【コラム】米映画見本市AFM報告(1)世界70カ国から買い手が集結 8日間で960億円の商談が成立、400本を超える作品試写 企画プレゼンの実践セミナーも開催
2015.1.8 UP
サンタモニカのホテルを貸し切って開催されたAFM2014
多くの参加者で混雑するロビー。商談にも熱が入る
会場の1つ、Fairmont Hotel
サンタモニカのFairmont Hotelで5日間に渡って行われたConference Series
北米最大級のフィルム・マーケット、「アメリカン・フィルム・マーケット」(AFM、http://www.americanfilmmarket.com)が昨年11月5日から12日までの8日間、カリフォルニア州サンタモニカで開催された。「フィルム・マーケット」とは、映画を主とした映像作品の版権を売買する映像コンテンツの見本市だ。今回参加したAFMは、フランスのカンヌ映画祭と同時期に行われる「カンヌ・フィルマート」、香港で行われる「香港フィルマート」と並び世界三大映画・映像マーケットの1つとして数えられている。AFMで売買される映画は、米国のインディペンデント系の映画が中心だ。毎年、世界70カ国を超える国々や地域から8千人以上の関係者が出席する。期間中は企画段階の映画作品から製作途中の作品、完成作品に至るまで、400本を超える作品が集まり、提案や商談が繰り広げられる。契約総額は800万ドル(約960億円)以上にも及ぶ。視察レポートを2回にわたって報告する。
(鍋 潤太郎、溝口稔和)
■400本を超える映画試写会も開催
米国におけるインディペンデント系映画制作会社とは、ハリウッド大手スタジオに属していない独立資本の映画制作会社をいう。映画制作のみを事業としており、配給などは手掛けない。また、スタジオの映画製作予算は今や100億円を超えるが、インディペンデント系はそれらより比較的低予算の作品が多い。
米国のNPO団体、フィルム・インディペンデント(Film Indipendent、http://www.filmindependent.org)が授与する、インディペンデント映画への賞の対象作品の規定では「ポストプロダクションを含む制作費が2000万ドル(約24億円)以下」となっている。日本でも話題となった映画『ブラック・スワン』(2010年公開)、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年公開)、『グリーン・デスティニー』(2000年公開)などは、いずれもインディペンデント系映画だ。
AFMの会場は、コンベンションセンターではない。サンタモニカのOcean Ave沿いに位置するLe Merigot Hotel、 Loews Hotelの2つのホテルをまるまる借り切り、ホテル内のレセプションルームや宿泊用の部屋に各出展者がブースを構えるのだ。会期中、ホテル内は絶えず多くの人の出入りがあり、ロビー付近ではグラス片手に商談するバイヤー達が集い、お祭りのような活況を呈していた。
会場には中東のドバイや中米のドミニカ共和国、南アフリカなど、それぞれの国・地域における税制優遇制作や補助金制度をアピールしてハリウッド映画の撮影を誘致するためのブースも構えられていた。
ポストプロや撮影の海外流出が深刻な問題となっているロサンゼルス市も、制作費が最大で25%まで還付される補助金制度を新設。そのアピールの為のブースを出していた。この制度はVFX制作も含まれる。ロサンゼルスに少しでもプロジェクトが戻ってくることが期待されている。
サンタモニカ周辺の映画館を借り切り、400本を超える映画の試写会も実施された。
会期中は夜ごとに業界人を集めた様々な主催者によるパーティーも開かれた。今年のパーティーにはクエンティン・タランティーノ監督やサミュエル・ジャクソンなどの著名人も姿を見せ、華やかなムードに包まれていた。バイヤーにとっては、これらのパーティーに足しげく参加し、様々な業界人と親睦を深めることがビジネス上重要になるという。
■映画ビジネスをテーマにパネル形式のセミナー
見本市と並行して開催される、インディペンデント系のフィルム・メーカーを対象とした映画製作のビジネス面に関するコンファレンス「プロデューサー・フォーラム」などのセミナーやイベントも、このAFMには欠かせないイベントとなっている。
サンタモニカのフェアモント・ホテルで開催された「Conference Series」(コンファレンス・シリーズ)は、映画製作のビジネスをテーマにしたパネル形式のセミナーだ。毎日1つのトピックに関して、各分野のプロフェッショナルが登壇して話をする。ハリウッドのインディペンデント系映画製作の最前線で活躍するプロフェッショナルから「生の情報」を得ようと、連日500人近い参加者が参加し、盛況を博していた。
