【NAB Show 2012】NABに見る映像技術・映像ビジネスの新潮流(4)今年光った技術・製品

2012.6.7 UP

スポーツカム分野の大手GoPro
最大2キログラムのカメラを搭載できるUAV

最大2キログラムのカメラを搭載できるUAV

BBC R&Dが開発したIP変換ボックス「ステージボックス」

BBC R&Dが開発したIP変換ボックス「ステージボックス」

NICTの200型裸眼立体視ディスプレイには、ハリウッドのクリエイター達が数多く訪れた

NICTの200型裸眼立体視ディスプレイには、ハリウッドのクリエイター達が数多く訪れた

 NAB Showが「放送機器の展示会」から「電子メディアのための展示会」に姿を変えて久しい。放送用と銘打っていた頃は、より高画質、より高信頼性といった方向に進んでいた。しかし、現在では、映像を扱う業界からの多様な要求に応えることが重要視されている。NABに登場した「光る」技術と製品をレポートする。(映像新聞社 論説委員 杉沼浩司)


■躍進するスポーツカム

 セカンドスクリーンの登場で、コンテンツの可能性を大きく広げるテレビ放送であるが、今回のNAB Showの時点ではセカンドスクリーンを直接指向したツールは見当たらなかった。現時点では、セカンドスクリーン用の要素技術が整いつつある段階であるため、ツールという形でまとまるには、もう少し時間を要するものとみられる。
 今年、機器状況の変化を印象づけたのは、VTRの消滅とスポーツカムの躍進、という対極的な事象だった。VTRは、HDCAM SRに代表されるハイエンド機材もついに表舞台から姿を消し、半導体または光ディスクをベースにした映像記録装置がメーカー前面に並んでいたのが印象的であった。4K映像記録時代になり、磁気テープの記録速度では大量のデータを記録できなくなったことは、原因の一つに過ぎない。メディアの可搬性の違い、ワークフローとの整合性など多様な理由があるが、いずれにせよ制作の現場でVTRが使われることは急減するだろう。

 ハイエンドのVTRが消滅する一方で、ニッチ分野のスポーツカムがNAB Showで大きな存在となった。これまでも、フロアの各所にスポーツカムのメーカーが目立つブースを構えていたが、今年は米GoProが特に目立った。従来、パナソニックが帯状にブースを構えていたセントラルホールの上段(西側)の一部に同社は進出した。パナソニックと並んでブースを開いたGoProは、新製品の「Hero2」などを展示し、耐衝撃型HDカメラの応用例を示していた。

 スポーツカムは、小型軽量であり光学系の能力も限られることから、決してハイエンド機のような画像を得られるわけではない。しかし、これまでより遥かに手軽にアウトドア環境でHD映像を取得できる。ハイエンド機が入れなかった場所でもHD映像を得られるとあって、アマチュアばかりでなくプロフェッショナルの利用も拡大している。今回のGoProの巨大ブースは、単純な品質重視ではなく、可用性重視へと要求がシフトしていることを示す例と言えよう。


■空撮に変化ーー無人飛翔体(UAV)の登場

 空撮ツールとしてヘリコプターはNAB Showのお馴染みだったが、今年は新たな挑戦者が登場した。自律飛行機能を持つ無人飛翔体(UAV)である。UAVというと、紛争地域に投入される軍事用のものを指してきたが、最近では「自律飛行機能を持つ無人機」を指すこともある。
 米国はラジコン飛行機に関する無線免許が日本よりもはるかに厳しい。あらかじめ飛行経路を入力しておけば操縦不要で自動的に飛行する無人機も、飛行高度が400フィート(120m)に抑えられている。しかし、高度規制が撤廃される方向にあり、映像撮影を指向したUAV機材の市場が活気づいてきた。

