今回のNABの状況、全体概要について紹介した。本号では、デジタル化後のポストHDを目指し、映像メディアとして急速な展開をしており、今回コンファレンスや展示会場でも大きな注目を集めていた3D映像とデジタルシネマに関する技術動向について見てみたい。

 3D映像は立体映画・立体テレビの歴史にあるように何度も消長を繰り返してきた。それが、2000年代半ば頃から、デジタルシネマの進展にあわせ3D映画が再び注目されるようになり、2009年公開のキャメロン監督の「アバター」が一躍ブームとなり、2010年のCESでは3D元年が標榜され、同年のNABではコンテンツシアターで“Alice in Wonderland”や“Football Game”などの3D作品が公開され、展示会場では多くのブースで3D機器が並び、それらを使って制作された3Dコンテンツが上映される状況だった。昨年のNABでは、オープニングのキーノートスピーカーにキャメロン本人が登場し、本格的に3Dコンテンツ制作を始めると宣言し評判になり、展示会場もまるで3D一色のような過熱気味の様相だった。そして今回、スーパー-セッションにキャメロンが再び登場し、“The Secrets of Making 3D Profitable”と題して新時代の3D制作について話し評判になった。しかし展示会場内における3D関連技術の様子は、昨年までの状態に比べるとやや落ち着いているとの感があった。評価が分かれるところだが、筆者は3Dがブームの峠を越えたというより、機器メーカやコンテンツ業界、映画や放送界など社会的広がりを見ると、3Dがいよいよ通常の映像メディアの仲間入りをし、ようやく定着しつつあるとみた方が良いのではなかろうかと考えている。今回、場内で目にした3D関連技術の動向について主なものを紹介してみたい。
 パナソニックはこの夏開催予定のロンドンオリンピックで、3D番組を本格的に制作・公開することを謳っており、その時に使う予定の各種の3D制作機器を公開していた。一体型2眼式3Dカメラレコーダとして、既に業界で使われているハンドヘルド型を性能・機能を向上させたショルダー型とよりコンパクト化した小型モデルを並べていた。3D制作系としては、P2カードポータブルレコーダやマルチフォーマットスイッチャー、3D用液晶モニターなどと共に制作ワークフローの実演もやっていた。一方、3D映画などで高い実績を上げているソニーは、従来モデルの高画質を保ちつつ機動性を高めた一体型ショルダータイプとハンディタイプのコンパクトな3Dカメラを補強し、また従来より性能・機能を向上した視差調整やスイッチャー、録画デッキ、モニターなどで構成される3D制作系を公開した。3Dの進展にあわせ3Dコンテンツ不足が懸念されるが、JVCはかねてより2Dで制作された映像を特殊な信号処理により奥行き感のある3D映像に変換する技術を開発しており、今回、変換された3D映像を業務用3Dモニターで見せていた。
 3D制作で世界的に実績ある3Alityは、屋外展示場の一郭に大型の3D制作中継車とガラス張りのテントのような建物を仮設し、華麗な演出のプレゼンテーションをし大勢の見学者を集めていた。テント横の広場ではハワイの優雅だが勇壮なダンスが演じられ、周囲に3セットの大型のリグ式3Dカメラを設置し、それらで撮影された映像は大型の中継車内に設置の制作系でリアルタイムに処理され、3D映像がモニターに映されていた。普段目にすることがない派手なパフォーマンスとリアルタイムでの3D制作を存分に堪能することができた。
 今回出展されていた3Dシステムは、ほとんどが偏光または倍速シャッターによる眼鏡式だが、将来の3D映像を目指すものとして、NICT(情報通信研究機構)が公開した大画面裸眼式立体映像が注目を集めていた。昨年のシーテックに出展された時に比べ、フルHD対応のプロジェクター(DILA)アレイを60台から200台に増やし、画面サイズは200“と同じだが視野角は約3倍の40度となり解像度も向上した。CGによるキャラクターや乗用車などを映していたが、ホログラムのように視る位置を変えるとその視点に応じて立体像の見え方が変わる。実用化にはまだ課題があるようだが今後の発展を期待したい。