各日のトピックは、以下のようになる。「ファイナンス」(映画製作資金調達) 、「ピッチ」(映画企画プレゼン)、 「プロダクション」(世界市場を念頭に置いた映画製作、キャスティング)、「マーケティング」(ソーシャルメディアを使った効果的なプロモーション)、「ディストリビューション」(配給、ネット配信)。
どのセッションも、ハリウッドでのインディペンデント映画製作の最先端に触れられる刺激的な内容だった。特に、2日目に開催したピッチのセッションでは、実際の監督とプロデューサーが2人1組となり、スタジオの2人のエクゼクティブに対してピッチを行い、その内容に関して評価してもらうという「実地講習スタイル」で行われた。
ピッチは、約10組が事前に選ばれた。中には、フランス人、ロシア人、フィンランド人、ナイジェリア人など、英語を母国語としないチームも含まれた。
■2分でプレゼン
「ピッチ」とは、「映画の企画内容を、短時間に、簡潔に、聞き手に伝えるスキル」のことである。ピッチをする人のことを「ピッチャー」ということもある。
ハリウッドでは「自分の脚本や企画を映画化したい」という脚本家や監督が無数に存在する。企画を実現させるためにはまず、大手スタジオやインディペンデントのプロデューサーに、自らの企画の良さを知ってもらわなくてはならない。しかも、企画の魅力を「短時間で」「過不足なく」「簡潔に」、多忙なスタジオ・エクゼクティブやプロデューサーに対して売り込むことが不可欠なスキルとなる。
第一段階として、プロデューサーに企画をプレゼンするためのアポイントを取り付けることであるが、これがなかなか簡単にはいかない。自らの企画を売り込もうとする人が多過ぎて、プロデューサーは相手をしている時間がなかなか取れないという事情もある。
あらゆるツテを駆使し、どうにかプロデューサーに話を聞いてもらえるチャンスを得たとしても、ピッチに与えられる時間は限られている。極端な場合、「君の企画をワン・ライン(一行の文)で説明してくれ」と言われることもあるという。多くの場合でも、プレゼンの機会として与えられるのは、せいぜい2分程だ。
その2分程度の間に、「映画のジャンル」「あらすじ」「企画のセールスポイント」などを簡潔に伝え、企画の魅力が伝わるようにしなければならない。
今回のセッションでは、各参加者がピッチをする前に、いくつかの注意点が挙げられた。まず、「やるべきこと」として、「最初に映画のジャンルを明確にする」こと。次に、「やってはいけないこと」として、「聞き手と議論してはいけない」ことなどが紹介された。
■厳しく適確な評価
ジャンルはコメディ、ホラー、サスペンス、ロブロマンスなど多岐にわたり、ピッチのスタイルも多種多用であった。
海外では幼少の頃から学校で「人前で話すプレゼンテーション・スキル」の訓練を受けており、どの参加者も堂々とビッチを行っていた。そして、各参加者のピッチが終わると、今度はエクゼクティブから「ダメ出し」が行われる。「早口過ぎて、よく聞き取れなかった」というプレゼンテーション自体に関するダメ出しや、「脚本の構成に問題がある」、「どういったジャンルの映画なのかが、明確ではない」などの企画自体に関するダメだしも行われた。
フランス人チームの行ったピッチでは、英語のハンディがあるせいか「企画自体の意図が理解できない」など辛辣な批評が寄せらた反面、話術の巧みなピッチャーには「人を引き込む、見事な話し方だった」などの賛辞も送られていた。
また、セミナーの聴講者からも飛び入りでピッチ希望者が登壇するなど、セッションは盛況のうちに幕を閉じた。
■映画関係者に必須の技術
一般に、ピッチは「企画を持つ脚本家や監督」がプロデューサーに対して行うものと思われがちである。しかし、実際には企画を請け負ったプロデューサーが投資銀行などの担当者に対してピッチをしたり、またその投資銀行の担当者が上司にピッチをすることもある。あるいは、セールスプロデューサーが、興行先の映画館主に対して、さらには、映画館主が潜在的な観客に対してピッチをすることもある。このように、ピッチはハリウッドで映画ビジネスに携わる多くの関係者にとって必須のコミュニケーション技術なのだ。
セッションの最後には、「昨年のピッチセミナーで最優秀賞を受賞した企画に、出資者が見つかりました!」と言う報告もあった。「企画が実際に映画化されていく経緯」を目の当たりにできる部分は、いかにもハリウッドならではのコンファレンスといえるだろう。
サンタモニカのホテルを貸し切って開催されたAFM2014
多くの参加者で混雑するロビー。商談にも熱が入る
会場の1つ、Fairmont Hotel
サンタモニカのFairmont Hotelで5日間に渡って行われたConference Series