【プロダクション】高柳記念財団 科学放送賞授賞式 「日本のものづくりの精神を伝える」3番組に授賞
2013.1.31 UP
RKB毎日放送 今林氏
北日本放送 柳川氏
日本放送協会 井上氏
公益財団法人 高柳記念財団は1月18日、科学放送番組について表彰する科学放送賞「高柳記念賞」、「高柳記念奨励賞」の授賞式を開催した。
科学放送高柳記念賞は、NHKスペシャル「宇宙の渚 第1集 謎の閃光スプライト」(日本放送協会、2012年4月22日放送)に、また、科学放送高柳記念奨励賞は、KNBふるさとスペシャル未来を回せ〜富山発・小水力発電の可能性〜」(北日本放送株式会社、2012年6月24日放送)と、「風を集めて ”レンズ風車” 未来への挑戦」(RKB毎日放送株式会社、2011年12月31日放送)の2作品が受賞した。
授賞式では、まず、審査委員長の餌取章男氏が審査経過と講評を紹介し、続いて各番組の担当者が登壇し、受賞の喜びとともに、制作のねらいや裏舞台の苦労などをコメントした。
科学放送高柳記念賞は、科学技術の進歩・普及に功績のあった科学番組を表彰し、さらに科学番組の質を高めたいというねらいのもの。今年度は10局から14本の応募があり、11人の審査委員会による審査の結果、上記の作品に受賞が決まった。
餌取氏は、講評の最後に次のように述べた。
「3作品はいずれも、日本の伝統的なものづくりの精神を生かしたという点が印象に深い。これからも技術は『誰のための』技術なのか。企業のためだけ、国のためだけでなく、我々自身にとって役に立つ技術であることが大変重要。そういう精神を大変うまく活用し、新しい原理・真理を発見したり、技術を創り出しているところに焦点を当てていることに、3作品の優れた点を見いだした」
■「風を集めて ”レンズ風車” 未来への挑戦」
(受賞理由)
科学放送高柳記念奨励賞を受賞した「風を集めて ”レンズ風車” 未来への挑戦」は、風力発電の効率を高めるために、九州大学の大屋裕二教授が開発した、羽根の回りに輪をつける“レンズ風車”の開発プロセスを追った番組。レンズ風車は、従来型の3倍の発電効率をもち、騒音も少ない。モノづくりに誇りを持つ町工場の職人たちの協力や、日本の科学技術力の素晴らしさを前向きに描き、夢と希望を与えてくれる科学番組とし評価された。
(受賞者のコメント)
制作を担当したRKB毎日放送 報道部 記者の今林隆史氏は、次のようにコメントした。
番組「風を集めて ”レンズ風車” 未来への挑戦」は、九州大学の大屋教授が効率が3倍という夢の風車、「レンズ風車」を開発する過程をおよそ8年にわたって追いかけた作品。2011年3月11日、東日本大震災の発生時に、奇しくもこのレンズ風車を取材していた。中国の砂漠緑化のエネルギー源にしようと設置されたが、砂漠の嵐の前で無残にも壊れてしまった。そのような経験を経て、改良を経ながら、一つ一つ問題を解決していった。そしてレンズ風車を海の上に浮かべて、洋上に発電所をつくるというところまで夢は広がっている。風車の開発に地道に打ち込む研究者。それを技術で支える町工場の職人たち。エネルギー問題の解決という目標以上に、日本再生のヒントがあると思い、番組を制作することにした。
今回の放送は、大屋教授の協力に加え、さまざまな制作スタッフに支えられたものだった。私は福岡のRKB毎日放送で事件担当記者をしており、なにか事件・事故が起こればすぐに現場に駆けつけるという毎日を送っている。そのような、時間に制約のある中で制作したのがこの番組。地方の放送局はどこも十分な時間がないという状況にある。今回の受賞は、このような制作環境にある地方の放送局に光を与えてくれた結果と感謝している。今後も今回の受賞に恥じぬような番組制作を続けていきたい。
■KNBふるさとスペシャル「未来を回せ~富山発・小水力発電の可能性~」
(受賞理由)
危機に立つ日本のエネルギー政策のなかで注目されているエネルギーの地産地消をテーマに、富山高専の学生たちがその実践のため、小水力発電アイディアコンテストに挑み、見事に優勝するまでを記録している。挑戦の過程で、技術は地域の人びとの役に立たねばならないこと、常に新しい工夫が必要なことがなどが盛り込まれ、多大な共感を喚起させる優れた番組である点が評価された。
(受賞者のコメント)
制作を担当した北日本放送 放送本部 報道制作局 報道制作部の柳川明子氏は、次のようにコメントした。
北日本放送にアナウンサーとして入社し6年目になる。最初は情報番組のリポーターを2年半務めていた。その後、報道に移動し、警察担当として事件・事故の取材をしたのち、夕方のローカルニュース番組のキャスターを担当している。
「未来を回せ~富山発・小水力発電の可能性~」は、富山高等専門学校の学生たちが小水力発電のアイデアコンテストに参加し、地域のためになるものを作りたい、と奮闘して水車を仕上げていく過程を追いかけ、みごとコンテストで優勝を果たし、その後実用化に向けての一歩を踏み出したという一年あまりを追いかけた作品。
