【Inter BEE 2014】Inter BEE Connected 「無料配信は放送局のビジネスモデルを変えるか?」 地上波キー局ネット配信の責任者が登壇し最新事情と展望を披露

2014.11.26 UP

日本テレビの広告つきVOD(ADVOD)の概念図

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TBSはオンデマンドの売り上げが年々倍増している

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フジテレビが展開する各種の動画配信サービス

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再生回数の累計が1.7億回を越えているというテレビ朝日「ロンドンハーツ」のスピンオフ動画

再生回数の累計が1.7億回を越えているというテレビ朝日「ロンドンハーツ」のスピンオフ動画

 Inter BEE 2014の催しとして開催したInterBEE Connected。3日目(11月21日)、2つ目のセミナーは「キー局のネット配信」をテーマに日本テレビ、TBSテレビ、フジテレビ、テレビ朝日の配信担当者が登壇した。それまでのセミナーは200名ほど座れる会場が6割埋まる程度の聴講者だったのが、このセッションは満席になった上に立ち見が通路に大きくあふれ、このテーマの注目度の高さが伝わってきた。セッションの内容も濃いものとなり、会場は最初から最後まで熱気に包まれていた。
(コピーライター/メディアコンサルタント 境 治)

■地上波キー局が無料配信にどう取り組むか
 セッションに登壇したのは、日本テレビ・太田正仁氏、TBSテレビ・坂本香氏、フジテレビジョン・山口真氏、テレビ朝日・前田寿之氏。進行役は、電通総研の奥律哉氏が担当した。
 テレビ局の配信事業は、これまでは有料課金のオンデマンドサービスが中心だった。海外では放送後の番組に広告をつけた無料配信が、この数年で普通に行われるようになってきたが、日本では広告ビジネス上や著作権の問題、出演者の拒否反応などもあり、放送局も実現に力を入れてこなかった。そんな中、今年1月から日本テレビが「いつでもどこでもキャンペーン」と称して放送後の番組を無料で配信する試みをスタートし、7月からは広告をつけて配信してきた。9月には民放連・井上会長が「見逃し視聴にキー局共同で取り組むことを検討することになった」と述べ、それに続いてTBSテレビが無料配信を開始している。
 このセッションでも、「キー局のネット配信」と広いタイトルがつけられているが、主題は「無料配信にどう取り組むか」に絞られていた。200名を越える来場者の熱気も、このテーマへの注目の高さを物語っている。

■新たな"ウィンドウ戦略"を模索する各社
 最初に、登壇者から各局の配信事業の状況が説明された。TBSテレビは有料課金に早くから取組み2009年度から黒字化していた。具体的な数字は省かれていたがオンデマンド事業の成長の様子がグラフで示され、2012年度、2013年度と急増していることがよくわかる。VOD事業の成長性があらためて明らかになった形だ。無料配信も試みの段階だがスタートさせ、一カ月で500万回を越える再生回数になったという。
 テレビ朝日・前田氏は、自社の動画配信のこれまでを紹介。番組のスピンオフも含めてネットオリジナルの動画に力を入れてきたのが特徴で、放送でも人気の「ロンドンハーツ」のスピンオフ動画は特に、再生回数の累計が1.7億回を越えているという。
 フジテレビジョン・山口氏は、様々な形式で取り組んでいる動画配信事業についてマトリックスを見せて概観しながら、“左上の領域”と称して無料での番組配信に今後注力したいことを力説。海外動向を調べた末にこの分野の成長性を確信し、社内の他のセクションも巻き込むべく説得している最中だと熱く語った。韓国の同業者に状況を聞いた際、酔った末に「スマホがセカンドスクリーンと言っているようではダメです!」と叫んで酔いつぶれたエピソードが面白かった。
 太田氏は日本テレビの動画配信事業の全体を第二日本テレビからhuluまで解説。その中での新しい取組みとして、見逃し無料の意義を語った。その考え方を図解するスライドは実にわかりやすく、放送局に限らず参考になるだろう。若者のテレビ接触はこの十年で激減してモバイルにシフトする中、ソーシャルメディアやゲームなど「中毒型コンテンツ」に時間を奪われている。だからこそ「いつでもどこでも」アクセスできる場をテレビ局がつくるべきだと考えている。
 中でも、「リアルタイム視聴→一週間後までの見逃し無料配信→それ以降は月々定額のアーカイブ配信」というテレビ局にとっての新しいウィンドウ戦略の提示は、今後の放送局経営の参考にできるだろう。これまで抜けていたことになる見逃し無料配信は、若年層中心に利用されているデータが出ており、狙い通りの成果となっている。

■「広告付きの動画を様々なサービス上に置く」
 後半のディスカッションの導入として、進行役の電通総研・奥氏がいくつかの切り口でデータをスライドで見せた。議論の流れ上、若者のテレビ離れを示すものが並んだが、中でも衝撃を受けたのは2020年代に向けて各世代がテレビをどれくらい視聴するかを予測したグラフだ。例えば30代のテレビ視聴は今後10年で劇的に下がってしまう。10年後の30代はいまの20代であり、年齢を経てもメディア接触の習慣は変化しにくいことを加味して作成されている。これを見ると、高齢者が見てくれているからといって安穏としていられないことがよくわかる。
 ディスカッションでは奥氏から「ターゲットについて」「配信戦略について」「コンテンツについて」といったテーマが示され、それに沿って熱気あふれる議論が展開された。やはり日本テレビは先行している分、事例やデータに厚みがあり、太田氏が議論をリードしていく形になっていた。
 太田氏が披露した論で多いに参考になったのが、ネットでは“場”をつくらなくても、映像コンテンツをどこに置いてもビジネスになる、という考え方だ。ネット上で収益を得るにはYahooのように莫大な人を集める必要があるし、それは既存メディアと変わらない。だが、動画の場合は、広告とセットにすればどこに置いてもビジネス化できる。Facebookのように多くの人が見るタイムラインで動画が再生されればいい。今後は、広告付きの動画を様々なサービス上に置いて収益を拡大させたいという。これには山口氏も呼応して「立派な建物を建てれば人が集まると考えがちだが、これからはポートフォリオ的にとらえるべきだと思う」と述べた。
 最後に、経営戦略の中での動画配信の位置づけについて奥氏が聞くと、各氏とも「4つ」という数字を挙げ、地上波・BS・CS・ネットの4つのメディア(テレビ朝日はメディアシティも加えて5つ)を総合的にとらえるべきだと答えた。それぞれをバラバラにでなくどう統合させるか。とくにネットについては理解や認識がまだまだ薄い中、各局の中で存在意義を高めるのが四氏共通の目標だろう。

日本テレビの広告つきVOD(ADVOD)の概念図

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#interbee2019

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