 UAV機は、従来のラジコンとは異なり2.4GHz帯などのISMバンドを用いた無線LANを制御に用いる。GPS座標を入力すると、その場所への飛行を行ってくれる。数ポンドの輸送能力があり、デジカメやスポーツカムを取り付けて「空撮」を行うのである。このUAVの1ジャンルとして「マイクロコプター」がある。複数枚のプロペラを使う、垂直離着陸可能な飛翔体だ。

 NAB Showでは、屋外展示会場でクアドロコプター社がマイクロコプターを展示した。同社の製品は、1-2キログラムの搭載量を持つ。これは、前出のGoPro社のスポーツカムを搭載するに十分な能力だ。飛行時間も20分程度あり、かなりの撮影ができる。既に、スポーツ番組などで使用されているという。
 ラジコンとも異なるUAVは、これまでと異なる視点をコンテンツに与えるツールとして、制作者達の注目を浴びていた。


■BBCの研究機関がフォーマット・コンバーターを出展

 BBC傘下の英BBC R&Dは、米ザイリンクスのブースにおいてビデオ・オーバーIP(VoIP)用変換器「ステージボックス」を展示した。BBC R&Dステージボックスは、HD-SDI入力、イーサネット出力を持つフォーマット・コンバータである。イーサネット上にはIPパケットにカプセル化された映像信号が送られる。
 BBC R&Dが試作したこのボックスは、SDI信号を発生場所においてIPに変換することで、既存のIP網を使いどこにでも伝送できるようにすることを目指している。BBC R&Dは、リリース中で「IP化で、地球の裏側にも伝送できる」としている。
 ステージボックスは、ザイリンクスのFPGA(バーテックス–6)にコアELテクノロジジーズ社のAVC-I CODEC用IPを搭載している。本機は、英リーディング・ライト・テクノロジーズ(L2tek)社から販売される。


■リアルな裸眼立体視を実現したNICT

 独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、200型裸眼立体視ディスプレイをリサーチ・パークにて出展した。NICTのディスプレイは、単純な裸眼立体視ではなく、観察者が視点を動かせば、それに従って見え方も変わる精度の高いものである。デモ映像の中で特に効果が大きかったのは、「お面」のCGを用いたものだった。顔面を斜めから見た提示映像では、鼻に隠れた部分がある。しかし、ここで観察者が視点を動かすと隠れていた面が見えてくる。また、「自動車」のCGも、開いたドアの陰に隠れた部分が、視点移動により見えてくるといった、真の3D表示をじつげんしている。

 このディスプレイには、200台のプロジェクタが利用されている。従来のデモでは60台程度のプロジェクタが用いられたが、200台を使用することで立体効果が得られる範囲が大幅に広がった。従来は、スクリーン前の指定の場所に立たないと立体感を得られなかったが、今回は暗室に入った瞬間に効果を感じることができた。
 NICTのブースには、ハリウッドの立体関係プロダクションの幹部やクリエイター達が訪れていた。ショウスキャン技術の開発や特撮監督作品「ブレードランナー」で知られるダグラス・トランブル監督は「このディスプレイのために作品を撮りたい」と語るなど、自然な立体感はクリエイターに大きな衝撃を与えた様子だった。

6214 スポーツカム分野の大手GoProは、セントラルホール中央に進出した
6208 クアドロコプターのUAVは、最大2キログラムのカメラを搭載できる
6351 BBC R&Dが開発したIP変換ボックス「ステージボックス」は、ザイリンクス大規模FPGAを使用している
6318 NICTの200型裸眼立体視ディスプレイには、ハリウッドのクリエイター達が数多く訪れた

最大2キログラムのカメラを搭載できるUAV

最大2キログラムのカメラを搭載できるUAV

BBC R&Dが開発したIP変換ボックス「ステージボックス」

BBC R&Dが開発したIP変換ボックス「ステージボックス」

NICTの200型裸眼立体視ディスプレイには、ハリウッドのクリエイター達が数多く訪れた

NICTの200型裸眼立体視ディスプレイには、ハリウッドのクリエイター達が数多く訪れた

#interbee2019

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