 デジタルシネマは2000年代初頭頃から進展し始め、年々デジタル上映スクリーンが増えそれに応じてコンテンツ制作が盛んになり、それに応える4K機器やシステムの開発、実用化が急速に進んでいる。そのせいか、4K Beyondが今回のNABでの最大・最高のテーマ、トピックスになっていた。
 その代表的な例は、ソニーが経営戦略の柱として打ち出してきた“Beyond HD”のテーマのもと出展した解像度8KのCMOSセンサーを搭載した超高精細度(2000万画素、16ビット)カメラ“F65”である。周辺の4K制作機器・システムも充実し、既に米国をメインに同システムによるコンテンツ制作も始まっており、ブース内に設置された4Kシアターでは、リオのカーニバルやハワイの景観など臨場感・迫力ある高精細映像が公開されていた。パナソニックは前述の3D制作系の充実に加え、今回、4K分野にも参入してきた。参考出品の4Kバリカムはやや小型のショルダー型で、詳細不明だがシネマサイズのセンサーを搭載、新コーデックのAVC Ultra 4K 4:4:4に対応し、近々製品化されるそうだ。さらなるデジタルシネマコンテンツ制作が進むことを期待したい。テレビやシネカメラ用レンズ、一眼レフカメラなどで世界的に高い実績を持つキヤノンは、最近動画撮影分野にも積極的に参入しているが、今回いよいよ4Kデジタルシネマ用カメラを出展してきた。従来モデルをアップしたニューモデルのEOS C500は、解像度がDCI規格(4096×2160)とQFHD(3840×2160)の両方に対応し、今回の出展の目玉として評判になっていた。ブース内に4Kシアターも設けられ、これらのカメラを使って撮影された超高精細コンテンツと制作時のメイキング映像も公開されていた。
 デジタルシネマコンテンツの制作で世界的に高い実績を上げており、NABで毎回話題を集めているレッドデジタルは、シンボルマークの赤い丸マークを掲げたブース内に、昨年デビューした解像度5Kの“RED Epic”と今年のニューモデル“RED Scarlet”を並べ、制作ワークフローの実演もやっていた。隣接のシアターではそれらを使って制作された4Kコンテンツが上映され、今年も人気スポットになり長蛇の列をなしていた。シネカメラの老舗ARRIは近年デジタル化を進めており、35mmサイズのCMOS(解像度3.5K)を搭載しフィルムカメラライクのデジタルカメラ“ALEXA PLUS”と、アビッドテクノロジーなどの他社の制作系とリンクしたワークフローの実演もやっていた。
 これらのカメラだけでなく、超高精細映像、大容量の記録装置も登場し注目を集めていた。ビデオサーバなどで高い実績の計測技術研究所は、従来からのディスクレコーダとは別のコンセプトで開発された半導体メモリーによる4K用、さらには将来の8Kスーパーハイビジョン用も視野に入れた非圧縮SSDレコーダを出展し評判になっていた。また長年、超高精細映像システムに取り組み実績を上げているアストロデザインは、今回も小型コンパクトな4Kカメラに加え、4K非圧縮SSDレコーダや2K→4Kコンバータ、60“サイズのQFHDのLCDモニターなど、トータルの4K映像システムを公開していた。
 3D関連、4K超システムについては、ここで紹介した以外にも多くの社から数々の展示が見られたが、ポストHDとしての新たな映像メディアの展開がますます盛んになってきた。

 次号ではカメラや映像モニターやディスプレイ系について紹介したい。

映像技術ジャーナリスト(学術博士) 石田武久

派手なパフォーマンスの3D制作の実演情景(3Ality)

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大きな話題を呼んでいた超高精細度カメラ(ソニー)

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4K、8K用ビデオサーバを出展(計測技術研究所)

4K、8K用ビデオサーバを出展(計測技術研究所)

トータルの4Kシステムを公開(アストロデザイン)

トータルの4Kシステムを公開(アストロデザイン)

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