【NEWS】WOWOW マルチコプターで「4K空撮」 小型船からの離発着で松島の景観を撮影

2013.12.19 UP

松島湾での撮影

松島湾での撮影

作業船からの操作

作業船からの操作

母船への着地

母船への着地

(左から)奥野氏、篠田氏、プロデューサーの古谷氏

(左から)奥野氏、篠田氏、プロデューサーの古谷氏

 WOWOWは12月8、9日、宮城県松島町の松島湾海上で、マルチローターのラジコンヘリ「マルチコプター」を使った4K空撮を実施した。今後のマルチコプター収録の可能性を探ることが目的。今回利用したマルチコプターは、無人飛行機、マルチローター機の設計・製造、空撮・モニタリングを手掛ける栃木県のベンチャー企業に発注。カメラはソニーの業務用4K XDCAMメモリーカムコーダー「PXW-Z100」を採用した。撮影は、小型船で撮影現場まで行き、そこで離発着するスタイルをとった。これにより、島々を巡るダイナミックな映像の撮影に成功している。 

■「ホバリングと移動の両方に対応」
 WOWOW技術局制作技術部エグゼクティブ・エンジニアの篠田成彦氏は、「地上10-150メートルの部分を撮影する方法には、気球やモーターパラグライダー、マルチコプターなどがある。モーターパラグライダーは人が撮影するので素晴らしい映像が撮れるが、ホバリングができない。移動とホバリングができるのはマルチコプターしかない」とその利点を説明する。

■NSi真岡に発注
 WOWOWはマルチコプターをNSi真岡(栃木県真岡市荒町)に発注。同社は無人飛行機、マルチコプターの設計・製造・運用・販売を主業務とするベンチャー企業だ。
 同社のマルチコプターは、姿勢制御や自動飛行をつかさどる制御CPU、モーター、マルチローターなどを自社で選択し、組み上げたもの。制御系CPUはDJI社製。これは現在、マルチコプターなどの制御で主流のCPUである。

■風速12、13メートルでもホバリング静止が可能
 マルチコプターはマグコンパス、GPS、気圧高度計を搭載し、それらから取得されるマルチコプターの向き、緯度・経度、高度・速度の各情報を連続的に制御することにより自動で安定飛行する仕組みだ。機体は人が操作をしなければ1点にとどまる。その際、風速12、13メートルまで耐えられる。
 機体部はカーボンファイバー製のフレームで、8つのローターを持つ。下部のジンバル(回転台)は防振装置などで、振動に対処している。

■XAVC 4K 60pで撮影 飛行時間は約8分
 搭載したカメラは、ソニーの業務用4K XDCAMメモリーカムコーダー「PXW-Z100」を採用。バッテリーを含めて6.5キログラムの重量である。映像記録は次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)のコンテンツ搬入基準に準拠した、XAVC(4:2:2/10ビットサンプリング)の4K/60pで実施した。
 今回のマルチコプターの飛行可能時間は8分ほど。これは、Z100への4K/60pの記録(64ギガバイトのXQDカードを使用)時間(10分)に合わせた設計にしたためだ。バッテリーを増強すれば飛行時間を延ばせるが、その分カメラ部分を軽くしなくてはならず、Z100クラスのカメラは装着できなくなる。

■小型漁船で船上離発着による海上運用
 撮影は、松島湾の磯崎漁港から出発。小型の漁船をマルチコプター離発着用の母船として使い、養殖作業船を操縦者搭乗用とする形をとった。離発着ともに船上という点が今回の大きな特徴だ。NSi真岡も、これまで海辺や渓谷を撮ったことはあったが、海上のみというのは今回が初めて。
 操作は、カメラ操作をWOWOW技術局技術計画部リーダーの奥野俊彦氏、機体操縦をNSi真岡社長の水沼和幸氏という2人態勢で実施した。

■1.2GHz帯のアナログ無線機で映像信号の送受信 上空200メートルまで上昇も
 マルチコプターの飛行時間を考慮して母船の待機ポイントを定め、作業船からマルチコプターを操作して撮影現場に向かった。撮影では、NSi真岡が免許を受けて開局している1.2GHz帯のアナログ無線機でカメラの映像信号を送信し、作業船のアンテナで受信。この映像をモニターで確認しながら作業を進めた。
 松島湾の島々を上空から撮る一方、島の間を縫うような低空のシーンも収録。さまざまな番組で生かすことを念頭に、夕暮れのカキ棚の様子なども収めている。島の撮影では、200メートルほどの高さまでマルチコプターを上昇させる場面もあった。撮影時間を少しでも伸ばすため、作業船にマルチコプターを積んで撮影ポイントに行き、直接飛行させる対応もしている。

■浅瀬への接近は小型船を利用
 撮影日は時折小雨が降るかなり気温の低い状況ながら、風・波は穏やかで、撮影は順調に進んだ。マルチコプターは安定しており、水沼氏による母船への着地操作もきわめてスムーズだった。
 カメラ操作を担当したWOWOWの奥野氏は、「松島湾は浅いため母船では撮影ポイントに近づけなく、行き来で時間がかかり、どうしても撮影時間が短くなってしまった。そのため後半は水沼氏と相談し、撮影ポイント近くで小型船から発着し、撮影後は母船に帰還する方法をとった。操縦者とは下見で撮影のイメージが共有できていたので、撮影が進むにつれて、良い映像が撮れるようになってきた」と話す。

■カメラの形態によってはカメラワークに制約も
 また、ENGカメラ特有の形状から、ハンドルが干渉しジンバルに取り付けられたカメラが真下を向かなかったことも指摘した。これについてNSi真岡の水沼氏は、「デジタル一眼を搭載することがマルチコプターの一つの到達点だったが、これは既にカメラが自由自在に操作できるところまできている。近い将来、業務用カメラも自在のカメラワークができるよう精度を高めていきたい」と今後の開発に意欲を示している。

■FPU搭載の大型マルチコプターも登場「サザン 復活ライブ」でHD生伝送も
 WOWOWは昨年の男子プロテニストーナメント「楽天ジャパンオープンテニス2012」の撮影で始めてマルチコプターを使用。その際に選んだのがNSi真岡だった。この時は200グラムほどのコンパクトデジタルカメラを搭載。
 今春、NSi真岡がWOWOWの要望で、FPUを搭載できる大型マルチコプターを開発したことから、FPUおよびカメラ搭載用ジンバルを共同で製作し、撮影テストを実施。
 その結果から、FPU(NEC製)を搭載した機体から平面アンテナを経てHD映像を飛ばし、受信の安定とビデオレート向上を狙って、ダイバシティ受信装置(池上通信機製)で複数アンテナを合成・復調するというシステムを導入することにした。
 この仕組みを用いて同夏のサザンオールスターズの復活ライブ中継において、茅ヶ崎や仙台でHD生伝送を実施している。今回の4K撮影もマルチコプターの大型化によって可能となった。
 WOWOWは、NSi真岡が、大型のマルチコプターを実現していること、姿勢制御をはじめとする機器の性能、信頼性などを評価している。水沼氏は元海上保安庁パイロットで、気象知識を有し、ラジコンの高度な操縦技術も持っている。こうした総合力もWOWOWが採用したポイントであった。

松島湾での撮影

松島湾での撮影

作業船からの操作

作業船からの操作

母船への着地

母船への着地

(左から)奥野氏、篠田氏、プロデューサーの古谷氏

(左から)奥野氏、篠田氏、プロデューサーの古谷氏

#interbee2019

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