学生はみなシャイで、質問をしても単語しかかえってこない状況。 正直なところ、初めて学生に会ったときは、番組をつくろうとはみじんも思っていなかった。しかし、彼らがまじめにコツコツとものづくりをしていく姿勢に惚れ込んで、番組をつくろうと考えた。
水車をつくるのにも、設計、制作、仕上げの段階に携わり、試行錯誤を繰り返していながら、まじめにコツコツと、あきらめずに地域の役に立つものをつくろうというがんばっている、奮闘している彼らの姿を見て、番組にしたいと思い、取材を重ねた。
今、世の中には情報が溢れている。効率良くやろうという風潮がある。検索すればノウハウは手に入り、ハウツー本もたくさんある。しかし、小手先だけのテクニックではなく、一つ一つ積み上げて、それが評価されて優勝することができたのだと思う。
彼らを取材をしていて、試行錯誤や失敗なくして道は開けないということを改めて学んだ。見ているかたに、少しでも感じ取っていただく機会になればと思う。めまぐるしく変わる今の世の中だが、日本のものづくりを支えてきた、まじめにコツコツとつみあげていくという先陣のDNAは忘れられないような世の中であってほしいと節に願う。
■NHKスペシャル「宇宙の渚 第1集 謎の閃光スプライト」
(受賞理由)
宇宙で使える超高感度ハイビジョンカメラを番組のために開発し、国際宇宙ステーションに搭載して古川聡宇宙飛行士の撮影によって、これまで宇宙飛行士しか見ることの出来なかった光景を世界で初めてお茶の間に届けてくれた。カメラは、これまで謎の光だったスプライトを見事にとらえ、その正体を解明することに成功し、地球と宇宙とのつながりについて新しい視点を与えてくれた素晴らしい科学番組。
(受賞者のコメント)
制作を担当した、日本放送協会 制作局 科学環境番組部 専任ディレクターの井上智広氏は次のようにコメントした。
この番組は、宇宙の渚という3本シリーズの1本目。昨年4-6月に放送して、シリーズを総合して、関わったヒトの数を忘れてしまうぐらいの大変多くの方を結集して番組ができたがった。
番組の発端は、NHKが開発した宇宙用超高感度ハイビジョンカメラがきっかけとなっている。カメラができた発端は、日本人宇宙飛行士の毛利衛氏が2000年に、通常感度のハイビジョンカメラで昼の美しい地球の映像を撮影したときに遡る。帰還した毛利氏は、「昼もすばらしいが夜の地球もさらにすばらしい」という。それを聞いた技術陣が、当時撮れなかった夜の地球が撮れるカメラをつくろうとした。宇宙にものを持っていくためには、小型・軽量でなくてはならず、かつ安全性、耐久性、耐振動性など、さまざまなハードルをクリアしてつくりだした。
そのカメラを用いて、何か番組をつくるというミッションを与えられたのが2年前だった。当時、宇宙ステーションから何を撮ることができるかも分からず、カメラの性能もわからなかった。知恵をお借りしながら、構想を膨らませ、オーロラ、流星に続いて、もう一つ、スプライトという現象を知った。当時スプライトは、超高感度カメラでしか撮影できず、不思議な現象とされていた。そこで3本柱とした。専門家ですら、撮影できないものを果たしてうまくいくか、博打のようなものだったが、みなさんの執念があって撮影を成功することができた。
いきなりカメラをもたされて、スプライトを撮って欲しいと言われたときは、 古川宇宙飛行士は、大変なプレッシャーだったかと思う。しかし、実に真摯に対応していただき、驚くべき映像を撮ってくれた。また地上スタッフについても、世界中から名だたる専門家を集め、飛行機に乗って、同じカメラを使って撮影することができた。
スプライトを撮影したときに、飛行機の中で飛び上がって喜んでいた熊のようなおじさんも、実は世界的な科学者だ。未知のものに向き合う瞬間は、小学生でも何十年選手の研究者でも、目の輝きは同じ。そういう、「科学ってそういう風にして進んでいくんだな」、ということを皆さんにお伝えできたということが、この番組をやってほんとうによかったと感じていることだ。
今まで撮れなかったものを撮ろうという目的があったカメラが生まれた。では何を撮るのか、というのを調べていくうちに、最終的に宇宙の渚というテーマが出てきた。宇宙と地球は決して堤防のようなもので隔てられているのではない。渚のように、行き交う波によって、ゆるやかにつながっている世界だからこそ、意味がある。地球は孤立していない、というメッセージに、最終的にカメラの開発が結びついたのではないかと思う。
技術とそれを持ってなにをメッセージしていくかという思い、両輪が大切だということを私自身が学ばせてもらった。今回の受賞を励みとして、次なる挑戦に邁進していきたい。
RKB毎日放送 今林氏
北日本放送 柳川氏
日本放送協会 井上氏